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エピローグ:対艦殺し 1

「はぁ、この任務最重要機密ってことじゃなかったか?」

「ああ、その通りだ。これは最重要機密の任務ですことよ、ジェイス」


 隣からアサルトライフルをだらしなく持ったマイスの声を聞きながら、船に備え付けられた手すりに頬杖をつき、ジェイスが気の抜けたため息を出す。

 田舎の農村から、人生一発勝負名声とともに出世して富を築いてやるぜ、と意気込んでマギアクルス最大の勢力を誇る魔術連合軍に志願し、様々な幸運の元、特殊任務に参加するほどの地位を得たのに今やっている仕事ははて何か?

 船周辺の監視である。

 それも今乗っている船を中心とした周辺十キロに超広範囲特殊結界を張っていて、おまけに周りには巡洋艦十隻が囲むように鎮座ましましているのだ。これでは誰もこの海域に侵入してくることは叶わないし、魔獣の類もすぐに蜂の巣である。

 これでは田舎の農村で家畜の様子見をしていた頃と何も変わらないような気がしなくもない。一体自分がやっていることになんの意味があるのか。ジェイスにはこれっぽっちもわからなかった。


「でも、ここ出るらしいぜ。大昔に沈んだ数々の貿易船の亡霊たちが。そこんとこ考えると、今俺たちがやっていることにも多少は意味があるんじゃないか?」

「あのな、今は昼間だぞ。それにそんなもんが出てきたら俺たちの手どころか、今ここにある全戦力で叩きに行ったって敵わないよ。なんせ相手は実態のない幽霊なわけだし」

「はは、違いねぇ」


 はははと、背伸びをしながらマイスが笑う。

 マイス・マルドナル。

 ジェイスと同じに任務に就くことの多い、軍の中で一番気の許せる友人だった。年齢もジェイスと同じ二十代前半だったことからすぐに打ち解け、今では非番の日には一緒によくでかけるほどの仲だ。


「っと、そろそろ見回りに戻ろうぜ。一応与えられた仕事はしておかないと予算出してくださってる連合各国の皆様に申し訳が立たないし」

「だな。さて、さっき解除したばっかりだけど、また遠見の魔術かけるか」


 言って隣で詠唱をし始めたマイスに続き、ジェイスも詠唱を開始する。


「我が目は神の奇跡を帯びし、祝福された目である。ゆえに神に仇なす者の不正暴き、罪をこの目に焼き付けよう。さればさらなる神のご加護を約束されん。《罪見破る天恵の目》」


 瞬間、体から僅かに魔力の抜ける気怠い感覚に伴って視力が大幅に向上し、今までぼやけていた海域が見えるようになった。


「ま、遠見の魔術使っていくら周り見ようとそうそう異常なんて見つからないわな。むしろこれは見つけること自体困難というかなんとうか」

「違いない。こんな異常なくらい警戒されちゃあ、誰も近づこうなんて思わないよ。百戦錬磨のテロリストだろうが、賢人だろうが入った瞬間に消し炭だからな」

「そりゃ、当たり前だろう。えーとなんだっけ? 今回の任務内容」


 ふざけているのか、それとも本当に忘れたのか。それは定かではなかったが、まあ話すことも何もないし、話を引き延ばすにはちょうどいいかと、一応は監視の目を緩めず、暇つぶしがてらにはジェイクは話し出す。


「あれだ、今回のはフィロソフィアと魔術連合の共同出資によって研究開発をしている新型電磁投射砲(レールガン)の実証試験、それの護衛だよ」

「ああ、そういやそんな任務だったけ? 確か、電力供給システム内に雷の魔石を使用して発電能力を向上させ、これによって生まれた過剰電力を船の電気系統や推進機なんかに回すっていう」

「それだけじゃないよ。使う砲身や弾頭だって魔法障壁で特殊加工することによって砲身内部の摩擦や耐熱限界、電気抵抗によって起きる制約の底上げして、射程範囲の向上や威力を上げているんだ」

「へぇ。よくもまあそんな詳しいもんだ。何、そんな兵器マニアだったの?」

「ふふふ、俺の田舎にはないからな。気になるんだよ」

「はいはい出ました。うちの田舎にはない発言。そういやお前はなんでもかんでも珍しがるくせがあったな」


 呆れた、とばかりにマイスの声にため息が混じる。


「仕方ないだろ、ほんとに何もなかったんだから」


 子供の頃の記憶にある時間が止まったかのようなあのある意味普遍的な村。今思えばよくもまあ十代後半まで過ごしたものである。必要に駆られなければ調達しないという極限まで無駄を排斥した考え方。今思うと心底ありないと思う。


「おい、ジェイス、ジェイス!」


 不意に思い出した故郷の記憶に意識を持っていかれていたのか、突如として上がったマイスの声にハッと意識を取り戻すジェイス。


「ど、どうしたんだ? もしかして亡霊でも見つけたとか?」

「バカ、そんなんじゃねぇよ! 見てみろ、あれ」

「――なっ」


 言ってマイスが指さす方を見ると、そこにはあり得ないものが移っていた。


「なんだあれ、漁船か」

「見た目からするとそうだろう!」


 そう。マイスとジェイスの目に映ったのは何の変哲もない普通の船だった。それも船の甲板部に網が置いてあることからおそらくは漁船。

 それがこちらに近づいてくるところだった。


「おいおいマジかよ……どこの誰かは知らんがここは結界内部だぞ。なんでそんなとこに漁船なんかがいるんだよ」

「多分、漁だよ。陸地から結構離れてるし遠洋漁業とかやってる人じゃないのかな。だからここが立ち入り禁止海域って知らないんだ」

「いやいや結界張る前にこの海域に無線や魔術で呼びかけてたじゃねーか」

「何らかのトラブルで聞こえなかったんだよ」

「ッ、面倒な。おい、ジェイス。俺はちょっと上の方に連絡しとくから見張っててくれ」

「はいよ」


 まったく面倒である。

 つまらないはつまらないで苦痛ではあるが、かといって2人とも面倒が好きなわけではないのだ。

 程なくしてマイスが上に連絡したこともあってか、勧告がスピーカーから流れ始めた。


『そこの未確認船舶、直ちに航行を止め、こちらの指揮下に入りなさい。さもなくば当方に武力的措置をとることもいとわない』


 大音量で流れる停止勧告。

 さすがにここまではっきり言われれば止まらずにはいられまい。でなければ砲弾一発で船はおしゃかだ。


「「ってはぁ!」」


 事前に打ち合わせしていたとでもいうように、船を見ていたマイスとジェイスの口から驚きの声が漏れた。

 それもそうだ。なんせ勧告を受けたばかりの船がいきなり加速してこちらに向かってきたのだから。


「おいマジあの船何考えてんだ!」

「沈めさせられるぞ」

『警告する当方――』


 再び発される停止勧告。しかし、それを聞いてもなお、小さな漁船は速度を緩めない。


「あ、終わったわ。あの船」 


 あちゃーと、ため息交じりに顔に手を当て、マイスがそう漏らした瞬間、砲台の音が響き、船に直撃した。


「やっちゃったか」 


 所詮姿すら見たことのない他人ではあったが、それでも目の前でこんなことをされると目覚めが悪い。きっと乗っていたのもテロリストなどでは断じてない漁師か何かに百パーセント違いない。


「あー、目覚めの悪いもん見ちまったな」

「そうだな」


 どこか沈んだ気持ちで再度なんとはなし大破し、僅かに燃えている船に視線を移し、何かが飛び出たのをジェイスは確かに見た。


「おい、マイス今の!」

「あん? 今のって――」


 マイスの言葉を遮るように突如として黄金の光がやや曲線を描いて横に伸びていく。とてつもない長さである。

 その僅かに曲がった様はまるで鎌のよう。そしてその発生源となっているのは人型の何かだった。


「――ッ……!」


 白い骸骨が見えた。黒い服装に、赤い帽子。そして辛うじて窺えた相貌は――


「髑髏……」

「死神」


 ジェイスの呟きに続き、マイスが漏らす。

 そう。それは亡霊など生易しいものでは断じてない、具現化した死のようなものであった。

 瞬間、船が大きく揺れた。

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