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Mother strong; do 2

「で、なんでお前はついて来てる?」


 俺は後ろを振り返り声をかけた。

 あのあと、すぐに学校を出た俺はいつもより少し歩行速度を速めて入界管理局に向かっていた。そして気がついたらいつの間にか、クロノスが後ろからついて来ていたのだ。


「なんでって、暇だから」

「そんな理由で行くとこじゃないぞ。あそこは」

 

 というか暇つぶしであそこに行こうとは死んでも思わないぞ。


「まあまあ、気にしない気にしない。ていうか急いだほうがいいんじゃない?」


 言われて携帯の時間表示を見ると、確かに急いだほうが良さそうだった。

 まあ、こいつが入界管理局どんな用があろうともどうでもいい。もう面倒臭いことには巻き込まれているんだ。これ以上面倒事が増えるわけでもないだろう。

 少し駆け足気味になり進行速度を速めると、入界管理局のトレードマークになる見た目は一般的なビルが見えてきた。

 そういえば最近、ここに来てばっかりだな。まさか今日も来るハメになるとは。

 ビルに入り、昨日と同じく受付のお姉さんに声をかけ、昨日貰ったIDカードを見せて入界管理局の本拠地となる地下施設に移動する。

 エレベーターのドアが開き、中から出ると近くを歩いていた職員らしき人が一瞬こちらを見て急いでいるようでもなかったのにいきなり歩くスピードを上げ、逃げるように歩いて行った。

 理由は分かっている。クロノスだ。昨日あんな話を聞いたから分かる。クロノスが災厄の使徒だからだろう。

 当のクロノスはといえば、別に気にした風もなくいつも通りの顔だ。

 まあ、本人が気にしてないならいいか。今は目的地に向かうだけだ。

 さっさと行くか。

 そう思い歩き始めたところで再び足を止める。

 ………どこに行けばいいんだ?

 成宮からのメールには時間と場所、つまり一時に入界管理局に来いとだけ書いてあったが、正確には入界管理局のどこに集まるか書いてなかった。ここに入ったのはつい最近だから分からないが入界管理局も狭くはない、と思う。もしかしたらそこらのショッピングモール以上の大きさがあるかもしれない。

 俺的にはもう少し詳しく書いてほしかったな。

 さて、どうするか。誰かに訊くか? でも周りには誰もいないな。

 仕方ない。人がいる指令室あたりにでも訊きに行くか。幸いにもまだ一時まで時間はある。


「で、どこ行くの?」


 俺の足が止まったのを見てかクロノスが訊いてくる。


「とりあえず指令室にでも行ってみるか。どこに行けばいいか分かんないし」

「知らないの?」

「ああ」


 適当に相づちを打ってエレベーター近くの案内板を見る。

 昨日も一昨日も来たがどうにもここの構造は複雑で全然覚えられない。もうちょっと分かりやすい構造にしてくれればいいのに。


「ええと、現在地がここだから…………」

「あれ? 朝野君じゃないか」


 ふと、昨日聞いた声が後ろから聞こえてきた。


「ユキトさん」


 そこには成宮パパことユキトさんが立っていた。よく見ると昨日見た白衣も羽織っていないし、髪もボサボサではなくちゃんと整えらてれいた。そして何より制服らしき物を着ている。まるで正装といった具合だ。


「何をしてるんだい?」

「その、今日来るように成宮、マキさんから連絡があったんですけど入界管理局のどこに行けばいいか分からなくて、今から指令室に訊きに行こうとしてたところです」

「なるほど。今日の集まりのことだね。僕もちょうどそこに行こうと思ってたんだ。一緒にいこうじゃないか」

「ほんとですか。助かります」


 技術部とやらのユキトさんも収集を受けているのか。一体集まって何をするんだろうか。ミーティングとかか? まあ、どの道ミーティングなんかしても新人の俺には分からん話だが。

 と、そこで先ほどから後ろで黙っているクロノスに視線がいく。

 そういえばこいつはユキトさんのことも知らなかったな。一応説明しといてやるか。 

 ユキトさんの方を振り向き、クロノスに説明する。


「こっちは成宮ユキトさんだ。お前も知ってるだろ? あの成宮のお父さんだ」

「へー。これは驚いたね。そういえばどこか似てないような気もしなくもないね」


 言うほどクロノスの表情は驚いているようには見えなかった。俺なんか成宮の親だと知った時はとても驚いたのに案外そっけないもんだ。でも、よくよく考えると別に不思議なことでもないか。こいつは色々な世界を旅してるらしいし、エルフの容姿の若さとかも慣れているのかもしれない。


 俺が説明し終えたのを見てか、ユキトさんも明らかに愛想笑いだと思う表情で自己紹介を始めた。


「えーと、今紹介してもらった技術部の成宮ユキトという者です。どうぞよろしく」

「知ってると思うけど、私はクロノス―――――じゃなくて今は朝野黒乃ね。こちらこそよろしく」


 クロノスの自己紹介を聞き終え、ユキトさんが俺を振り返る。


「じゃあ、行こうか。あまり時間もないし」


 歩き始めたユキトさんの後ろについて俺たちも歩き始める。

 昨日、一昨日と俺が通った所とは違う所を右に曲がったり左に曲がったりしながらさらに進む。この通路の複雑さだと多分、指令室に訊きに行っても誰かに案内してもらわなくちゃ目的の場所には行き着けなかっただろう。ほんとユキトさんが通りがかってくれて助かった。

 そんなことを思いながらユキトさんの後をついて行っているとユキトさんが思い出したように顔をこちらに向け、速度を俺たちに合わせた。


「そういえば僕はクロノス、黒乃さん? に言わなきゃいけないことがありましたよ」

「黒乃でいいよ。あと別に無理にかしこまらなくてもいいよ。別にこっちは取って食おうなんて思ってないんだから」

「あ、ならお言葉に甘えて」


 そう言うユキトさんの口調にはまだどこか緊張のようなものが感じられた。やっぱりまだ恐怖心がとかがあるのかもしれない。

 ユキトさんはゴクッと唾を飲み込み、そして立ち止まって頭を下げた。


「先日は僕の娘を助けてくれてありがとう。親としてとても感謝しているよ。入界管理局(こっち)は手荒な真似をしたっていうのに………本当にありがとう」

「別にただの気まぐれ。気に病まなくていいよ。それより早く案内お願い」

 素っ気なくそう言って案内を促すクロノス。

 もうちょっと何か反応を返していいだろうに。愛想のないやつだ。

 それにしても気まぐれねえ。本当は意図的に助けたくせによく言うよ。

 再び歩き始めたユキトさんに続き、俺たちは通路を歩き始める。

 あとを続きながらふと、横に視線を移す。見るとクロノスは顔を伏せていた。もしかしてさっき礼を言われたことがそんなに気に障ったのか?

 気になって少ししゃがんで顔を見ると…………にやけていた。

 え、なんでそんなににやけてんの? もしかして照れてる?

 俺が見ていることに気づき、クロノスが俺を見る。


「なに?」

「いや、妙ににやけてるなと思って」

「はっ」


 言われて自分の表情に気がついたのか慌てて緩みきった顔を揉みほぐし、真顔を作る。


「別ににやけてないけど」

「おせえよ」


 何とも誤魔化すのが下手なことで。


「お前さっきスカしたこと言ってたくせにちゃっかり照れてるな」

「別にいいでしょ。人を助けてお礼なんて言われたことなんてあんまりなかったんだから」

「…………」


 人を助けてもあまり礼を言われたことがなかった、か。これもこいつの境遇故か。

 こんな明るく振る舞っていてもこいつはやはり俺より過酷な人生を歩んできたんだとわかる。それもやはり災厄の使徒という存在だからだろうか。この強がりともつかない物がこいつが精神的にも強いという証なのかもしれない。

 それから少しユキトさんについて歩いていくと開けた空間に出た。なかなか広いな。学校の体育館ぐらいあるんじゃないか?

 周りには先日成宮が乗っていたのと同種の人機が数体と大型の整備道具のような物が所々端に寄せて置いてある。そして何より真ん中あたりに同じ制服を着た人達が大勢並んでいた。

 それを見たユキトさんが慌てた様子で言う。


「いけないいけない。もうみんな集まってるじゃないか。じゃあ朝野君、技術部はあっちだから」


 言ってユキトさんは急いで端の方の列に入っていった。

 …………え、俺どこに並べばいいの? 何も聞かされてないんですけど。

 辺りを見回してどこに並べばいいか一人捜していると見知った服装の誰かこちらに向かって手招きをしていた。

 成宮だ。

 そうか。あそこに並べばいいのか。

 急いで成宮の後ろ、列の最後尾に並び、一安心していると成宮が小声で話しかけたきた。


「来るのが少し遅いわ、朝野君。一体何してたの」

「えーと、普通に来ただけだけど」

「メール送ってから普通に来てもこんなに遅くはならないでしょ」

「だって成宮からのメール、入界管理局に来いとしか書いてなかっただろ。漠然としすぎなんだよ。もうちょっと詳しく書いてくれよ」

「そういえば入界管理局としか書いていなかったわね。ごめんなさい。もうちょっと詳しく書くべきだったわ」

「今後場所の連絡は詳しく頼む」


 なるべく今後連絡がないことを祈るが。

 ふと、視線を前に移すと見知った姿を見つけた。どうやら成宮の前には志水がいるらしく、赤みがかった茶髪とうちの学校の制服が見える。さらに前方に視線を移し、前を覗っていると妙なことに気がついた。なぜか志水の前の方には私服姿の男女が最前列まで並んでいた。

 そもそも、今思えば俺の並んでいる列だけおかしい。俺たちの列以外の列はそれぞれ若干違いはあるものの制服みたいなのを着ている。

 が、俺たちの列だけ明らかに違う。制服、というか完全に私服を着ている。あ、もちろん俺と成宮と志水の三人は学校の制服だが。

 そのことを成宮に訊いてみる。


「なんでこの列に並んでる人って私服っぽい服を着てるんだ? 他の列はみんな制服なのに」

「この列はみんな非常勤職員の人たちが並んでるからよ。説明受けたでしょ、非常勤職員は事件が起きた時すぐに現場に行って現状の報告なんかをするって。その任務に支障がないように非常勤職員はみんな一般人として普段生活してるのよ。だからこの列は私服の人ばかりなの」

「なるほどな」


 俺たちと同じ一般人に擬態した調査員か。


「と、まあそんなことより………」


 説明し終えると成宮はジトッとした目で視線を俺から後ろに移して、


「なぜあなたがいるのかしら?」


 クロノスを見た。

 そういえばクロノス(こいつ)がいたんだったな。


「暇つぶし」

「暇つぶしって………あなたはもうここに用はないはずでしょ。させることはさせたんだし」

「うそうそ。ほんとはクロードが知り合いがロクにいない場所に行くのが不安だからって言うからついてきただけ」

「言ってねえぞ、そんなこと」


 嘘ばっかり言いやがって。こいつ虚言癖があるんじゃないか?


「まああれだよ。可愛い同居人の晴れ舞台を見届けてやろうと思ってね」

「んな晴れ舞台望み下げだっつの」


 これのどこが晴れ舞台だよ。これが晴れ舞台なら世の中晴れ舞台だらけだっての。

 まあ、さしずめさっき言った暇つぶしってのが妥当な理由だろう。というか俺をからかいに来たに違いない。じゃなきゃ成宮の言ったとおりこいつがここに来る理由はない。さっさと帰ればいいものを。 それにしても、だ。

 そこで視線を周囲に移す。

 技術部のユキトさんといい、俺と同じく非常勤職員の成宮、志水といい、他にも知らない顔の人が一杯いる。もしかして今日は全員集合なのか? そこまで今日の集まりが重要ってことなのだろうか。

 ………一体なんの集まりなんだ?

 そんな俺の疑問に答えるように突然声が響き渡った。

 見ると前の方にある壇上の上に人が立っていた。

 見まごうこともない金髪ツンツンヘア。憎きここのトップ、局長だ。


「えー、諸君。わざわざ集まってもらって本当に済まない。今日ここに集まってもらったのは近々再オープンすることになったゲートターミナルについてだ」


 先日俺と話した時とは違い、なんというか上にたつ者の風格のようなものが感じられる。やはり伊達にここのトップじゃないってことか。


「人員も揃い、ギリギリではあるがなんとかゲート装置を運転できるようになった。これから人の出入りが多くなり、忙しくもなるだろう。技術部ではゲート装置を始め、色々な機材のメンテナンス。治安部の方ではこれから起こるであろうテロ、または事件などの解決や防止。司令部の方では―――――――――――」


 と偉そうに語り始めた。

 ……ていうか事件起こること前提なんだ……

 それから少しの間局長の声を聞き流していると残念なことに気づいた。

 今まで後ろの方で分からなかったが局長はチラチラと時々視線を下に下ろしている。よーく目を凝らして視線を下の方に向けるとメモ用紙のような物を見ている。あ、いや、。あれは完全にメモ用紙だな。

 局長、全部メモを見て言ってるな。自分の言うことぐらいちゃんと覚えろよ。カッコつかないだろ、メモ見ながら言うなんて。

 少し見直したなんて思ったのになんとも馬鹿馬鹿しい。やっぱり初対面の印象通りだったよ、あの人は。


「―――――――――――――というわけで諸君。これから色々と大変なこともあるだろうが頑張っていこう。以上だ、解散」


 言い終えた局長はどこかホッとしたように胸をなで下ろし、どこかへ歩いて行った。

 終わったか。まったく時間を無駄にしたものだ。さっさと帰って寝よ。なんかこの頃疲れて眠い。


「じゃあな、成宮」

「ええ、じゃあね、朝野君。くれぐれもゲートターミナル再オープンまでに準備を忘れないように」

「ああ」


 一応、成宮に声をかけてから後にいるクロノスに振り返る。


「んじゃ、帰るぞ」

「そーだね。ここいても暇だし、さっさと帰ろ-」


 暇なら来るなっつーの。

 帰るために出口の方に足を向け、歩き出した所で他の局員が大勢俺を見ていることに気がついた。いや、正確には俺じゃない。俺の隣にいるクロノスを見ているようだ。

 クロノスを見ている連中は口から「あれが災厄の使徒……」、「なんでここいるんだ」などの声が聞こえてくる。

 うわー、めちゃ見られてるな。………気まずい。


「ほら、さっさと行こう、クロード」


 呆然とクロノスを見ていた連中に視線を向けているとクロノスは腕を小突いてきた。


「ああ」 


 クロノスに促され、早足に出口に向かって歩を進めようとしたところで周りの野次馬を押しのけて誰かがやって来た。


「あなたが朝野君かしら?」


 人混みから出てきたのは黒髪を肩にかかるぐらいまで伸ばしたおっとり顔の美人だった。歳の頃は二十代前半といったところ。なぜだか知らないが綺麗に整った顔立ちにはどこか見覚えがあるような気がする。そして何より特徴的なのが俺にはない尖った耳。どうやらこの人はエルフのようだ。


 謎の女性は一瞬、クロノスの方を見て、すぐに視線を俺に向ける。


「あなたが朝野君?」

「はい、そうですけど」

「よかった~、合ってたみたい」


 手を合わせて笑顔を作る。おっとりとした顔立ちがさらに和らいでとても優しそうに見える。


「あの、あなたは……」

「あら、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわねぇ。私は成宮アキノっていうの。分かる?」

「成宮……あっ――――――」


 そうか、もしかしこの人は………


「あの、成宮さんの、成宮マキさんのお姉さんとかでしょうか?」

「ふふ、そう見える?」


 アキノという女性はそう言うと少し口の端をつり上げて可笑しそうに言った。


「私はマキナ、成宮マキの母親よ」

「え――――――」


 一瞬、呆けてしまった。え、母親?

 まさか父親のユキトさんに続き、母親まで出てくるとは。

いや、今思えばこの目の前に立っているアキノさんが母親と言われても全然不思議はないか。ユキトさんの時もそうだったが、エルフは寿命が長いんだ。だから親の見た目が例え二十代ぐらい若く見えてもおかしくはない。

 まあ、それはそれとして一体俺に何の用だろうか。すぐに表情を戻して訊く。


「えーと、俺に何か用ですか?」

「ええ、ちょっと来てもらいたい所があるの来てもらえるかしら?」


 言い終えるとアキノさんは俺の腕をいきなり掴んだ。 

 綺麗な美人に突然腕を掴まれて少しばかりドキドキしてしまう。


「あのすみません、ちょっと―――――――」

「こっちよ」


 話が見えず戸惑っている俺の腕を引っ張り、アキノさんは出口の方へと引っ張っていく。ち、力が強すぎる。


「ちょ、ちょっと! 勝手にクロード連れてかないでよ!」


 俺の後を追ってクロノスもついてくる。


「あ、あの一体どこに……」

「さあさあ、早く行きましょう」


 駄目だ。この人聞いちゃいねえ。 

 そのままアキノさんに引っ張られるまま、他の局員が呆然と見守る中、俺はその場を後にした。

評価や感想、アドバイスなどをいただけたらとても嬉しいです。

P.S.辛口でも全然かまいませんのでお願いします。

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