首を傾げる神南
次の日の朝、俺が電車を降りた時、駅は人で溢れていた。
理由は簡単だ。俺が乗っていた電車が途中の踏切で異常信号を検出したとかで、しばらく停車した。
結局、何も無かった訳だが、俺が乗っていた電車は5分以上、その場に停車していた。朝の通勤、通学時間帯だけに、列車の到着時刻がこれだけ遅れただけでも、駅で電車を待つ人の数は膨れ上がる。
多くの人を掻き分けるようにして、俺は渡り階段を渡って、駅舎を目指す。
俺はどちらかと言うと、中途半端に早く学校に登校している。運動部の朝練はもっと早い時間に登校しているし、普通の生徒たちはもっと遅い。
それだけにこの時間、駅のホームに俺の学校の生徒の姿はほとんどない。
階段を下りている俺の視界の先、改札口付近で見慣れた制服姿の少女が目に止まった。
腰近くまであるストレートの明るいブラウンの髪、神南だ。
一緒に登校したい。
階段を上って来る人の波を掻き分け、階段を下りて行く俺の足が速まった。
俺が改札を抜けた時、神南の後姿はすでに駅舎を出て、駅前に広がるロータリーの上にあった。
俺はクラスで一番と言っていいほど、早く教室に着くのだが、神南も俺よりちょっと遅いくらいで、教室に到着している。もっとも、一学期の最初の頃はそうでもなかったような記憶があるのだが。
俺より数十m先を歩いている神南。俺の方が足が速いので、普通にしていても、その内に追いつくことは確実だ。
だが、俺の足はいつもの倍速くらいで、動いていて、神南との距離は見る見る縮まっていった。
少しでも一緒にいたい。そんな気持ちの成せる技だろう。
「おはよう」
あと数mに近づいた時、俺は神南に声をかけた。
神南が立ち止まって、振り返った。
「おはよう」
少しにこりとした表情で、そう言ったかと思うと、すぐに正面を向いて歩き始めた。
俺は駈足で神南の横に並んで、歩き始めた。
「あ、昨日の事なんだけど」
昨日は避けられたような気がしたので、それを否定する言葉を聞きたくて、その言葉がすぐに口に出てしまった。
神南は首をかしげた。
「昨日? 昨日の何?」
「どこに行こうとしてたの?」
「何の事?」
神南はきょとんとした表情だ。全く分からない。そんな雰囲気だ。知らない訳はないのにだ。
俺は神南の意図が分かった気がした。昨日の話をしていけば、どこで私服に着替えたのか、と言う話になってしまう。きっと、真面目な神南はそれを避けたいんだ。
どんな理由かは知らないが、昨日の事はあってはならない事だったんだ。
「あ。いや、ははは」
俺はそう言って、笑ってごまかすことにした。




