事件は突然やって来た(挿絵あり)
某サイトでアップしていた「偽りの少女」を全面改稿して、アップします。もはや、原型とどめていないくらいなので、新作? と言っていいかも知れません。
感想などいただけれたら、うれしいです。
よろしくお願いします。
目の前の数学の教科書は、教室の窓ガラスを通して差し込んでくる9月初旬のまだ強い陽光でまぶしいまでに、その白さを強調している。
当然、俺の体にも陽光は降り注ぎ、半袖のシャツから出た腕にじりじりとして刺激を与えている。
南に面した教室の窓寄りの席と言うのは、この時期は考えものである。
「間違い」
中年で少し細い体型の田中先生の声に、俺は視線を黒板に向けた。
田中先生は次に誰を当てようかと、教室の隅々まで視線を動かしている。
もちろん、自信が無ければ目を合わせなければいい。俺としては、当てて欲しいと言う事は全くないが、当てられてもかまいやしない。
そう思っていると、田中先生と目が合った。
「学年トップの平沢の出番かな?」
確かに俺は高1になってからの一学期中間、期末試験と学年トップの成績だ。
だからと言って、学年トップと言う冠は止めてほしいところだ。
「はい」
そう言って、俺はゆっくりと黒板を目指して歩き始めた。
教室の何人かの生徒たちが、そんな俺を目で追っている。
黒板までのほんのわずかな道のりに、俺の幼馴染 寺下美佳がいて、俺が横を通り過ぎる時にぽそりと言ったのが聞こえた。
「学年トップ。いいんだぁ」
俺が目を向けると、少し口先を尖らせて、横を向いた。
その瞬間、美佳の黒く長いストレートのポニーテールが揺れた。顔をそむけてしまったので、今は見えないが高くも低くもない鼻と少し垂れ気味の大きな目はフィットしていて、俗にいうかわいい部類に入る事は確実だ。
再び視線を前に戻して、歩いて行く。
田中先生は俺のために、黒板の前を開けて、教室のドア側に寄って、俺を見ていた。
ちょっと、待たせてしまったかも知れない。
別に主人公はゆっくりと登場と言う気分に浸っていた訳ではないので、俺はちょっと足を速めた。
黒板の前に立つと、チョークを手に取った。
カツン。
俺の手が握っているチョークが乾いた音を奏でた。
頭の中ではその音が断続的に続いて行く。
そんな俺の頭の中に浮かび上がったイメージをぶち壊す音が窓の向こうから轟いた。
車の事故?
爆発でもなく、何かがぶつかったような音だ。
俺が何事かと窓に目を向けた。
俺たちの教室は1階にあって、校庭が見渡せる。
正門の鉄の扉を突き破って、自動車が校庭に突っ込んで来ていた。
止まろうとしないところを見ると、事故と言うより暴走だ。
しかし、鋼鉄の門を突破したのだ。
車の損傷も激しい。
フロント部分は大破していて、車の車種を特定できないばかりか、蒸気を噴き上げているところを見ると冷却系も損傷していそうだ。
タイヤもパンクしているのか、蛇行も激しい。
もう、止まるしかないだろう。
校庭で体育の授業を受けていた生徒たちも立ち止まって、その車に目を向けていた。
よたよたしながらも、止まらない車が校庭の中ほどまで来た時、破壊された校門の左右から次々に新たな車が入ってきた。
何かの抗争か?
最初に校門を突破してきた車は前後を敵に挟まれたための窮余の策か?
俺がそう思った時には、クラスメートたちはすでに窓ガラスにへばりついて、何が起きているのかと興味深げに覗き込んでいた。
最前列のクラスメートたち。
その背後にもクラスメートたち。
さらにその背後に立とうと、クラスメートたちが押しかけ、何重にも生徒たちの列ができた。
教壇と言う一段高いところにいる事と、180cm弱と言う身長のため、そんな生徒たち越しに、俺には校庭が見て取れる。
「何事だ」
田中先生も駆け寄り、生徒たちをかき分けて、窓の最前列に立った。
「緊急連絡。校庭に不審者が侵入しております。生徒たちは教室から出ず、身の安全の確保を図ってください。
繰り返します」
黒板の上方に取り付けられているスピーカーから、緊急放送が聞こえてきた。
一瞬、俺や教室の中にいたクラスメートたちの視線が、スピーカーに向かった。
「見て!」
女生徒の誰かの声がした。再び、みんなの視線が校庭に向かった。
最初に突入してきた車から、次から次に男たちが飛び出して、俺たちがいる校舎目指して、走り始めていた。
その針路を塞ごうと、後から乗り入れてきた車が速度を上げて、左右から校庭を駆けている男たちを包囲しようとした。
「おい、あれってマシンガンじゃねぇよな?」
まじかよ? それって、ヤバすぎるだろ。
俺も窓際に近寄りながら、視線を凝らした。
「あれもピストルなんじゃね?」
別の声がした瞬間、銃撃音が聞こえてきた。
*sanpoさんから、イラストいただきました。
ありがとうございました。再び、感謝、感謝です。