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ぶつかって来た男

 笑って誤魔化そうとする俺を立ち止まって、しばらく見つめていた神南だったが、顔を正面に向けて歩き始めた。


 「そんな事より、私と歩いていていいの?」

 「どうして?」

 「この前はうちの学校の生徒たちは、ほとんどいなかったけど、今は少ないけど、ちらほらとは歩いているわよ」


 神南の言うとおり、俺たちの前に同じ学校の生徒、数人が歩いている。軽く振り返って見ると、やはり離れた位置に数人の生徒の姿が見えている。


 「確かに俺たちの学校の生徒がいるけど、それがどうかしたの?」

 「はぁー」


 俺が初めて神南を送って行ったあの時のように、大きく息を吐き出して、困ったような表情で俺に視線を向けている。


 「あの日、一緒に帰った事は寺下さんは知らないんでしょ?」

 「ああ。それがどうしたんだ?」

 「今日は見ている人がいるから、寺下さんにばれちゃうわよ」

 「ばれる?」


 これって、隠し事なのか? そんな訳ないのだが。

 そう思っていると、神南は俺に振り返り、力を込めて言った。


 「はぁー。ほっんとうに、寺下さんがかわいそう」


 その言葉、この前も聞いた。そう思って、少し立ち止まってしまった俺は神南との距離が開いてしまった。

 その距離、数m。神南の横に並ぼうと、足を速めた俺の前にいきなり男が現れた。


 「ぶつかる」


 そう思ったが、避ける余裕はない。

 俺の立場から行くと、神南の横を通り過ぎた瞬間に、男が俺の進路上に割り込んできた。つまり、向こうが故意か不注意か知らないが、俺とぶつかるような位置に飛び出してきた。そう言う事だ。


 ぶつかった瞬間、その男が「あっ!」と驚きの声を上げたかと思うと、地面に人工物がぶつかる音がして、立ち止まって目を見開いた。


 状況を把握しようとする俺。

 俺の前にはやはり目を見開いて、驚いた表情で、胸の前で何かを持つような形で両手を開いた若い男の姿があった。

 黒縁の眼鏡に、スーツ姿。会社員っぽいが、若いサラリーマンにしては口ひげをはやしているのは珍しい。

 男の視線は地面に向かっている。男の視線の先に目を向けると、スマホが転がっている。

 カバーガラスには大きなひびが入り、液晶画面も割れているようだ。


 「ああ。俺のスマホが」


 俺とぶつかる位置に突然現れただけでなく、スマホを操作しながら歩いていたようだ。

 これはこの男の人自身の責任だ。いや、それともこれでお金をとろうと言う詐欺だろうか?

 一瞬、そう思った俺は身構えた。


 そんな俺の姿を神南は数歩先で立ち止まって、見つめていた。

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