美佳からの電話
その日の夜。
俺はいつものようにリビングのテーブルの上に、問題集を広げていた。
その横にはとりあえずスマホが無造作に置かれている。
別にスマホで何かしている訳でもないし、俺のところに電話がかかって来る事なども、滅多にない。
ただとりあえず、何かあった時にはすぐに出られるように置いているだけである。
そんなスマホが珍しく鳴った。
ディスプレイに目を向けると、美佳からの着信だ。
メールはともかく、美佳からの着信なんて珍しい。と言うか、何かあったのか?
そんな気分で、慌ててスマホを手に取り、電話に出た。
「翔琉。テレビ見てる?」
第一声がこれかよ。と言うのが、俺の感想だ。美佳自身に何かあったのかと思った俺の緊張感はテレビと言う一言で消し飛んでしまった。
「俺、マジ、勉強中」
三つの単語で美佳に返事をした。
「何、その言い方。
せっかく、教えてあげようと思ったのに、邪魔しちゃったみたいね。
そんなんだったら、教えてあげないよーだ」
「よーだ」の部分を言っている少ししかめっ面で、口先を尖らせている美佳の顔が脳裏に浮かぶ。
いつまで経っても子供っぽいかわいい奴だ。
「悪かったよ。何なんだ? 俺に教えたい事って」
「それよ。それ。
テレビのニュース見てたらさ、神南さんが」
「神南が?」
神南は狙われている。それを知っているだけに、俺は素早く反応し、上ずり気味で言った。
その事が、美佳のご機嫌を損ねたようだ。話を一度打ち切り、よけいな言葉をはさんできた。
「そうよ。翔琉のお気に入りの神南さんが」
「で」
俺は話の続きが聞きたくて、美佳の言葉をあまり頭の中で吟味せず、そう答えた。
「どう言うことよ。どうして、否定しないのよ。
翔琉は神南さんなんかに渡さないんだからね」
そこまで言って、美佳は電話を切ってしまった。
美佳の反応に少し唖然としていたが、俺は慌ててソファに向かい、リモコンを手にするとテレビをつけた
探すのはニュースだ。滅多にしないテレビのチャンネルの梯子。
俺はリモコンを右手に、テレビにくぎ付けの時間を過ごした。
そして、ようやく美佳が言おうとしていたと思われるニュースにたどり着いた。
ワンルームマンションの一室に侵入したテロリストを警察が捕えたらしい。そして、テロリストが侵入した部屋から、監禁状態にあった女性が救出されたと言うのものだ。
救出された女性の名前、それこそが神南佑梨だった。
今日、俺と別れた後、神南は一人暮らししている部屋に戻ったところを、テロリストたちに襲われ、監禁された。
しかし、神南は警察がマークしていたため、すぐに救出された。そう言うことだろう。
襲われた時はどんなに怖かっただろうか。監禁された時はどんなに心細かっただろうか。
そう思うと、俺の胸が締め付けられる。
しかし、不幸中の幸いか、その時間は短かったはずだ。
そして、無事救出された。
と言う事に、少しだけ俺は胸をなでおろした。




