表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/80

一人暮らしを始めた?

 世の中、悪い方に転ぶことが多いものだ。

 そんな事を感じずにいられない。


 覚えていなくていいものを。いや、覚えていたとしても、そのまま通り過ぎろよ。

と思いながら、声がした方に目を向けた。


 俺から1mほどの距離のところで、あの松岡が得意げな表情で、自転車から降りて立ち止まっていた。


 「あ。そうです」


 俺はお前と話なんかしたくないオーラ全開で、冷たい口調で言った。


 「こんなところで何してるの?

 まさかストーカーみたいに、佑梨ちゃんがいる僕の家を探していたなんて事はないよね?」


 図星である。まあ、ちょっとストーカーと言われても仕方のない行動だったかも知れない。


 「会いには来ましたけど、家は知ってましたんで」


 とりあえず、嘘だ。

 人を騙すための嘘はよくないが、自分を守るための最低限の嘘は許される。

 そう言う事にしておこう。


 「そうなの? でも、いなかったでしょ」


 また、あのふふふんと言う表情だ。訪ねて来たのに残念でしたぁ。いない事も知らなかったの? と言う感じだ。


 「いましたよ。鞄を持って、出かけるところだったけど」


 今度は俺がふふふんの番だ。

 同じような表情で、ちょっと上向き加減で真似してみた。


 「いたの? 何か取りに帰って来てたのかな?」


 得意げなところを打ち破られて、ちょっと焦り気味の表情で、松岡が言った。

 この表現だと、今はあの家にはいない。そう言う事のようだ。

 だとしたらだ、俺は得意になって、ふふふんと返してやったが、それは偶然のなせる業であって、あの家にいない事を知らなかった事を露呈した事になるじゃないか。


 「でも、僕の家に来たって事は佑梨ちゃんが今、ここにいないって知らなかったって事だよね」


 そう言った松岡は、また得意げな表情だ

 この松岡もそれなりに頭の回転が速いらしい。痛いところをついてきた。残念だが、そのとおりだ。


 「どうして、いないんですか?」

 「佑梨ちゃん、狙われているとかで、僕たちの家にいると僕たちを巻き込むからって言ってね、出て行ったんだよ。

 僕たちはかまわないから、今までどおり一緒に暮らせばいいと言ったんだけど、どうしてもってね」

 「じゃあ、一人暮らししてるんですか?」

 「そうなるね。どこかは言えないけどね」


 そう言った表情はまたふふふんと得意げだ。


 俺はさっきの神南を思い出した。

 徒歩で消えて行った。つまり、この近くにいると言うことだ。


 「この近くなんですよね」


 俺の言葉に、松岡はぷっと一度吹き出した後、大笑いを始めた。


 「そんな訳ないじゃんか。ここからは随分な距離だよ。

 本当に君は何も知らないんだね」


 こいつが言っている事はカムフラージュのための嘘なのか、本当なのかは分からないが、とにかく、話していると腹が立ってくる。


 「ええ。そうですね。

 ではまた」


 俺はそう言って、駅を目指して再び歩き始めた。

 いつかぎゃふんと言わせてやりたい。

 俺ははらわたが煮えくり返りそうになる思いでいっぱいだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ