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疼いた俺の心の奥

 俺たちが通学に使う駅は、上りと下りが渡り階段でつながっている。

 駅舎を通り抜けたところにあるホームに到着する電車に乗って、俺は帰るのだが、神南は渡り階段を渡った反対側の電車に乗るらしい。

 俺は神南から一歩ほど遅れて、階段を上って行く。


 「無理しなくていいわよ」


 後をついて来ている俺に、神南が途中で振り返って言った。

 まあ、俺としては帰りたい気分の方が大きい。だが、このまま帰って、もしも神南に何かあったら、寝覚めが悪いじゃないか。


 「いや、まあ。先生にも頼まれたし、警察にも言われたしな」


 俺の返事を無視するかのように、神南は黙って階段を上り続けている。

 納得した。

 そう言う事なんだろう。そう思って、俺は後をついて行く。


 「一緒に下校って、寺下さんが知ったら、何か言うんじゃないの?」


 階段を上り切ったところで、立ち止まった神南が言った。


 「うん? 美佳が?

 なんで?」


 確かにこの前、一緒に俺は美佳と帰ったが、あれは特別な事だ。

 朝だって、今日を除けば、一緒に登校なんて考えた事がない。

 そもそも、朝の登校は美佳の方が嫌がるだろうし、下校だって美佳は友達たちとわいわい言いながら帰りたいに決まっているはずだ。


 「はぁー。勉強は学年トップなのに、残念な人ね」


 本当に大きく息を吐き出しながら、神南はそう言って、俺に背中を向け、歩き始めた。


 「待てよ。残念とはどう言う事なんだ?」

 「寺下さんが、かわいそう」


 神南はちらりと振り返って、そう言うと階段を駆け下りて行った。


 「美佳が? どう言う事なんだよ?」


 俺は神南を追いかけるように、階段を駆け下りた。神南は俺の方に向いて、両手で鞄をぶら下げて、立ち止まっていた。

 そして、追いついた俺に神南はふふふっと言う感じで、笑みを見せた。


 学年トップの俺にはかなわないとは言え、成績優秀な神南。

 いつもまじめで、規則に厳しい神南。

 それだけに、緩んだ表情は見た事がない。

 そんな神南の突然の微笑みに、俺はどきりとした。


 「教えてあげない」


 一言、そう言って、体の向きを反転させた。ひらりと揺れるスカート。

 その時、俺は胸の奥が疼いた気がした。

 神南を送るのは単なる義務。

 そう思っていたが、今、俺の心から義務と言う言葉が消え去った気がした。

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