俺と美佳って、クラス公認の仲だったのか?!
美佳の表情から、冗談とは思えない。
美佳は俺の事が好き?
まじなのか?
もし、そうなんだとすると、衝撃的事実だ。
では、俺は美佳の事をどう思っているんだ?
美佳の事は好きだ。
だが、それは妹みたいなものであって、恋愛感情ではない気がする。
俺が衝撃の事実に、どうしていいのか分からず固まっていると、近くにいたクラスメートの男子生徒が俺たちの横にやってきて言った。
「なんだ、なんだ、夫婦げんかか?」
「夫婦げんか?」
「違うのか? どう見ても、夫婦げんかだが。
それも、旦那の浮気が原因の」
それって、どう言う事なんだ。
こいつは俺と美佳は付き合っている。そう思っていると言う事か?
その時、神南の言葉が甦ってきた。
「一緒に下校って、寺下さんが知ったら、何か言うんじゃないの?」
あれはそう言う事だったのか。
神南も俺と美佳は付き合っている。そう思っていたと言う事だ。
「ま、ま、待て、美佳」
俺の思考は混乱気味だ。
この話の答えは見つけられそうにない。
だとしたら、さっさとこの話を切り上げるに限る。
そう考えた俺は話を元に戻すことにした。
「俺が話したいと言う相手は別に興味があるとか言うんじゃないんだ」
「じゃあ、何?」
「神南がずっと休んでいるじゃないか。俺としては、神南の様子を知りたいんだ」
「神南さんの様子を知りたいって、どう言う事よ」
美佳の口先は尖っている。
ここで、神南の事が気になるなんて、言ったら、火に油だ。
待て。
俺って、どうして神南の事がこんなに気になるんだ?
そう思った時、胸の奥に疼いた感覚が甦ってきた。
俺って、神南に惚れた?
可能性はある。
だが、そんな事、この状況で美佳に言えやしない。
「それはだなぁ、つまり。クラス委員が一人いない訳だし、困っているんだよ」
美佳の顔に明るい笑顔が戻ったのを感じた。
「そっかぁ。神南さんクラス委員だもんね。休んでいると翔琉、困るよね。
で、その子が神南さんの様子を知っているって事?」
「ああ。そうなんだ」
「ふーん。で、どんな子なの? 名前分かっているの?」
「いや、名前は分からないんだ」
そう言ってから、俺はあの女の子の姿を思い出しながら、美佳にその子の特徴を説明した。
「うーん。私の知らない子だね」
美佳は腕組みして、小首を傾げ、うなり気味に言った。おっさんかい! と言うのはおいておいて、美佳は真剣に考えてくれていそうだ。
「今から、他の教室、見に行ってみる?」
その手があったか。と言うより、思わなかったことはないが、他の教室の中をじろじろ見るなんて事はさすがにできやしない。
「他の教室の中をのぞく訳だろ?
ちょっと抵抗があるんだが」
「大丈夫よ。私が私の友達のところに話しに行くのに、ちょっとついて来たって、設定で、どうかな?」
ちょっと無理はありそうだが、他にいい手はなさそうだ。
「それで、行くか」
「じゃあ、もう休憩時間、あまりないから、隣のクラスだけ行ってみる?」
「そうだな」
俺がそう言ったのを聞くと、美佳は俺の手を掴んで歩き始めた。
美佳に引きずられるように教室の中の机と机の間を歩く俺。
「夫婦げんかは終わったのか?」
「バージンロード歩いているのか?」
冷やかしの声が辺りから聞こえるじゃないか。どうやら、俺と美佳はクラス全員の公認の仲だったようだ。
「ばかね。バージンロードはお父さんと歩くのよ」
美佳がそう言った顔は怒っている風でもなく、少し嬉しそうじゃないか。
まずい。まずいぞ。これは。
いつから、美佳は俺の事をそんな風に見ていたんだ?
思考がその一点に集中している俺を引きずって、美佳は隣の教室の中に入って行った。
が、結局、俺が探している少女はどの教室にも見つけられなかった。
神南と一緒だった少女。
神南と一緒に休んでいるのだろうか?
だが、まだ一年生とは言え、いずれ受験が控えている高校生が友達と一緒に意味も無く、学校を休んだりするものだろうか?
俺は神南の状況を知る手がかりにたどり着けないままだった。
自分が周りからそんな風に見られていたなんて、ようやく気付いた翔琉くんでした。




