俺たちを指差す理由は何なんだ?
二重ガラスで弱められてはいたが、銃弾を吹き出す爆発のエネルギーは、教室の空気を振動させるのには十分だった。
初めて耳にする銃声。
火を吹き出す銃口。
銃撃を受け、飛び散る血しぶき。
窓ガラスのすぐその先には、日常とは違う世界が展開され始めた。
遠いものと感じていた死。
それが、すぐそこに近づいてきている。
「みんな下がりなさい。窓から離れて」
そう言いながら、窓際に集まっているクラスメートたちを追い払うような仕草をしている田中先生の表情も、引きつり気味だ。
田中先生の言葉を頭の中で咀嚼しながら、視線を田中先生に向けるクラスメートたち。
目の前で展開されている信じられない光景を前に、思考が停止していたクラスメートたちに思考する力が戻ってきた。
今、起きている事が現実である事。
目の前に広がる死が、自分たちにも襲い掛かってくる危険がある事。
その事がクラスメートたちを恐怖に叩き落した。
みんなが窓から離れようとした時、侵入した男の一人が、俺たちの方向を指さして、何かを叫んでいる姿が目に入ってきた。
なんだ?
そう思った時、その男の仲間と思われる銃を構えた男たちが、俺たちの方に顔を向けて、何かをわめき始めた。
離れた場所の人の声はここまでは届かない。
俺の頭の中で、色々な男たちの声が浮かび上がる。
顔を見られた?
人がいる?
だが、全ては俺の想像の中で、浮かんではすぐに打ち消されていった。
きっと、この事件を何事かと教室の窓から見ているのは、俺たちの教室だけな訳がない。
なのに、男たちは明らかに、俺たちの教室に目を向けて、指差してさえいる。
理由はなんだ?
そんな思いで、校庭の様子を眺めている俺の横を窓際から離れて、教室の奥を目指すクラスメートたちが、真っ青な顔で走り抜けていく。
俺はまだ教壇の上に立って、校庭に目を向けたままだ。
恐怖で立ちすくんでいると言うのではなく、俺はこの事態を理解しようと立ち止まっていた。
銃撃戦の理由はほぼ分かっていた。
ここ一か月ほどの間に、この国の治安は一気に悪化していた。
どこからともなく、湧いて出てきたテロリストたちが、政府の、特に治安組織と攻防を繰り広げている。
その戦いの場は主に首都や大都市だ。
こんな地方の街でテロリストが活動する理由は希薄なはずだ。
きっと、移動中かなにかの途中に、テロリストたちが発見されたんだろう。
最初に飛び込んできたのが、そのテロリスト。
後から入ってきたのが、治安部隊。
そんなところだろう。
とすれば、俺たちを指差しているのは、テロリストたちとなる。
そのテロリストたちが、俺たちを指差してわめく理由が分からない。
「何しているのよ。危ないじゃない」
校庭の様子を見つめたままだった俺の腕を、そう言いながら引っ張ったのは俺と一緒に、このクラスのクラス委員をやっている神南佑梨だった。
腰近くまであるストレートの明るいブラウンの髪は、染めている訳ではないらしい。
俺は神南に引きずられるように教室の奥に連れて行かれた。
教室の奥からでは窓から見える校庭はほんの一部でしかなく、情勢の全てを把握することはできないが、さっきまで見ていた感じでは、治安部隊だと俺が思う勢力の方が優勢だ。
テロリストたちが制圧されるのも時間の問題だ。