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入院した神南

 次の日、神南は学校を休んでいた。一日、学校に来ただけで、またお休みである。

 ちょっとこじつけではあるが、クラス委員と言う立場を理由として先生に聞いたところ、昨日の事件の影響で、中央市民病院に入院していると言う事だった。


 その話を聞き出した俺は、中央市民病院に来ている。

 古めかしい建物で、ちょっと天井が低く、元々白い色だったと思われる壁も全体的に薄汚れていて、所々は極端に異質な色が付いている。

 左右に病室が配置されていて、大部屋のドアは開かれたままで、中の様子が見てとれる。

 神南が入院しているのは311号室と聞いているので、311号室を探しながら、そんな病院の廊下を歩いて行く。


 俺の目に311号室の札が目に入った。

 その下には「神南佑梨」と名前が書かれた紙が差し込まれ、この部屋に間違いなく神南がいる事を示している。

 個室。らしい。


 ドアは閉じられていて、俺はドアの取っ手に手をかけたところで、一瞬手を止めた。

 女の子が一人入院し、ベッドで寝ている部屋に入って行っていいものか?


 「神南。平沢だけど、入っていいかな?」


 返事はない。寝ているのだろうか?

 そう思った瞬間、病室の中からドアに近づいてくる人の気配を感じた。

 神南か? とは思ったが、音の大きさから言って、男の人っぽい気がする。

 当たらなくていいのに、こう言うものほど当たるものだ。

 開いたドアからはあの松岡が顔を出した。


 「やあ、君か。残念だけど、佑梨ちゃんは今は会う気分じゃないそうだ」


 その表情はまた得意げなふふふん状態だ。

 会う気分じゃないと言うのは本当に神南の言葉なのか? 俺の心に疑念が浮かんだ。

 もしかすると、神南は眠っているのかも知れない。


 俺は開いたドアから、病室の奥に目を向けた。

 部屋の奥の窓近くにベッドが一つ。膨らんでいるところから言って、人が寝ているのは確からしいが、肝心の上半身部分はカーテンが引かれていて、顔は確認できない。


 寝ているのが神南と言うのはほぼ100%の確率だが、神南が起きているのか、本当は眠っているのか分かりはしない。


 そのカーテンの前には、椅子が三つ置かれていて、二つには見知らぬ大人の男の人が座って、俺の事をじっと見つめていた。

 警察かも知れない。俺はそう思った。


 「用があったんなら、伝えておくけど」


 今日は会う事を諦める事にした俺は鞄の中に手を入れた。

 学校からのプリントが入った封筒を取り出すと、俺は松岡に手渡した。


 「学校からの連絡事項です。神南さんに渡してください」

 「渡しておくよ」


 そう言って、にこにこ顔で松岡は俺の手から、封筒を受け取り、病室のドアを閉じた。

 俺の目の前で、神南との世界が遮断された。そんな気分だ。


 「佑梨ちゃん、この前の男の子から、学校の連絡事項だって」


 病室の中で、松岡声が聞こえた。神南は起きている感じだ。だとすると、会いたくないと言うのは神南の本当の言葉なのかもしれない。


 昨日のあれから、一体どうしたと言うのか?

 もしかすると、怪我をしていて、その姿を見られたくない。

 そう言う事なのではないだろうか? そう思うと、俺の胸が騒ぎ出すではないか。

 俺はどんな時も、神南の味方だと言う気持ちがあると言うのに。



 次の日も俺は授業が終わると、神南の病室を訪れた。

 神南はやはり俺を病室に入れてくれず、その日の授業のノートの写しだけを渡した。

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