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災厄な高校生活4

 教室に入ると、教室にいたやつら全員が入って来た俺たちを一斉に見る。それも眺めるように。

 もちろん言うまでもないが、視線を集めているのは竹中や俺でもなくクロノスだ。

 ……やっぱりか。だからこいつと一緒に登校するのは嫌なんだ。目立つから。

 あと視線で分かるが女子生徒がほんの僅かにだが、竹中の方を向いているのが分かる。

 まあ、竹中も結構顔は良い方だから分かるちゃあ分かるんだが、何となく俺に視線が向かないのも悲しいもんだ。

 だが、これでいいんだ。俺は目立たず、地味に学校生活を送れれば。


「おはよう。朝野さん!」


 教室にいた名も知らない男子生徒がいきなりクロノスにあいさつをしてきた。

 一瞬、俺のことかとも思ったが、俺に声を掛けてくる男なんて入学早々絶対にありえないだろうと思い無視する。


「おはよう~」


 挨拶をされたクロノスは朝からの妙に高いテンションのまま挨拶を返す。

 逆に挨拶を返された男子生徒はどこかニヤニヤとした笑みを浮かべ、近くにいた男子の集団に戻り、何やら話し始めた。

 絶対あいつクロノスのこと狙ってるだろう。まあ、知ったこっちゃねえけど。

 それから昨日座った席に座り、荷物の整理をしていると後ろの席にクロノスが座ってくる。

 忘れてた。こいつの席、俺の後ろだった。

 くそ、あいうえお順だから席も一番は端の前から二番目の席だし、後ろには災厄がいるしで何とも最悪な席順だ。

 大体、クロノスが俺と一緒の姓を名乗らなきゃ良かったんだ。そうすればちょっとはまともな席になれたのに。こいつと一緒じゃ、授業中に何されるか分かったもんじゃない。

 そんなことを思い、額に手を当てていると、竹中が近づいてきた。

 ちなみに竹中の席は真ん中の列の後ろから二番目の席だ。


「いやー、家でも一緒で学校でも近くの席か。どこでも一緒だね、二人は」

「いらんことを言うな。いらんことを」

「ま、別に私が仕方なくクロードの家に住んであげてるだけなんだけどね」

 

 机に身を乗り出して後ろからクロノスがそんなことを言ってきた。


「なんだと? そんなこと言うなら今すぐ出て行け。別に誰も住んでくれなんて頼んでないしな」

「いいよ、出て行っても。ただクロードが帰って来た時、家あるかわかんないけど」

「ま、まあ……うん。やっぱいてもいいな。うん。いてもいい……」

「ですよね~」

「ははは、家を人質に取られたんじゃ、しょうがないね~。クロード」


 竹中。お前、冗談だと思ってるかもしれないがこいつならマジでやりかねないんだぞ。


「あ、あのー……ちょっといいかな、朝野さん」

「ん?」


 いきなり呼ばれた声に振り返ると、女子生徒が二人、こちらに話しかけていた。


「ん?」


 呼ばれて女子生徒の方を振り返る。 


「あ、朝野君のじゃなくて朝野さんの方」

「あ、ああ、悪い」


 だから嫌なんだよ。同じ名字は。こうやって間違って反応したりするから。


「え、私?」

「うん。朝野さんの方」

「紛らわしいから黒乃でいいよ」


 じゃあ、俺と同じ姓名乗んなよ。


「あ、うん。じゃあ、黒乃さん。質問いいかな?」 

「ん?」

「あの、さっきっき黒乃さんと朝野君が同じ家に住んでいるみたいなこと言ってたけどあれって本当なの?」

「!」


 しまった! さっき竹中が言ったこと聞いてやがったのか、この二人。

 恨めしげに竹中の方を睨んでやると、なぜだかウインクしてきた。お前、意味分かってないな。

 ここはうまくクロノスにはぐらかしてもらうしかない。頼む否定してくれ!


「違う違う、私が仕方なくクロードの家に住んでやってるってだけ」

「え―――――」 


 クロノスが言った途端二人の女子が絶句した。

 その顔は先ほどの竹中と同様、いや、それ以上に驚いているように見える。

 否定するとちがーう! そこどうでもいいから!

 それから女子は二人「うそ! うそ! マジで!」と騒ぎながら女子の集団へと戻っていった。

 ……最悪だ。こいつ誤魔化すこともなく普通に言いやがった。

 終わった。これで注目を浴びることになる。女の子と一緒に一つ屋根の下に住んでいる男として。

 そしてホームルームが始まるまでの間、俺とクロノスの席には名前も知らない女子や男子(ほぼ俺の席にだけ)が群がり執拗に質問攻めされたり、何やら鋭い視線を向けられたりした(俺だけ)。




 それから午前中の日課(主に部活の紹介とか、学校の案内とかだが)が過ぎ、昼休みになった。

 クラスの連中はそれぞれ仲良くなった者同士で集まり、わいわいと弁当を食べたり、食堂に行ったりしている。

 俺は別段仲良くなったやつなんてまだ一人もいないので近くのやつの席を借りた竹中と二人で飯を食べている。


「それにしてもクロード人気者だね」


 弁当のウインナーを口に含みつつ、竹中がそんなことを言ってきた。


「女子と一緒に住んでるから物珍しいってだけだろう。それに変な噂を流されそうで嫌だし、目立って不愉快だ」

「確かにクロードって目立つの嫌いだもんね。でも、これを機にクラスに溶け込むってのもいいんじゃない?」

「まるで俺がクラスに溶け込んでないような物言いだな。言っとくけどまだ今日は入学して初日だからな」


 まあ、たとえ初日じゃなくても、クラスの男子から若干反感らしきものを感じる視線を受け続ける俺だ。クラスに溶け込めるかどうかは怪しいところではある。


「さすが、クロード。弁当もおいしいね」

 

 不意に俺の席の後ろから声がした。……クロノスだ。


「おい、なんでお前もここで食ってる。さっき誘いに来た女子どうした」

「せっかく男二人で寂しく食べている所に気遣って断ってやったのに酷い言いぐさ」

「別にそんな気遣いはいらん」


 まったくせっかく誘いに来てくれたのに断るなよ。俺なんて声すらもかけられなかったぞ。ま、声をかけられるような人間でもないんだけどさ。


「大体、お前のせいだからな。こんなに目立ってんの」

「えー、別に私何も言ってないよ」

「言っただろうが、俺の家に住んでますって」

「別にあれくらいいいでしょ」

「よくないわ! 大体、年頃の男女が一つ屋根のした二人っきりで家に住んでんだぞ。他のやつか変なら勘ぐり受けることはもちろん、変な噂まで流される。そして入学早々に注目を浴びる。最悪だ」

「地味より注目浴びる方がいいでしょ、地味より」

「地味って言うな。目立たないと呼べ」

「まあまあ、二人とも落ち着いて」


 竹中がなだめるように言ってくる。


「ったく」

 ことの重要性に気づかないやつはこれだから。

 あー、名前とか覚えられてなきゃいいけどなあ。

 弁当をさっさと食べ上げた俺はカバンに弁当箱をしまうと、席を立った。


「あれ、クロードどこか行くのかい?」


 まだ弁当を食べている竹中が不思議そうに俺を見る。


「ちょっと違う教室にお邪魔しようと思ってな」

「へえー、クロードでも違う教室に遊びに行ったりするんだ。以外だね」

「あ、ああ、まあな」


 なんてな。誰が入学初日に用もないのに他のクラスに行くか。まだ同じクラスの連中の名前も覚えてないっていうのに。

 俺はただ、事実を確認しに行くだけだ。

 今日の朝、ニュースで言っていた入界管理局がゲートの運転を再開するという話。もし、それが本当なら俺はすぐに非常勤職員として入界管理局で働かなくてはならない。いや、多分テレビで言ってたから本当なんだろうが、一応確認をしておかなくては。


「はぁー……」


 思わずため息が漏れてしまう。 

 こっちは昨日いきなり働けとか言われて準備すらまともにしていないんだ。少しくらいは間を空けてほしい。……できるなら働きたくないけど。

 とにかく早く確認しに行かなくては。

 あまりあの二人の顔を見たくはないが他に訊く相手もいないし、仕方ない。

 教室から出るとさすがにまだみんな昼食を食べているらしく廊下には誰もいなかった。

 ちょっと出てくるの早すぎたか。

 まあいい。さっさと志水か成宮の教室さがしてどちらか一方に訊けばいい。

 よし、まずは一組から見て回るか。

 自分のクラスである三組を抜かして、一組から順にドアを少し開け、中を覗って回ると五組の教室に目標の一人を見つけた。

 若干、赤みがかった茶髪が印象的なクレイジーな二人のうちの一人。

 ――――志水だ。

 見つけたはいいがみんな弁当食ってて何とも入りにくい。なんだろうね。こう、入ったことのないクラスに入る時のこの無駄な緊張感。

 このクラス、いや、まだこの学校で知り合いが少ない(知り合いと言っても入界管理局の二人とクロノスと竹中ぐらいだが)俺だ。他のクラスに入るなんて超アウェー。敵地に単身で特攻をかけるみたいなもんだ。

 さて、どうやって入ったものか。

 ドアの所でしばし、どう入るか考えていると、ちょうど、売店から何かを勝手きたであろう男子生徒が俺とは反対側のドアから教室に入ろうとした。多分、この教室の生徒だ。

 ラッキー!

 すぐさま、その男子生徒を教室に入る寸前で呼び止め、志水を呼ぶように頼んだ。

 少しの間待っていると志水が教室から出てきた。そして俺を見るとすぐに嫌そうに表情を歪め、鋭い視線を俺に向けてきた。


「……なんですの朝野さん。まだわたくし、お昼を食べてる最中ですのよ」

「悪い。ちょっと訊きたいことがあってな」

「なら早く用件を言ってくださらないかしら。あなたとはあまりいたくありませんから」


 おお、きっぱり言ってくれるな。


「あー、はいはいなら手短いいいますよ」


 しかし、なんでこんなに悪態をついてくるんだか。悪態つきたいのは俺も同じだぞ。


「えーとだな。今日ニュースで言ってたんだが、入界管理――――むごッ」


 要望どうり話そうとしたらいきなり志水に口を塞がれた。


「ちょっと、こっちに」


 そのままネクタイを掴まれて廊下の端の方にあった何かの準備室だろうと思われる部屋に入れられ、志水がドアを閉める。


 ちょ、いきなりなんだ?


「ふぅ」


 どこか安心した様子で志水がため息をつき、俺の口を押さえていた手を離す。


「おい、なんのつもりだ」

「それはこっちのセリフですわ。あんな所で軽々と入界管理局などと……」

「でもみんな入界管理局のこともう知ってるだろ。テレビとかで言ってて有名だし」

「そういうことじゃありませんわ。わたくしが言っているのは私たちが入界管理局に関係しているということを知られる恐れがあるということです」

「ああ、なるほど」


 そういや誰にも言うなって口止めされてたな。


「まったく。もし誰かに聞かれていたら今後の活動に支障が出るところでしたわ」

「でも、入界管理局って記憶操作とかできるんじゃないのか? 現にこの前のクロノスの一件、違う事件になってるし」

「はあ? あなたバカですの? 大勢の人間の記憶を操作するならまだしも、ごく少数の人間の記憶の操作をする時の書類申請がどれだけ面倒かも知らないくせに」


 まるで何か嫌な思い出でも思い出したように志水が鬼の形相で言ってくる。


「あー……なんかすみません」


 あまりに険しい形相だったのでなぜか謝る俺。あと俺、何もわかってないからな。


「で、わたくしに用ってなんですの? まあ大体見当はついてますけど」

「実は今日の朝、ニュースでゲートターミナルがゲート装置の運転を再開するって言ってたんだが、あれって本当なのか?」

「ええ、本当ですわ」

「マジで!」


 最悪だ。最高に最悪だ。

 もうしばらくは働かなくていいって局長は言ってたのに……くそっ、だまされた。

 今後の俺の先行きについて頭を抱えていると志水が付け加えるように言ってきた。


「ああ、そうそう。近々言おうと思ってましたけど、そろそろ本格的に仕事が増えると思いますから準備してたほうがいいと思いますわよ」

「なっ―――」

「じゃあわたくしまだお昼途中でしたので失礼しますわ。くれぐれも準備を忘れないように。でないとわたくしたちの迷惑がかかりますから」


 そう言い残して志水は部屋から出て行った。

 志水が出て行った後、俺の意識は昼休みの終わりのチャイムが鳴るまでどっかに吹っ飛んでいた。


 

 

 それから午後の部活動紹介などの日程が過ぎ、いつの間にか放課後になった。

 俺はどうしようもない虚脱感を抱えつつ、クラスメイトが部活動見学に行ったり、下校している中、今だ机に突っ伏していた。

 最悪だ。マジでゲート装置の運転再開すんのかよ。

 ていうか準備しとけって言われたけど、何、準備って。何準備すればいいんですか? 昨日入界管理局で働けって言われたばかりで何も知らないんですけど。 


「はあ」


 ふと、ため息が漏れる。

 せめて心の準備期間を最低一ヶ月くらいはほしかったよ。

 最悪、クロノスを助っ人に呼べばいいが、結局働くのは俺。色々面倒なことが降りかかるのは目に見えている。それに一応手伝ってくれるとクロノスは言っていたけど、そう何度もあいつが手伝ってくれるとは思えない。

 はて、どうするか………

 今後のことについて悩んでいると朝、クロノスが言った言葉が頭を過ぎった。

 確か、俺が入界管理局で働く理由になった人機の修理費の弁償の件も所詮はただの口実と言っていた。

 もし、あれが本当だとしたら俺は働かなくていいと言うことだ。

 くそっ、昼休みゲートの件について聞いた時ついでに志水に訊いときゃよかった。


「あれ、クロード帰らないのかい?」


 顔を上げ、声のした方見ると帰り支度を済ませた竹中が立っていた。

 見ると教室には俺と竹中を含め、いつの間にか五人くらいしか残っていなかった。


「そうだな、そろそろ教室出るか」


 面倒臭いが仕方ない。直接入界管理局に行って局長に問い詰めてやろうじゃないか。そして入界管理局に所属することを取り消してもらおう。


「あ、そうだ。どうせ帰るなら部活動見学でもしていかない?」

「部活? お前、部活すんのか」


 以外だな。中学の時は何の部活にも入っていなかった竹中が部活をするとは。てっきり高校でも帰宅部を貫くと思っていたのに。


「うん。運動部じゃなくて文化部に入ろうかなって考えていてね。良かったらクロードも一緒にどうだい?」

「悪いな。今日は行く所があるんだ」

「そうか。じゃあ、明日にでもい行かないかい?」

「ああ、明日なら別にいいぞ」


 その頃にはもう自由になってるだろうからな。


「じゃ、俺もう行くから」

「うん。じゃあまた明日」

「ああ」


 竹中に別れを告げ、教室を出る。

 目指すは入界管理局本部。あまり行きたい場所ではないけれど今日で最後になるかもしれないんだ。それを考えれば一回ぐらい行ってやるさ。

 俺はどこかウキウキした気持ちを胸に入界管理局に急いだ。


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