テロリストたちの写真
俺は目の前の警官に自分が知っている全てを正確に話した。
もちろん、奴らが乗って逃げた車のナンバーもだ。
「分かった。その番号、照会してみよう」
そう言って、警官は何かの端末を手に、俺が言った番号の照会を始めた。
少し興味のある俺は覗き込み加減に、その手元を見ていた。
「君」
俺は背後から呼ばれた。勝手に覗き込むな。そう言う事かと、俺はドキッとしながら、振り向いた。
俺を呼んだのは神南と話をしていた警官だった。
「どうも、すみませんでした」
俺は少しぺこりとしながら、低姿勢で言った。
「何の事だ?
これを見てもらいたいのだが」
そう言って、警官は俺に顔写真の束を差し出した。何だ? そう思っている俺の気配を感じ取って、警官は説明を始めた。
「こちらの彼女にはすでに確認してもらったのだが、この中に今日の男たちはいるか?」
そう言うことか。そう思って、俺は顔写真の束を受け取った。
数十名分はありそうな顔写真の束だ。
それもスナップ写真と言うものではなく、刑務所かなんかで撮られる写真のようなもので、白い壁を背景にみんな青いスモックのような服を着て、正面を向いて真面目な顔で撮られたものだ。
写真の下部には1号、2号とか番号が振られている。
「これって、前科者の写真ですか?」
俺はそう言いながら、写真を繰り始めた。警官は俺の言葉に返事をせず、ただ黙って俺を見ている。
何枚か繰った時に、俺に殴り掛かってきた男の写真があった。
日本の警察は優秀だ。こんなに早く容疑者を絞り込めるなんて。
俺はそう思いながら、その写真を差し出した。
「一人はこの男です。俺に殴り掛かってきた人物に間違いありません」
「ふむ。彼女と意見が一致しているところを見ると、間違いなさそうだな」
警官はそう言って、俺が差し出した写真を受け取った。
二人目、三人目と俺は見覚えのある写真を差し出した。
やはり神南もそう言っていたようで、警官は「間違いなさそうだ」と言って、受け取って行った。
また一枚、写真を繰った。
そこに写っていた顔に、俺は衝撃を受けた。
頭の中に甦る銃撃戦。
一昨日、校庭で治安部隊の銃撃を受けて、死亡したテロリストの一人だ。
「どうした?」
固まってしまっていた俺に、警官が言った。
視線は俺の顔と写真の間を行ったり来たりさせている。
「こいつがどうかしたのか?
こいつもいたのか?」
俺は首を横に振った。
「すみません。こいつは一昨日、学校の校庭で起きた銃撃戦で亡くなったテロリストですよね?」
俺の言葉に警官は驚いた顔をした。
「そうなのか? 覚えていたのか?」
「ええ。確か、僕たちの教室を指さしていたのと、銃撃戦の中、電話をどこかにかけようとしていたので、記憶にあるんですよ」
「指さしていた?」
「ええ。理由は分かりませんけど。
あ、なので、もうこの写真はいらないのでは?」
「ああ。そうだな。
で、他の写真を見てくれないか?」
「あ、そうでした」
結局、今日の五人は全て写真の束の中にいた。
俺が写真を確認している内に、車の番号の照合は終わっていた。
その車はやはり盗難車と言う事で、犯人の手掛かりにはならなかった。
学校を出た近くで、警官たちに取り囲まれ話を始めて、すでに数十分が過ぎた。
大半の生徒たちは下校していたが、まだ残っていた生徒や通りすがりの人たちが、俺たちの事を、立ち止まって興味深げに見ている。
パトカーが到着した時には俺たち三人だけだったが、今はかなりの人の数だ。
一時間近くかかって、ようやく俺たちへの事情聴取は終了した。
「どうやら、相手は君の事を知って襲ってきた可能性が高い。
不安だったら、送って行くが?」
パトカーの助手席に乗り込みながら、そう言った警官の言葉に、神南は首を横に振った。
その神南の表情は、いつもと変わらない硬い表情だ。襲われた事の恐怖と言うものは感じていないのか? 美佳なら、きっと泣き出しているだろうに。
「そうか。分かった。
だが、気をつけるように」
警官は神南にそう言うと、俺に視線を向けた。
「頼んだぞ」
はい?
どう言う意味?
きょとんとしている俺にはかまわず、警官はパトカーの助手席のドアを閉じた。パトカーがゆっくりと立ち去り始めた。




