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住み着いた災厄1

 人とは忘れっぽいものだ。俺はつくづくそう思う。

 昨日(まだ一日も経っていないが)あんな非常識ことがあったってのに俺は特に気にも留めず今こうやって普通に朝飯を食っている。

 もしかしたらあれは夢ではなかったのか。今ではそう思えるくらいだ。というか夢と思いたい。

 昨日のことについて気にする必要も特にない。あんな悪夢じみたことは忘れて然るべきなのである。


 ―――いや、忘れてはいけないこともあった。

 

 しかしあのクロノスという少女、人の家の窓ガラスを割ってそのまま帰ったりで後処理が大変だった。

 そういえばクロノスは今日会いに来るとか言っていたな。

 冗談じゃない。あいつと関わっていたら命が何個あっても足りなさそうだ。

 でも、クロノスが正直可愛かったのは事実だ(見た目だけは)。中学の時の女子で比較してもあそこまでレベルの高い女子はいなかった。

 とまあ、良かった点と言ったらそこだけだろう。

 俺はそんなことを考えながら朝飯を食べ上げ、食器の片付けに取りかかる。それから洗った食器を乾燥機に入れ、再びリビングに戻ると、 


「あ、クロードおはよう」

 

 ズドンッ。

 

 俺は漫画みたいに盛大にコケてしまった。


「な、なんでいるんだよ!」

「昨日来るって言ったじゃん」

「いや、確かにそうなんですけど……」

 

 いきなりすぎんだろ。いくらなんでも。


「今日からちょっとの間お世話になるね。よろしく」

 

 見るとクロノスの横に茶色い大型のトランクが置いてある。

 なにそれ?

俺がトランクを見ていることに気づいたのか、クロノスが「ああ」と言って、


「それ私の荷物だから」

「荷物? なんで」

「さっき言ったじゃん。お世話になるって」

「は?」

 

 も、もしかして……こいつ、


「俺の家にか?」

「当たり前」

「うそだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 俺の絶叫が近所迷惑になるくらいリビングに響き渡る。

 なんで、なんでこうなるのっ!


「そんなに叫ばなくてもいいじゃん。まあ、私みたいな美少女と一つ屋根の下っていうのがうれしいのわかるけど」

 

 自分で言うな。自分で。


「そうじゃねえ! なんでいきなり俺の家に泊まるんだ!」

「私、こっちに来たばっかでこっちのお金持ってないし、それにクロードの家なら宿泊料いらないから」

「ふ、ふ、ふざけんなあああああああああああああああ!」

「出てけ! 俺の家はどっかの格安ホテルじゃないんだ! 住む場所くらい自分で準備しろ!」

「あ、そういうこと言うんだ」


 パチンッ。

 クロノスが何故か右手を挙げ、指を鳴らす。

 次の瞬間、いきなり手首を痛みが襲ってきた。


「いででででででででで! ちょ、タンム! タンム!」

 

 痛みを堪えきれず叫ぶとの手首を締めていたブレスレットがちょっと緩み、


「なら泊めてくれる?」

 

 クロノスが俺の顔を下から覗き込んでくる。


「あ、ああわかった! もう何日でも何年でも住んでいいから早く止めてくれ!」

「よろしい」

 

 言うとクロノスはまた指を鳴らした。

 するとブレスレットの締め付ける力がなくなり痛みが引いてきた。


「……くっ」

 

 こいつ最悪だ。

 無理矢理言わせやがった。

 クロノスは俺の口から許可が出たのに満足したのか、棒立ちの俺を無視して自分の荷物をリビングの隅っこに置き、ソファの中央に陣取り、横になりやがった。 

 まるで自分の家のようだな、オイ。


「ていうかグール狩りとやらには行かないのか? そのために俺にこの契約の魔法だかがかけられたブレスレットをはめたんだろ?」

「まだグールは現れてないよ」

「は?」

「グールがしょっちゅう出るわけないでしょ」

 

 そんなこと言われたって知らねえよ。


「そんなわけだからもう少しゆっくりしてていいよ」

 

 そういうとテーブルにあったチャンネルを手に取り、テレビを見始めた。


「………」

 

 ああ、なんて身勝手な女だ。

 こちらの都合一つ考えちゃくれない。

 俺は気分がどっと重くなった。

 

 

 

 俺はリビングを占領されたのであの後すぐに自室に戻り、ゲームをしたり漫画を読んだりして時間を潰していたら、気が付けばいつの間にかもう十二時過ぎになっていた。

 腹減ったな。飯でも食べるか。

 確かキッチンの戸棚にカップラーメンがあったな。めんどくさいからそれで済まそう。

キッチンに行くべくリビングに向かうとクロノスがソファの上で横になりながらスナック菓子の袋片手にテレビを見ていた。  

 ちょ、ソファの上にこぼれるからやめろ。

 よく見るとソファの周りにはスナック菓子の袋が散乱している。

 そして俺はその袋に見覚えがある。

 この前スーパーで安売りしていたので休み中食べようと思って買い置きしていた物だ。


「おい、それどうした?」

 

 俺はわかっていながらもクロノスに質問した。


「あ、そこの戸棚に入ってた」

「入ってたじゃねえ、入れておいたんだ!」

「どっちのしたって同じじゃん」

「うっさい! 人の家の物勝手に食いやがって!」

 

 そこで気づいた。

 今、クロノスが食べている物に。


「おい、それ」

「ん?」

 

 それはこの前、兄さんが仕事先で買ってきた地域限定のクッキーじゃないか。


「ちょ、おま、何食ってんだ」

「何って、お菓子」

「んなこたわかってる」

 

 それ今期のアニメ見ながらおいしく食べようと思ってたヤツだぞ。


「よこせ」

 

 クロノスの手からスナック菓子の袋を強引に取り上げる。


「あっ」

「…………」

 

 一足遅かった。

 袋の中にはもはや粉末状のスナック菓子と呼べるかどうかも怪しいものしかなかった。

 俺は袋を下に向け、その粉を口に入れる。

 ……うん。味しない。


「ま、まあ、また買えばいいじゃん、ねっ」

 

 駄々をこねる子供を諭す母親のようにクロノスが言ってくる。

 お前はまず勝手に人の家の物を食べてしまったことを俺に謝れ。


「……おい、なんか言うことはないか」

「なんかって………あっ!」

 

 クロノスは何かを思い出したように手を叩いた。そうだ。まず、言わなけりゃいけないことがあるだろ。


「これ味微妙だったから次からは買わない方がいいと思うよ」

「余計なお世話だ!」

 

 人のモン勝手に食った挙げ句、味の評価かよ。

 いい加減謝れ、と言おうと思ったが、ここで俺が無理矢理言わせても意味はない。こういうのは自分から言わせて自分の非を気づかせるのが一番いいんだ。


「他に言うことあるんじゃないか」

「ない」

「あるだろうが! 人ん家の物勝手に食っといてお前は謝りもしねえのか!」

「え、なんか私わるいみたいじゃん、それ」

「悪いだろうが!」

「はあ、まったく食べ物一つで情けない。お母さんはそんな子に育てた覚えはありません!」

「お前いつから俺のオカンになったんだよ!」

 

 …………駄目だ。会話にならない。それになんか、頭痛くなってきた。

 俺はこれ以上粘ってもこのバカから謝罪の言葉の一つも戴けないと悟り、戸棚からカップ麺を出してお湯を入れて自分の部屋に戻り、寂しく麺を啜った。

 ……くそ、あのスナック菓子、楽しみに待ってたのに。地域限定なんだぞ、まったく。

 そもそもだ。なんで俺の家に来る? 接点と言ってもただ百五十円を貸した(正確にはせびられた)だけで、他に接点はないだろ。

 それに家に泊まってくれるのがただの普通人の美少女ならいい。だが、見た目がよくても大剣振り回したり、リビングの窓ぶっ飛ばしたりする異世界人はお断りだ。

 俺はゲームとか漫画、アニメ、ラノベとか好きな方だから世界が異世界との界交を始めると聞いた時は胸が躍り、アニメとかでいるような異世界人の美少女とお知り合いになれないかなぁなんて考えたりもした。だからこういう美少女がいきなり家に来るというちょっとした非日常に憧れを抱いていたと言えば嘘じゃない。

 しかしだ、連邦の量産型モビルスーツ並にたくさん日本いる普通の学生かつ、善良な一般市民の俺がいきなり棒人間的な怪物に襲われたり、その怪物倒す手伝いをしろと言われて腕輪はめられて強制的に参加するハメになったりと色々最悪だ。

 あのクロノス(バカ)と会ってまだ一日も経っていないが、あいつが俺にとって害悪なのは考えなくてもわかる。

 ここで「ふざけるなバカ女! 誰がお前の手伝いなんかするか! さっさとこの腕輪外せアホ!」なんて言えたらいいんだろうが、言ったら言ったで酷い目に遭うことは目に見えているのでここは覚悟を決めて一週間あの棒人間狩りを手伝ってやって、さっさと解放されるのが得策だろう。

 幸いにも今は春休みだ。暇はある。それにあんまりこういうことは思いたくないのだが、俺はその………友達が少なく、竹中以外に遊びに誘ってくれるヤツが……いない。だから普通に春休みを堪能しているヤツらよりかなり暇というわけだ。なので一週間ぐらい潰れても別段構わない。

 ただ、一刻も早くあいつから解放されるのが今の俺の願いだ。

なんかあいつからはめんどくさい臭がプンプンするからな。

 そんなことを思いながらベットに横になると腹が満たされたからか急に眠くなってきた。


「ほんと、どうなるんだか」 


 それだけ呟き、俺はいつの間に寝てしまった。



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