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Mother strong; do 1

 次の日は全学年テストだった。俺たち一年生は新入生テスト、二、三年生は課題テスト。おかげで今日は午前中で日程が終了し、午後からフリーだ。まあ、テストのできは芳しくなかったが。


『ありがとうございました』

 

 担任であるカナちゃんこと山久先生(なんでも下の名前が佳菜恵らしく、みんなそう呼んでいるらしい。大学卒業したばっからしいから歳に似合わないってこともないか)に頭を下げ、ホームルーム終了。

 再び席で荷物の整理をしていたら身支度をもう整えたであろう竹中が後ろから声を掛けてきた。


「クロード、今日は午後から予定ある?」

 

 相変わらずの微笑みを携えてそんなことを言ってきた。いつも楽しそうなやつだ。


「今日は別にないぞ」

「ならさ、午後から部活動見学でも行かない?」

「それ、昨日も言ってたな」

 

 部活動ねえ。そういえば今日もテスト当日だっていうのに二、三年生が朝、ホームルーム始まるギリギリまで勧誘やってたな。



「部活動の見学をできる期間も無期限じゃないし、早めに見てたほうがいいじゃないか」

「お前には帰宅部という選択肢はないのか?」

「それ部活動じゃないし、それに、中学の時とは違って色々と部活動があるんだ。何かしらの部活動に入らない手はないよ」

「それは入りたい部があった時の話だ。それに部活動に入ったら部費いるだろ」

「それぐらいいいじゃないか。どうせ万を超えるような額でもないし」

「でもそれが積もり積もったら色々と買える額になる。違うか?」

「相変わらずお金にはシビアだねえ、クロードは。でもその節約したお金がサブカルチャーに消えるってんだから少しばかりおかしい話だね」

「お前だってそういうの好きだろ」

「まあね」

 

 人のこと言えんだろうがまったく。


「ま、見ていくだけ見ていこうよ。どうせ午後から僕もクロードもやることなんてないんだし」

「俺弁当持ってきてないんだけど」

「なら探検がてら学校の購買か、食堂に行ってみるのもいいんじゃない?」

「金かかるけど家に帰るのもメンドくさいから仕方ないか」

「じゃ、昼食食べたら部活動見学に行くってことで」

「りょーかーい」

「!」 

 

 返事を返そうとした時、突然第三者の声が俺の代わりに答えた。振り向くとやはりそこにはクロノスがいつの間に自分の席に座り、こちら顔を向けていた。

 今までいなかったから先に帰ったと思っていたが、なるほどそういえば机の横に通学バックが置いてあったな。若干手が濡れているのからしてトイレにでも行ってたのか。


「部活動見学行くって? ていうか部活動って何?」

「えっ! 黒乃さん、部活動知らないの? 中学校の時とか小学校の時にあったでしょ」

 

 竹中がそう聞き返した瞬間、クロノスの表情が少し焦りの色を表す。

 違う世界の人間で、しかも旅人だから部活動なんて知るわけがないのだが、あくまでこっちの世界の人間って設定だから知ってないとおかしい。多分、クロノスのやつはそんな理由で焦っているのだろう。


「え、えと、私の通ってた学校は部活動がない学校だったから私知らないんだよね」

 

 そんな学校ねえよ。


「へ、へえ。そんな学校もあるんだ」

 

 戸惑いつつも竹中がクロノスに部活動について大まかに説明を始める。


「えーとね、部活動っていうのは放課後に趣味の合う者同士が集まってスポーツや文化的活動なんかをすることを言うんだよ」

「なるほど」

「黒乃さんも何か入ったらいいよ。この学校結構規模も大きいから色んな部活があるんだ。きっと黒乃さんに合う部活も見つかるよ」

 

 言われてみれば確かにこの学校は大きい。面倒臭いから具体的には説明しないが俺が行くはずだった市立の字源高校とは大違いだ。やはり私立となると財政的な面でも大きく違うのかもしれない。

 いや、それ以前にここは志水の親が理事長を務める学校とのこと。つまりはウィザードの運営する学校だ。そのへんも関係しているのかもしれない。


「そんなに部活動ってあるんだ。これはどこに入るか迷うね」

「お前が迷いに迷ってどこの部活に入るかは知ったこっちゃないが、あまり部費が高い所、その他もろもろ金がかかる所はやめとけよ。家計の負担になるから」

 

 一応、肝心な部分について述べたつもりだったがのだが、クロノスは不満げに俺を見つめ、不平を言ってくる。


「ケチ! 守銭奴(しゅせんど)!」

 

 するとそれに便乗するように竹中もジトッとした目で俺を見る。


「そういう空気を壊す余計なことは言わないほうがいいと思うよ、クロード」

「別に間違ったことは言ってないだろ」

「はあ、もういいよ」

 

 なぜかため息をつき、呆れたように見る竹中。

 なんでそんな風に俺を見る。

 竹中がその場を取り直すように再び口を開く。


「ま、そういうことだからまずは食堂で昼食を取るか、売店で何か買って食べるかでもしてそれから部活動見学でも行こうか」

「賛成!」

「そう―――――」

 

 だな、と言いかけていきなりポケットに入れていた携帯がブルブルと揺れた。

 画面を見ると知らないアドレスからメールが届いていた。誰かのメアド変更か? いや、俺の電話帳にはあまり人が、というよりも兄さんと竹中のメアドしか登録されてないからその可能性は低いか。

 誰だろうと思いつつ文面を見たところで思考が固まった。

 画面にはこう書かれていた。


『今日、近々再オープンされるゲートターミナルに関することで集まれとのことだったから一時までに入界管理局に来ること。絶対!』

 

 ……こんな嫌なメールは初めてだ。これが世間一般にいう迷惑メールか。

 件名のところに成宮よりと書いてあったので送り主は成宮だと分かる。でもなんで俺のメアドを知っている。俺は教えた覚えなんてないぞ。いや、どうせ入界管理局の情報網か何かを使ってるんだろう。そうとしか考えられない。

 にしても、なんかこの頃俺の人権ガン無視されまくりな気がするんだけど。


「………」

 

 しばしの間画面を見たまま硬直していると不審に思ったのか竹中が声をかけたきた。


「どうしたの、クロード?」

「あ、いやちょっと用事ができたから部活動見学はまた明日ってことで」


 時計を見るともうすぐ十二時だ。あと一時間くらいしかない。

 さすがにもう学校を出たほうがいいな。何事も余裕を持って。ましてや入界管理局とかいう場違いな場所ならなおさら早く行ってたほうがいい。


「じゃ、悪い。もう行くな」

「やれやれ、何かこの頃忙しそうだね」


 後ろで皮肉っぽい口調で言う竹中の声を聞きながら俺はすぐに荷物を持って教室を出た。

 


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