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災厄な高校生活6

 通路にある案内板と先日成宮たちと来た時の記憶を頼りに歩き、やっとこさ指令室と書かれたプレートを見つけ、中に入ると、


「あ、クロード遅い! 呼ばれたら早く来なきゃ駄目でしょ!」


 ヤツがいた。


「クロノス、なんで、お前がいる」


 頭を押さえつつ、問いかけるとクロノスは当たり前のようにすんなりと言う。


「用があるから」

「そりゃあそうだろうな。でも俺が聞いてるのはそんな根本的なものじゃなくて、何の用があってここにいるんだってことだ」

「相変わらず面倒臭いなあ、クロードは」


 とやれやれと首を振るクロノス。

 そもそもこいつがなんでここにいる以前に、どうしてこいつを中に入れたのか意味が分からない。普通、局長を人質にとったやつをまた入れるなんてことは世間一般の常識上しないと思う。

 クロノスから視線を外し、周りを見るとオペレーターらしき人達の動きが昨日来た時と違ってやや硬いような気がする。

 そしてその近くを見ると、クロノスの後ろの方で局長が顔中に汗を浮かべて、おもしろ可笑しい顔をして落ち着きなくそわそわしていた。

 なるほど。みんなクロノスにビビってるのか。だからこんなにすんなり中に入れたんだな。


「で、わざわざこんなとこまで来て一体なんの用だ?」


 そわそわしている局長を尻目にクロノスに訊く。


「携帯買いに行こうと思ってね」

「はっ、携帯? なんで?」

「だって私携帯持ってないし。それに携帯あった方が連絡とりやすいでしょ」

「まてまて。携帯もただじゃないんだぞ。それに契約してからも月々金がかかるし、兄さんにも悪い」

「お金なら心配ないよ。クロードのお兄さんに電話したら「仕方ないね」って了承してくれたし」

「お前なんで兄さんの電話番号知ってんの!」

「ちょっと教えてもらってね」


 ………入界管理局か。


「ま、そんなわけで準備バッチリなわけだし、さっさと買いに行こっ」


 どこかウキウキとした様子で言うクロノス。

 ま、いいか。俺もこの前の騒動で携帯ぶっ壊れてまだ取り替えてないし、ちょうどいい機会だ。今日取り替えてもらおう。


「仕方ないな。じゃ、早く行って早く済ませるぞ」


 なんか俺の日常がいいようにこいつに振り回されているな。

 ――――いや、


「振り回されてるは俺か」


 自分に聞こえるくらいの大きさでそう呟いた。


 

  

 とまあ、そんなわけで入界管理局を出た俺たちは家への帰りがてら、家の近所にある携帯ショップに来た。


「さあさあ、早く入ろっ!」


 先に入ったクロノスに続き中に入ると最近はやりの機種が色とりどりと並べられて、店内に明るい雰囲気を作り出していた。


「へぇ、携帯ってのも色々あるんだねー」


 展示物を手に取りながらクロノスが興味深そうに言う。


「でも、フィロソフィアの情報端末に比べたら性能は劣ってそうだけど」

「当たり前のこと言うな。こっちの世界はあっちほど技術力が発達してないんだから」

「それもそっか」


 それから再びクロノスは携帯を見たり触ったりの作業に戻る。まるで誕生日に買ってもらう新しいおもちゃを選んでいる子供のようで思わず笑みが漏れる。

こんなんでも災厄の使徒ってのなんだから何ともおかしな話だ。まあ、それは別とこいつはそう呼ばれるにふさわしい力を持ってはいるんだが。

 さて、俺も壊れた携帯変えてもらわないとな。一応、保証期間中だからお金はいらないはずだ。

 近くにいた店員に声をかけ、携帯を取り替える手続きをしてもらう。だが、思った以上に損傷が激しく、定期的にデータセンターに保存していた電話帳以外のデータは移せなかった。


「はあ、色々と有料でダウンロードしてたのに……」


 少しブルーな気分になりつつも手続きを済ませ、今だ携帯とにらめっこしているクロノスの所に向かう。


「どうだ、決まったか?」

「まだ」


 まだか。

 俺が手続きしていた時間が約二十分ぐらいだっただろうか。やはり携帯を選ぶとなるとそれなり時間がかかるもんだな。俺も買うときは結構時間がかかったもんだ。


「仕方ないな。あとちょっと待っててやるよ。あ、でも、選ぶならゼロ円な」


 そうクロノスに言って近くの椅子に座って待つこと十数分。

 クロノスが俺に向かって手招きをする。

 どうやら決まったようだ。


「決まったのか?」

「うん。これにする」


 見るとそれは女の子らしいピンク色を基調としたスマートフォンだった。

 へえ、以外だな。こいつがこんな可愛らしいの選ぶなんて。見た目が見た目なだけに似合ってないわけでもない。


「すみませーん。ちょっといいですか」


 近くにいた先ほど受付をしてもらった人とは違う店員に声をかける。


「あの新規で契約したいんですけど」

「あ、この機種ですね――――――」


 しばらく店員の説明を聞いていると聞き逃せないことを聞いた。


「―――円になりますね――」

「ちょっと待った!」 


 俺は説明途中だった店員の言葉を遮り、店員が今言ったことを確認する。


「あのこの機種の値段、今、いくらって……」

「こ、こちらの機種は春の新作モデルになりますのでお値段の方は少しお高めになりますね」


 くっ、結構値が張るじゃねえか。にしてもこいつ、よりにもよって出たばっかの機種を選ぶとは………

 どんだけ俺に迷惑をかけたいんだ、こいつは。


「ちょっと、すみません」


 店員に少しだけ離れることを伝え、少し離れた所でクロノスと小声で話す。


「おい、もうちょっと安いの選べよ」

「だって私にとってはあれが一番良かったんだもん」

「にしてもだな、もうちょっと安いのあるだろ。ほら、あそこの機種なんかいいんじゃないか?」


 近くにあった割と安価な携帯を指差す。


「えー、あれー?」

「ワガママ言うな。俺なんかゼロ円携帯だぞ」

「知らないよ、そんなの。てか、クロード、家にいっぱい漫画やらアニメのDVDやらあるくせにこういう時だけ私に安い携帯選べってどういうこと?」

「バカ野郎。俺はああいう物を買うためにコツコツ節約してんだよ。お前も協力しろ」

「節約の理由ショボッ!」


 ったく、どこがショボいんだか。何かを買うから節約するという理由は結構オーソドックスだと思うんだが。 


「とにかくそういうことだからもっと安いの買え」

「いやだ」

「買え」

「いやだ」


 ぐぬぬ、まったくこっちの言うことを聞きやがらねえ。居候のくせに生意気な。


「言っとくけどお前、わがまま言える立場じゃないからな。あくまでお前は居候だ。本来なら携帯持てるだけでもありがたい立場なんだぞ。それがこの携帯がいいだの言いやがって。少しは居候させてる俺に感謝の意でも示したら――――――――」

「家壊すよ」


 クロノスがボソッと何か怖いことを言った。

 んん?


「私さ、寝相悪いんだよね」

「い、いきなりなんだ」

「だからね、もしかしたらストレスとか溜まって寝ている間に何かしちゃうかもしれないんだよね。例えば、家を壊すとか」

「…………」


 額から出る汗が止まらない。あれー? 今日ってこんなに暑かったっけ?


「私ね、ここでこの携帯買わなかったら何かしらのストレスが溜まると思うんだよね。あ、別にストレスは自然と生活してても溜まるものだから仕方ないとは思うよ。でも、やっぱりストレス溜まると夢見なんかも悪くなって体に悪いと思うし………」


 わざと困ったような顔をして額を押さえるクロノス。なんとも芝居がかった動作だ。お前はこのまま役者にでもなった方がいいんじゃないか?

 クロノスの真似ではないが俺も額に手をやった。

 遠回しに言ってはいるが俺にはこいつの言わんとしていることが分かった。

 つまりこいつはこう言いたいのだ。

 ―――私の言うとおりにしないとクロードの家壊すよ、と。

 冗談にも聞こえるがこいつならやりかねん。なんせこいつにとって家を壊すぐらいのことはコンビニ弁当に付いている割り箸を折るぐらい簡単なのだから。


「ねえ、クロード。ダメかなぁ?」


 上目遣いで俺に懇願してくるクロノス。

 この顔には「言うこと聞かなかったらわかるよね?」という意味が隠れてることを俺は忘れない。

 はあ、家を人質に取られちゃさすがに仕方ないか………


「わかりましたよ。もう好きにしてくださいよ」


 投げやりな感じで返すと、クロノスは待ってましたと言わんばかりに笑顔を浮かべた。


「いやー、クロードって太っ腹だねー」


 一体どの口が言うんだか。人のこと脅しといて。

 俺は店員に声を掛け、渋々と手続きを始めた。




 携帯ショップを後にした俺たちは途中で近場のスーパーにより、夕飯の材料を買って帰路についていた。

 隣ではクロノスがもう箱からスマホを出して画面やらをペタペタと楽しそうに触っている。


「スマホってそんなにいいか?」

「便利だと思うよ。ほら、こうやって手をかざすと画面動くし」

「手で動かせるってだけでそんなに便利とも思えんが」


 実際、ボタンで操作したほうが何かと面倒じゃないような気もするんだが。


「何? もしかして羨ましいの?」

「いや、別に」

「そりゃあそうだよね。クロードの携帯、スマホと比べると形が何か古いし、機能もあまりついてなさそうだし、羨ましくもなるよね」

「別に羨ましいなんて思ってねえよ。大体、電話とメールさえできれば携帯の機能としては十分だしな。あと形は別に古くない」


 と言ってもやっぱり羨ましくはある。なんていうか、その、スマホは機能もそうだが、フォルムも近未来的でなんかカッコイイ。なんだかんだ言ってもやっぱりほしい。

 だが、こいつの前で正直に言うと調子に乗りそうなのでそんなことは言わない。


「別に我慢しなくていいよ~。正直にいえば~」


 とスマホをいじりながら意地の悪い顔を俺に向けてくる。

 何とも楽しそうだな。

 それにしてもまさか自分が噂に聞いた災厄の使徒と携帯ショップと行ったなんて変な話だ。ユキトさんの話じゃ、隣にいるこいつは伝説に残るほどの存在って話だがいまいちピンとこない。これからどう接していこうかね? 


「それよりクロード今日の献立なに?」

「今日は親子丼だよ」

「親子丼?」

「食えばわかるさ」


 ま、別に態度を改める必要もないか。俺が気にしなきゃいけないのはそんなことじゃなくて月の携帯料金がいくらになることか、だけだ。

 俺の分に加え、クロノスの料金も入ってくるし………

 それから俺は家に帰るまでずっとそんなことを考えていた。

評価や感想、アドバイスなどをいただけたらとても嬉しいです。

P.S.辛口でも全然かまいませんのでお願いします。

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