日常の中の非日常 7
部活をしていないのか、はたまた部活が休みなのか。ホームルーム直後の校門は案外人が通るもので想像以上に賑やかだった。
そんな中、下校する生徒の流れの邪魔をしないように校門の端の方で一人ひっそりと待っていると、やっと待ち人が来た。
「あら、もう来ていらしたんですの? 思ったより早かったですわね」
「それが待たせた人への言葉ですか………。まあいいや。さっさと行こうぜ。こんなことにあまり時間をかけたくない」
「同感ですわ。わたくしも早く終わらせたいですから。でないと、生理的に限界がきてしまいますから」
「お前、遠回しに俺が生理的に無理だと言ってるよな」
「当然ですわ。何を当たり前なことを」
「………」
ま、まさか女子に生理的に無理だと言われるとは………
俺のことを嫌う理由は成宮から聞いて大体は分かっているのだが、言われたら言われたで堪えるものがあるな。うん、わりと本気で。
「あら、黒乃さんがいませんわね」
と、志水がまるで俺の周囲を見回しながら不思議そうに訊いてきた。
「ああ、あいつなら先に帰ったぞ」
一応事情は話したが、「別に用もないし、行かない」との。俺を巻き込んだ張本人が用がないから行かないとはずいぶんな言い様だ。俺だって個人的に用なんてあるわけじゃないんだから一緒に来るぐらいはいいだろうに。薄情なやつだ。
「そうでしたの。なら好都合ですわ。さすがに彼女といたら朝野さんとの比にはならないくらいロクなことがありそうにありませんもの」
……うん。やっぱりクロノスを連れてこなくてよかったな。さすがに嫌悪感丸出しで同伴されちゃ俺としてもさすがにいたたまれなくなる。
ま、二人だけだが結果オーライだな。
それから俺は多少落居心地の悪さを感じつつも、志水と二人で入界管理局への入り口のある字源市中心部に向けて歩き出した。
気まずい。
なんで気まずいなんて思うのは簡単だ。要は会話がないからだ。
この前、成宮と志水とで入界管理局に向かう途中も会話なんてものはあまりなかった。が、事ここに至って三人から二人になるとあの時とは比べものにならない気まずさがある。加えて志水が俺と必要以上に距離を空けているのもまた要因の一つでもある。
ま、だからといっても俺から話しかけることなんてしない。なんせ話題がないからな。
そんな気まずさとの葛藤を繰り広げること……えーと何分くらいだっけ? まあいいや。とにかく俺たちは字源市中心部に差し掛かっていた。
見た所、この前と違いグールの一件で壊れた道やビルの改修、舗装は一通り済んではいるようだが、損傷の大きな建物はまだ工事が間に合っていないのか、作業員が行ったり来たりしている。
それだけクロノスとグールの戦闘は凄まじかったことを物語っているのだろう。
我ながらよく死ななかったもんだ。あー、今思うと怖い怖い。早く入界管理に行って用を済ませて帰ろう。じゃないとまた命の危機に関わることに巻き込まれることになりそうだ。
ここに来てさらに早く帰りたい感が押し寄せてきたが、ここで帰るわけにはいかないので少しばかりの時間短縮とばかりに歩行速度を上げたところで、俺はその足を止めた。
いや、止めざるを得なかった。
「―――へ?」
それも当然だ。
なにせ――――――
「動くな! お前ら手を上げろ!」
道路を挟んで向こう側にある銀行の前に黒いマスクを被り、小銃を構えた男がいたのだから。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
すぐさま道路脇の茂みにうずくまる俺。
なんなの! 一体なんなんですか! いきなり銃持った男って! てか、あれ完全に銀行強盗ですよね!
「何をなさってますの?」
と、うずくまる俺とは対照的に未だ何のアクションも起こさず、堂々と立ったまま志水が見下すような視線を向けてきた。
「何って、お前も早く隠れろよ。撃たれるぞ」
「心配いりませんわ。どうせこの世界の火器なんて対物理障壁でどうとでもなりますもの」
……そうだった。こいつは魔術師なんだよな。確か志水の言うとおりただの銃なんて気にするまでもないのだろう。
――――でもしかしだ、
「お前が立っていると俺まで見つかる。早く隠れてくれ」
俺は普通の人間なわけで銃なんて物を使われたら当然死ぬ。だからなるべく隠れてやり過ごしたかったのだが、
「おい! そこのお前! お前もこっちに来い!」
しかし、俺の願いは志水の応答を聞く前に儚く打ち砕かれた。
男の怒声が響き、駆け足で何かが近づいてくる音が聞こえる。
くそ、茂みの中からじゃ分からない。
「なっ、ここにもいたか! お前も来い!」
真上から声が聞こえ視線を移すと銀行の前にいた男と同じ格好をした男が立っていた。
チラッと視線を外し、銀行の前には先ほどの男がまだ立っている。そして目の前に同じ格好の男。
……まさかの複数犯、ですか………
そうして俺は志水せいで優しい優しい覆面さんたちに志水と一緒にこれまた優しく銀行内に案内されたのだった。
……銃を突きつけられて。