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日常の中の非日常 3

 クロノスの三文芝居が終わるを待ちながら少しの間ラノベを読んでいたが、さすがに段々イライラしてきたので俺から今日の部活の終了を告げ、俺とクロノス、竹中の三人は下駄箱に向けて特別教室棟三階の渡り廊下を歩いていた。


「まったくまだ時間早いからいても良かったのに」


 クロノスが不満そうな顔で言う。


「早くねえよ。五時半だぞ、五時半。俺だって家のこととか色々しなくちゃいけないから忙しいんだよ」

「忙しいって………家に帰ったらアニメ見るかあの可愛い絵のついた本読むくらいしかしてないでしょ」

「うっせ黙れ居候。お前の分の食事もちゃんと作ってやったりしてるだろうが」


 家事のひとつもしないくせになんとも態度がデカいやつだ。お前は家主に対してもっと謙虚な態度をとれないのか。


「まあまあ二人とも落ち着いて。それにしても相変わらず長いよね、下駄箱まで距離」


 竹中が話を変えるように唐突に話を変える。


「仕方ないだろ、写真部の部室は学校の中でも辺境中の辺境にあるんだから」

「ま、確かに辺境って言えば辺境ではあるね」

「でも私はいいと思うよ。なんか秘密基地っぽくて」


 部活動紹介に普通に載ってたんだが、秘密基地。


「あ、確かにそれっぽくはあるかな」


 そんな感じで竹中とクロノスとどうでもいい会話をしつつ、二階へと通じる階段へと差し掛かった時、


「ん」


 見覚えのある顔が下の階から上がって来た。


「なっ、朝野さん!」


 それはお世辞にもあまり会いたくはない人今の所トップテンに入る志水だった。

 思わず頬が引きつるのを感じたがここは一応顔見知り、声くらいはかけないと気まずい。


「よ、よお」


 軽く右手を挙げて挨拶程度に声をかける。


「あら、朝野さん。一応とはいえ、このエリアの管轄を任されているというのに友人と楽しく放課後を過ごしているなんて……ちゃんと役割を果たす気はありますの?」


 開口一番遇ってそれですか………。相変わらず見た目と違って口が悪い女だ。


「一応、というか俺も普通に学生なんでね。別に放課後誰と話してようがお前には関係ない」

「あなた本当に自覚ありまして? このエリアはわたくしたちの管轄区ですのよ。もしものことが起きたらどうするんですの!」


 いや、もしもの時俺にどうしろっていうんですか。てか、ぶっちゃけもしものことが起きてもなんにもしたくないんですけど。


「ああ、もうだからわたくしは反対だったんですわ! こんな訓練も何も受けてない素人と同じ管轄区なんて!」

「俺も好きで任されたわけじゃないけどな」


 俺の声を軽くスルーしつつ、少しの間額を押さえていた志水は竹中の後ろにいたクロノスに気づいたのか、視線を向けるといきなり顔をしかめた。


「やっぱり彼女と一緒にいるだけにあなたもロクな人ではありませんわね。まあ、別にあなたが何をしてようと興味はありませんけど、わたくしと成宮さんの邪魔はしないように」


 なぜか俺の方を向いてそう言い、志水はスタスタと俺たち三人の横を通り過ぎていった。その際にクロノスを一瞬、寒気を感じるほど冷たい目で見ていったのを俺は見逃さなかった。俺にはその目が冷たいながらもどこか並々ならない憎悪のようなものが宿っているように感じた。


「えーと………なんの話?」


 志水が去った後、少し間をおいて竹中が気まずそうに訊いてきた。あ、ヤベ。どう説明しよう……


「あー、えーと……あれだ、学校の清掃についてだ。実は俺、この特別教室棟の掃除を任されてたけどちょっとサボってな。それでまあ、説教されたみたいな」

「へえ。クロード特別教室棟の掃除とかやってたんだ。でも、あれ? クロードって確か、広報委員会じゃなかったっけ?」

「えっと、あー……あれだ! 代理だよ、代理! 今日担当のやつが休みで志水に頼まれたんだ」

「ああ、なるほどね」


 どうにも嘘というのは言おうと思えばスラスラ出るもので、俺はいつの間にか適当な説明を口走っていた。

 一通り説明を聞き、納得した竹中は「それにしても」と、再び俺の方を見る。


「それにしてもクロードって志水さんと仲良いんだね」

「いや、よくねえよ!」


 と、何を言い出すかと思ったらいきなり見当違いのことを言い出した。


「俺とあいつはそんなに仲は良くない。むしろ逆に悪いくらいだ」


 そもそも自分を殺しかけた人間と仲良くなろうなんて思うはずない。確かに見た目はその、一般の女子よりレベルは高いが、問答無用で殺しに来るような異常なやつなんてこっちからお断りだ。

 それにあっちも俺を嫌っているようだし、まず仲良くしようとしてもできるはずがないだろう。まあ、もっとも志水が本当に嫌っているのは俺じゃなくてクロノスなんだろうけどさ。

 チラッとクロノスに視線を移す。

 その顔には別にこれといった変化はなく、いつも通りの表情だ。隠しているのか、それとも特に気にしてはいないのか。それは俺には分からない。だが、少なくとも俺はあんな目を向けられたらこうやって平然とはしていられないだろう。

 それにしても、だ。志水はなぜあんなにクロノスを嫌っているのかだろうか。

 なんというか志水は他の入界管理局の職員とどこか反応が違う、気がする。成宮を始めとする志水以外の入界管理局の職員はクロノスを檻から放たれたライオンでも見るように恐れているが、志水からはどこかそれとは違った、憎悪のようなものが感じられる。もちろん他の入界管理局の職員と同じで恐れてはいるんだろうけど、何か他と見方が違う気がする。


「クロード、どうしたの?」


 声をが聞こえ、ハッと我に返るとクロノスが不思議そうにこちらを見てい

た。


「あ、いや、別にどうもしてないけど」

「そう? なんか私の顔見てたようだけど」

「ん、ああ、別に見てないぞ」


自分ではそう長い間見ていたつもりはなかったが、どうやら気づかれていたか。


「きっとクロードは黒乃さんに見とれていたんじゃないかな」


 と、竹中が横から相変わらず余計なことを言ってきた。


「おい竹中、余計なこと言うな」

「あれ違うのかい? 僕はてっきり早くもこの学校の男子に人気の高い黒乃さんに他の男子同様見とれているのかと思ったよ」

「俺が見とれてたってか? あいにく俺は見た目に騙されて本質を見失うような人間じゃない」

「ちょっと! それどういうことクロード!」

「まんまの意味だけど」

「聞いてると私の中身が最悪って言ってるように聞こえるんだけど」

「お、理解が早いな」

「クロード!」

「まあまあ黒乃さん落ち着いて。それにクロードも嘘はいけないよ。こんなに黒乃さん人当たり良いのに悪い人なわけないじゃないか」

「竹中、お前は全然こいつをわかっちゃいないんだよ。お前がこいつをどう思ってるかは知らないが、とにかく性格が最悪なのはマジだぞ」

「へえー、そういう嘘つくんだ。でも人の評価を下げるために嘘をつくのは人としてどうかな、クロード?」


 くっ、あくまでも俺が嘘を言ってるように振る舞うか。

 大体、「何が嘘をつくのは人としてどうかな?」だ。お前自体がすでに嘘ついてるだろうが。そんなこと言ってるヤツに人間がどうのって言われたくないっての。


「言っとくけどそのセリフそのままお前に返ってくること忘れんなよ」

「えっ、なんで私に返ってくるの? 意味がわからないなあ」

「チッ。シラ切りやがって」


 相変わらず猫被るのがうまいもんで。

 もうめんどくせ。これ以上言ってもキリがないし、このへんで降参サインでも出しとくかな。


「はいはい。お前は見た目通り性格も綺麗ですよっと」

「えっ」


 クロノスをあしらうために適当に言った一言になぜかクロノスが驚いたような表情を浮かべる。

 ん、なんかおかしなこと言ったか? 別にクロノスを適当にあしらって話を終わらせるなんてこれまでもやってきたし、珍しくないと思うんだが。

 頭に疑問符を浮かべ、相変わらず驚いたままのクロノスを不思議に思っていると、


「よくもサラッといきなりそんなこと言えるね。ある意味すごいよ、クロード」


 なぜか呆れた様子で竹中が俺を見てきた。


「何が?」

「それに加え、分かっちゃいないときた。これはタチが悪いね」


 ……? まったく言ってる意味がわからない。何か自分でも知らないうちに変なことでも言ったのだろうか、俺は。


「ま、まあ私は外見も心も綺麗だからね。ほ、ほら当たり前のこと言ってないで早く帰ろ」


 驚いた顔から一変。クロノスはどこか嬉しそうな顔をして俺と竹中を置いてつかつかと下駄箱へと向けて歩き出した


「なんだ、あいつ」


 まったく意味が分からん。驚いたと思ったら嬉しそうな顔したり。俺には女子ってのはどうにも分からない。もっとも、あいつは普通の女子ってわけじゃないから知ったところで分かる分からない以前に俺には理解できないのかもしれないけど。


「はあ、以外にクロードは将来大物になるかもね……」


 クロノスの後を追い、歩き始めるとまだ後ろの方で立ち止まったままの竹中がため息混じりに何か言ったような気がした。

感想やアドバイス、評価などいただけたらうれしいのでもし良かったらお願いします。

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