こう言うタイプは大嫌いである
神南が降りる駅は5つ目の駅だった。
この辺りは俗に言う高級住宅地である。特に、山の手にはそれなりの邸宅が立ち並んでいて、駅からまっすぐに伸びる大きな通りの上り坂の先に見える家々の大きさはここからも見て取れる。
学校から駅に向かう時は、少し離れた位置を黙ってついて行っていた。だが、今は神南の横を歩いている。
「ごめんね。今日はこんな事につきあわせちゃって」
「いや、全然。それに、神南と仲良くなれてよかった気がする」
自分で言っておいて、照れくささでいっぱいだ。だが、それは本心だ。
今まで、厳しい女子だと思っていたが、意外と普通っぽいところもあって、かわいいじゃないか。
「本当にそう思ってるぅ?」
神南は俺の横から駆け出し、数歩先のところで反転し、俺に向き合って、そう言った。
目があった瞬間、俺はどきっとして、立ち止まった。
「も、もちろんだよ」
「そう。ありがとう。うれしいな」
そう言ったかと思うと、俺に背を向けた。ふわりと揺れながら回転する神南のスカート。
また、俺の胸の奥が疼いて、立ち止まってしまった。
「あのさ。どうして、私の父兄が学校まで迎えに来てくれないか、言っておかないとね」
神南は俺に背中を向けて、空を仰ぎながら言った。
「あ、ああ。でも、別にそんな事、どうでもいいけど」
聞きたい気も無い訳ではない。だが、何か深い事情がありそうだ。
言いたくない事なんじゃないか? そんな気がして、俺はそう答えた。
「私の両親は、私が赤ちゃんの時に事故で亡くなっててね。今は知り合いの方のお世話になってるの」
俺は聞いてはいけない事だったんじゃないかと、ちょっと神南に悪い気がした反面、そんな事を教えてくれた事を少しうれしく思った。
「ごめん。
そんな事を聞いてしまって。
ただ、俺も数年前に両親を事故で亡くしてしまったんだ」
俺の言葉に、振り向いた神南の目は大きく見開いていた。
「一緒だね」
親の無い者同士。そう言う絆のようなものを感じ取ったみたいだ。
「ああ」
俺が答えた時、神南の視線が俺の背後に移ったのを感じ取った。
奴らなのか?
俺は慌てて振り向いた。
そこには坂を上ってやって来る自転車が一台いた。
乗っているのは俺たちと近い年代の男子だ。
こんな平日に制服を着ていないところをみると、大学生と言ったところか。
視線を神南に戻すと、その男ににこりと微笑みを向けている。どうやら、知り合いらしい。
「佑梨ちゃん。今帰り?」
俺たちの横に自転車を止めて、その男子は言った。
「誠也さん。はい。今帰りです」
下の名前で呼び合う二人に、ちょっと俺は不機嫌な気分が湧き上がってきた。美佳の事を下の名前で呼び捨てる俺なのに。
「こちらはお友達?」
その男子は俺をちらりとだけみて、神南にたずねた。
「はい。同じクラスの平沢翔琉くん」
「はじめまして。平沢です」
相手が誰なのか、俺には分からないまま、そう言ってとりあえず会釈した。
誰? そんな視線を神南に向けたのを、神南は感じ取ったようで、この男子の説明を始めた。
「あ、私がお世話になっているおうちの息子さんで、松岡誠也さん」
神南の言葉に、松岡と紹介された男子は軽く会釈した。
「あ。そうなんですか。知り合いって、ご親戚か何か?」
俺は二人に、視線を行ったり来たりさせながらたずねた。
「いや。全然違う。僕の父親が、佑梨ちゃんのお父さんにお世話になったらしいんだ。
その関係から、僕の家で暮らしているんだよ」
「あ、そうなんですか」
「僕の父親は松岡英俊って言うんだけど、知ってる?」
鼻でふふふんと自慢げな表情だ。よっぽどの人物のようだが、俺は知らない。
「あ、すみません。知りません」
「そう。高校生程度では知らないか」
俺を小ばかにしたような口調でそう言って、何度か頷いている。
「この国のヒューマノイド開発の第一人者だよ」
「ヒューマノイド?」
「ヒューマノイドって言うのはね。人間型のロボットなんだ。それも、ロボットって感じではなくて、人間っぽいね」
そうなのか。それが、俺の正直な感想だ。
自分の事ではなく、親の事をさも自分が偉いかのように気取るこの松岡とか言う男子、こう言うタイプは俺的には大嫌いである。
「あー、そうなんすか。それはすごいですねぇ」
大げさに二、三度頷いて見せた。
松岡は俺が半分馬鹿にしている事にも気付いていないようだ。また、ふふふんと言う雰囲気で、顔を少し上にあげた。
「あ、平沢君。ここまで送ってくれて、ありがとう。
誠也さんもいるし、家、すぐそこなんだ」
神南が慌てた口調で、俺の前に立って、そう言った。
神南は俺がこの松岡を好ましく思っていない事を感じ取ったのかも知れない。
「ほら、あそこ」
神南は坂の上の方向を指さした。
松岡と言うこいつにはちょっとむかつき気味だったので、こいつから離れられるのはいいのだが、こんな悪い雰囲気の中、神南とさよならを言うのはちょっとなんだ。
そう思い、返事を返せないでいると、神南が軽く会釈して言った。
「今日は本当に、ありがとう。
じゃ、また」
そう言ったかと思うと、神南は松岡に言った。
「行こう。誠也さん」
「ああ」
松岡はまたふふふんと言う表情を俺に見せて、自分が乗ってきた自転車を押して坂を上り始めた。
「誠也さん、今日は明るいですね。
おじさま、戻って来られたんですか?」
「いや。全然進展なしらしい」
何の話だ?
俺は立ち止まって、振り返ったが、二人は俺から離れて行くばかりで、その声は聞こえなくなって行った。
ヒューマノイドの話が出てきました。
元の作品「偽りの少女」と同じ展開が起きていて、ヒューマノイド開発の松岡さんは研究所で拉致されています。




