青春に必要な物 2
教室を出た俺たちは竹中が持っていた部活動名が書かれた紙を頼りにまずは、運動部を見て回ることになった。ぶっちゃけ運動部なんて俺も竹中も興味はないがクロノスが見たいと言うので見ることになったのだ。
まず、最初に見に行ったのはグラウンドに陣を構えている陸上部。
「ここって何する部活なの?」
「ここは陸上部で……う~ん、まあ、主に走ったりなんかする部活だね」
思い悩んだわりにはアバウトな説明だな。
他に見に来ていた見学者と一緒に少しの間、陸上部員が走っているのを見ていると上級生らしき体操服姿の女子がこちらに近寄って来た。
「あなたたち見学者ね。どう? 少し、走ってみない?」
どうやら俺たちに体験入部を勧めているようだ。
もちろん俺と竹中は断ったが、クロノスは結構乗り気で少しだけやることになった。
なんでも男子は短距離走で女子は走り高跳びをやるそうだ。
こいつ体操服持って来てたっけ? なんて思ったがどうやら持って来てたようですぐに更衣室に着替えに行った。なんとも用意がいいもんだ。このくらい用意が良かったら住むところどうにかしてほしかった。
しばらくすると他の女子とともにクロノスが体操服姿で戻ってきた。
体操服になり、露出が増えたクロノスにその場の男子の視線が一気にクロノスに向く。まあ、見た目は綺麗だから無理はないんだが、騙されちゃいけない。あいつはあれで結構本性最悪なんだから。
……それにしても、以外にクロノスのやつ胸ないな。
なんてことを内心思いつつ、他の女子が高跳びをする姿を眺める。男子を見るより女子を見た方がどっちかっていうと目の抱擁になるからな。
そうしているうちにとうとうクロノスの番になった。
一応着替えに行く前に加減しろよ、と言ってはあるがあいつがどこまで加減できるか少し不安ではある。ここで加減の程度を間違えるとただでさえ見た目で目立っているクロノスがさらに目立ってしまい、一緒に住んでいる俺まで連鎖反応で目立ってしまう。それはヤバい。
頼むぞ、クロノス。普通の女の子らしく可愛くバーに引っかかるなり、普通に常人レベルで飛ぶかしてくれよ。
そんな願いを込めつつ、今走り出したクロノスを目で追う。
タッ。
次の瞬間、クロノスが勢いよく飛び上がった。
「おお!」
見ていた生徒から歓声が上がる。
ん?
なんか飛び方おかしくない??
いや、背面を地面に向けるのはいいんだけどさ、でも、なんか違くない?
クロノスは勢いよく飛び上がり、反転して背中を下に向け、体を丸めるようにバック回転しながらバーを超えていく。俗にいうバク転で。
「って何その跳び方!」
マジか……あいつ………
俺の驚きに続くようにギャラリーからも声が上がる。
そりゃあ驚きの声のひとつも上げたくはなる。
だってクロノスの飛び越えたバーはそれほどの高さというほどでもないが、あんな跳び方で飛び越えられるもんじゃない。だから驚くのも無理はない。てか、競技違うよね。
「あ、あんな飛び方で高跳びってできるんだね……」
唖然とする俺の隣で一部始終を見ていた竹中も絶句していた。
バク転して跳びやがったからな。俺も生まれてこの方あんな飛び方するやつ見たことねえよ。
未だ驚いている俺たちの元に跳び終えたクロノスが楽しそうに帰ってきた。
「どう? うまくできた? 私初めてだからよく分かんないだよねー」
俺はクロノスに近づき、耳元で抗議をする。
「……バカ、お前どういう飛び方してんだよ。ちゃんと普通に跳べよ」
「普通に跳んだつもりだけど? あ、ちょっとアレンジしたか」
アレンジどころの騒ぎじゃねえよ。
「普通の人間はな、あんな跳び方しねえんだよ」
「せっかくパフォーマンス性重視で跳んでみたのに」
「重視すんな!」
はあ、頭痛い………こいつはまずこの学校で常識ってのを教えてもらったほうがいいんじゃないだろうか。
そんなことを思いつつ、頭を押さえていると、
「あなた、すごいわね!」
先ほど声をかけてきた上級生であろう陸上部女子が驚きの表情でこちらに走ってきた。
「どう? うちに入部してみない? あなたにぴったりだと思うけど」
クロノスを勧誘しにきたか。まあ、今のクロノスの動きを見れば身体能力の高さが分かるから無理はないんだが………ヤバい。
「え、えーと……」
どうやらクロノスは決めあぐねているようだが、このままこいつを入部させてつい力んだとか言って下手なことをされたらマズい。
「あ、先輩。俺たちまだ全然部活見てないんで、ちょっとすぐには決められないですね」
「あなたじゃなくてこっちの彼女に言ってるんだけど」
「じゃあ、そういうことなんで」
「あ、ちょっと!」
「え、ちょっ、クロード」
入りたそうなそうでないような複雑な表情を浮かべていたクロノスの手を取り、それだけ先輩に短く言い、次に近くにいた竹中に「行くぞ」と呟いて早足で次の場所へと向かった。
陸上部から急いで移動した俺たちはまだ運動部を見たいというクロノスの要望を仕方なく聞き入れ、他の運動部を見に行くことになった。
しかし、次に訪れたサッカー部でクロノスに下心丸出しの顔で「試しにボールを蹴ってみるかい?」といらん申し入れをしてきた先輩の提案でゴールに向けてボールを蹴ることになったんだが………クロノスのやつ、ボールを蹴るどころかよりにもよって破裂させやがった。
おかげでサッカー部の先輩たちも目を白黒させる始末。
危機感を感じた俺はまたもしらばっくれてクロノスたちを連れ、急いでその場を後にした。
そしてこれ以上運動部を見学に行くのは危険だと判断し、運動部の見学を終え、文化部が集まる校舎へと行くことにした。
元から運動部に入部する気がない竹中はどうでも良さそうだったが、クロノスはまだ見たかったのかぶつくさと文句を言ってきた。しかし、これ以上騒ぎを起こされても堪らないので無視して校舎へ。
それから急いで移動したこともあって、クロノスが体操服姿のままだったこと忘れていた俺と竹中はクロノスが着替え終えるまで男二人女子トイレの前でしばし待つことになった。
「いやー、にしてもさっきのボールなんで破裂したんだろうね。いきなりで僕もびっくりしたよ」
「あ……うん、なんでだろうな。俺も驚いた」
そんな感じで少しの間、二人で話をしていると着替え終わったのかクロノスが文句を言いながら出てきた。
「ちょっと! なんでもう運動部見ないの。まだ見たかったのに」
「お前が余計なことするからだろ」
「別に何もしてないけど?」
「あのなあ、俺が言いたいのは………」
と、そこで竹中がいることに気付き、クロノスだけに聞こえるような声で再び続ける。
「……とにかく加減しろってことだ」
「じゃあ、私、加減するからまた運動部の見学行ってくるね」
「ちょっと待って! 行くな! 行かないで!」
クロノスがマジで行きそうだったので急いで止めにかかる。
「仕方ないなー。そこまで言うなら特別にクロードのために行かないでおいてあげる」
「………」
ウザッ。
多少の苛つきを覚えながら竹中の方に視線を向けると、何やらこちらを見て笑っていた。
「なんで笑ってんだ」
「いやー、なんかクロードが別れを切り出してきた彼女を必死になって引き止めようとしてる彼氏みたいでつい可笑しくてね」
「俺はそんなに未練がましい男じゃねえよ」
それにもし俺がクロノスの彼氏だったとてしも絶対に引き止めはしない
ね。逆に別れられることを喜ぶくらいだ。
「で、次どこ行くの?」
制服を正しながらクロノスが言う。
「次は文化部を回る」
「はあ、文化部かあ………体動かしたかったけど仕方ないか」
「ああ、お前は体動かさない部活の方がいい」
これ以上騒ぎを起こされたらかなわんからな。
「クロード、どこか行きたいとこある?」
「別に。俺は文化部だったらどこでもいい」
「なら、黒乃さん。これからは主に僕の趣味で回るけどいいかな?」
「うん。別にいいよ」
「じゃあ、行こうか」
そうして俺たち三人はは竹中の持っている各部活動名が書かれた紙を頼りに再び部活動見学を再開した。
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