待ってください??
嫌な予感。とは、この事だ。
一昨日の事件といい、昨日の事件といい、ここ数日の事件が俺にそんな思いを抱かせたに違いない。
だが、そんな事が三日連続で起きる訳などない。
首を二、三度横に振って、心の底に沸き起こった不安を打ち消した。
だが、万が一と言う事だってある。
俺の足のペースが速まった。
体から汗がにじみ出し、鼓動が高鳴っている。
遠くにあった裏門が、すぐそこになった。
裏門を出て、右に曲がった俺の視界のすぐ先に、男たちが背を向けて立ち止まっていた。
その数、5人。
男たちが壁になっていて、その向こう側は見えないが、何か乱暴を働いていると言う感じではない。
足を速めて、近づいて行く。
クマよけの鈴じゃないが、足音をいつもより激しく立てながら。
近づく人の気配。男たちが振り返った。
男たちの壁にできた隙間の先に、女の子がいるのが見えた。
神南だ。
その表情は怪訝な顔つき。そう言うしかない表情だ。恐怖を味わってはいなさそうだ。
「神南、どうしたんだ?」
俺が声をかけると、二人の男が進み出てきて、俺の前に立ちふさがった。
ポロシャツ姿で、見た目は普通だ。
だが、俺を睨み付けているところなんか、敵意全開である。
「あー。何のつもりですかぁ?」
俺も敵意全開で言った。
「お前には関係ない」
「いや、あいつ、俺のクラスメートだし。
クラスメートが訳の分からない奴に絡まれているのを、見過ごせませんよねぇ」
そう言って、俺は一歩引き下がり、間合いを確保すると、両手の拳を握りしめた。
俺に向き合っている二人だけでなく、神南の前に立っていた三人も、事の成り行きを見守ろうと、俺に視線を向けている。
神南には誰も注意を払っていない。
その事に気付いた神南が俺たちに背を向けると、さっさと早足で、立ち去り始めた。
その事に最初に気付いたのは、神南がいる方向に顔を向けていた俺だ。
ここで時間を稼げば、神南を逃がす事はできる。
とは言え、走って逃げろよと言いたいところだ。
「あんたら、何者なんだ?」
俺に注意を引き付けたままにしておこうと思った俺は、とりあえず、男たちの正体をたずねる事にした。
共通の話題の無い者同士が、無難に天気の話をするようなものだ。
こんな状況では、天気ではなく、こう言うのが鉄板だ。
「お前には関係の無い事だ。
邪魔するなら、力で排除する」
「いい度胸といいたいところだけど、たった一人の男子高校生相手に、5人ですか。
それって、卑怯って言うんじゃないですかぁ?」
「俺たちには時間が無いんだよ」
そう言って、いきなり殴りかかってきた。
速いパンチだ。
俺は体を男の拳をかわし、男の鳩尾目がけて、右こぶしを繰り出した。
硬い手ごたえだ。鍛えた肉体。
「うっ」
男はうめき声を上げて、二、三歩後退したが、致命的ダメージではなさそうだ。
他の男たちもそうだとすると、ちょっとこれは苦しい戦いになりそうだ。
俺の背後に回り込もうとしている男の姿が、視界の片隅に入った。
背後まで取られれば、さらに状況は悪化する。
背後に回ろうとしている男に目を向けようとした時、立ち止まってこちらを見ている神南に気付いた。
「何している、逃げろ」
こいつら相手では、こっそりと逃がしてやる余裕はない。
そう悟った俺は、立ち止まって俺たちを見ている神南に叫んだ。
「神南さん、待ってください。
お願いです」
俺の耳に、信じられない言葉が届いた。
「待てぇ、こらぁ」が相場だろ?
三人の男たちが神南目指して、駆けて行くのが見えた。




