表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/80

私ね、クローンだったみたい

 神南が何かを否定するかのように、首を何度か激しく横に振った。


 「私なんかのために、そんな事させられない。

 私なんて、この世に必要ないのよ」

 「どうして、そうなるんだ?

 何で、そんな事を言うんだよ。少なくとも俺には神南が必要なんだ」


 無意識のうちに口に出してしまったその言葉に、俺自身も驚いたが、神南も大きく目を見開いて、驚きの表情を浮かべている。

 しばらく、二人は見つめあったままだったが、神南は再び悲しげな表情を浮かべた。


 「ありがとう。そう言ってくれて。

 じゃあ、クローンたちの事なんだけど、どう思う?」

 「どうって?」


 突然クローンの話に戻した神南の質問の意味が分からない。それが正直なところだ。

 少し首を傾け、悩む素振りをした。そんな俺に神南が言葉を付けたした。


 「クローンって、存在がよ」

 「技術的に可能な事は分かるけど、正直なところ、そんなものが本当に存在すると言うのは、まだ信じきれていない」

 「クローンの存在を許せる? クローンは人間だと思う?」


 神南は俺をじっと見つめている。

 その瞳の奥に、何かあると俺は感じた。つまり、俺がさっき答えたクローンに対する考えは神南が意図していた答えではなく、今再び神南が聞いてきた事が、神南の知りたい事なんだ。


 クローンの存在を許せるか?

 クローンは人間か? 


 この質問の答えは神南にとって、重大なもののように感じた。

 神南が求めている答えは何なんだ?

 松岡の父親を監禁しているクローンに対する憎しみ?

 神南はクローンを否定しようとしている?


 だが、クローンが人間と同じだと言う事だけは、俺の確固たる理解の一つだ。

 たとえ、クローンを神南が否定しようとしていたとしても。


 「まずクローンは人間だ」


 その言葉に続いて、次の言葉を続けようとした時、神南の瞳から涙があふれ始めた。


 どうしたと言うんだ?

 神南の期待する言葉でなかったので、泣き出したのか?

 そんな事で、神南が泣くなんて事があり得るのだろうか?

 それとも、もっと別の何かがあるのか?


 神南の涙の理由が分からず、俺が言葉を失っていると、神南が言った。


 「ありがとう」


 どう言う意味なんだ? 話しのつながりから行くとそんなはずはないのだが、神南はクローンたちの味方なのか? 


 「あ、ああ」

 「私ね、私、私」


 何か言おうとしているが、言いにくいのか俯いたまま、神南は両手の拳を握りしめ、小さく震えはじめた。

 そんな神南を見てられなかった俺は、突然ベッドの上の神南を抱きしめてしまった。


 神南が一瞬、びくっとしたのを感じたが、俺は神南から離れず、逆にきつく抱きしめた。

 今まで接近した事がないほど、神南の顔と俺の顔は接近した。

 神南の頭を撫でながら、神南の耳元で囁いた。


 「さっきも言ったけど、言いにくい事なんか言わなくていい。

 どんなことがあっても、俺は神南の味方だ。俺は神南の事が好きなんだ」


 俺の腕の中で、神南が嗚咽を始めた。

 俺の事が好きでなくて、こんな風に抱きしめられているので、泣き出したのか?

 そんな事も考えたが、それなら俺の事を押しのけるはずだ。

 だが、神南の腕は抱きしめている俺の背中に回され、ぎゅっと力がこもった。


 俺がさらに神南を抱きしめ、胸の中から込み上げる言葉を吐き出した。


 「好きだ。好きだ。俺は神南の事が好きなんだ。どんな事をしても、俺は君を守る」


 俺の言葉が終わるか、終わらない内に神南は俺の背中に回していた腕を外して、俺の胸のあたりに掌をあて、ゆっくりと、だが力強く、俺を押しのけた。

 触れ合っていた二人の頬が離れて行き、俺の視界に神南が映った。

 涙を浮かべた神南の瞳が俺をじっと見つめている。


 「ありがとう。私なんかを好きって言ってくれて」


 そこまで言って、神南は一度天井に視線を向け、大きく息を吐き出しながら、再び俺に視線を向けた。


 「だったら、なおさら言わなくちゃいけないのよ」


 何をだ?

 俺がそんな思いで、少しきょとんとした顔つきで、神南を見ていると、神南は話を続けた。


 「私ね、人間じゃなくて、クローンだったみたい」


 俺の頭の中で、神南の言葉の意味を巡って、思考回路が迷走を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ