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災厄な高校生活2

 結局、俺が解放されたのは入学式が終わってから四時間後の午後四時過ぎだった。

 あれから施設内の説明や、各種書類書きなど色々していたら思った以上に時間がかかってしまい(主に局長が暇だから施設内で案内するって言って迷ったりなどしたからだが)こんな時間になったわけだ。何とも最悪だ。

 あ、ちなみに昨日から気になっていた『グールのせいで生じた被害が地盤沈下という事実とは異なる形で報道されている件』について話の種程度に局長に質問してみたところ魔法による記憶操作や情報規制がしかれているからとのことだった。

 何とも大がかりなものだ。グール一匹のせいで大多数の人間の記憶を操作するなんて。 まあ、色々俺がわからない都合ってやつがあるんだろうが、記憶をいじるなんて非人道的な気もしなくもない。ま、直接的、間接的に俺に影響が出るようなことでもないので別段そんな話はどうでもいいんだが。

 それにしてもだ。魔法ってやつはチート過ぎる。これだけ大勢の人間の記憶を操作できるんだから。ある意味反則とも言えるだろう。

 とまあ、関係のない話は置いといて本題に戻るが、先ほど受けた説明によるとなんでも俺には非常勤職員ってのやってもらうそうだ。

 説明を受け始めた当初は常勤じゃない、やったー! なんて喜んでいたが説明を聞いていくうちにどんどんと勤労意欲が失せていった。

 時給は三百円。最低賃金に遠く及ばないはした金。

 そして何より問題なのが仕事内容だ。

 簡単に言うと仕事内容は大きく三つ。 

 

 その一、自分の担当する区域にこの前の準知的生命体(グール)のような物が万一出現した際の駆除、または調査。


 その二、異世界絡み事件が起きた際にすぐに現地に赴き、現状の確認、調査、報告。


 その三、正規の職員不在時のバックアップ。

 

 と主にこの三つが主な仕事内容らしい。

 見てもらえば分かると思うがどれも危険が伴う仕事。仕事意欲が失せるのも仕方ないだろう。

 一に関してはまたあのグールに関わらなきゃいけないかもしれないし、二に至っては事件が起こった場所に行かなきゃならない。それも普通の事件ではなく異世界絡みの。最悪死ぬかもしれない。三もまた然り。死ぬ可能性大。

 こんな危ない仕事をこんな真面目で善良な一般市民たる俺に任せるなんて正気の沙汰じゃない。

 で、仕事内容の中にある担当する区域ってやつだが、なんと俺の住んでいる近辺だった。 聞いた話によると高校変更の件は、もし俺が元々行くはずだった字源高校に通ってしまた場合、担当区域から外れるため、わざわざ担当区域内の中にある志水グループの運営する志水学園に入学させたとのこと。手続きも志水グループが入界管理局日本支部の出資者らしく簡単だったとか。

 つまりは最初から結果が分かっていて俺に二択を迫ってきたってわけだ。何とも悪質極まりない。入界管理局ってやつは。

 大体、説明する側も説明する側だ。一通り書類を書き終えた後に説明をするもんだから、説明し終えた後に「やっぱりやりません」って言ったら「もう人事部に書類送っちゃったから無理」の一言で済ませやがって、結局働くハメになってしまった。とても最悪だ。

 だが、幸いにも入界管理局を出る時に局長がゲート装置の運転を停止してるからもうしばらくは仕事が無いとのことだった。

 どうやらいきなり仕事ってわけじゃないようでとりあえずは一安心。

でも口外するなと言われてしまったので、この仕事がない期間に誰かに相談することもできない。万事休す。どうすりゃいいんだよ。


「……ありえんだろ。入界管理局……」

 

 後ろにある入界管理局のカモフラージュ(らしい)のビルを一度振り向いて深ため息をつき、俺はまだ工事の音が響き渡る大通りを一人虚しく歩いて行った。

 



 家に帰る途中、この上なくブルー気分だったが、近所にあるスーパーで夕飯の買い出しをし、家に向かう。家にたどり着く最後の難関である家の前の坂がいつもよりきくつ感じられたのはきっと気のせいではなく、俺の精神状態が体に影響しているからだろう。

 何とか坂を上り終え、玄関のドアを開けて中に入ると、リビングの方から何やら知っている音、というかるアニソンが聞こえる。


「あ、おかえり~」


 リビングに入ると、そんな声とともに可愛い女の子(見た目だけ)がテレビのリモコン片手に出迎えてくてた。テレビの前にはこの前かったアニメのDVDが置いてある。よく見ると俺の部屋に置いていた物だった。

 ……そうだった……‥こいついたの忘れてた……――ってそうじゃない!


「おい、お前のせいでとんでもないことになったぞ!」

「とんでもないこと?」

「とぼけんなアホ! お前のせいでこっちは入界管理局で働くことになったんだよ!」

「え、なんで?」

「え、なんで? じゃねえよ! お前がこの前壊した人機の修理代を弁償しろって言われたんだ! で、俺が金が準備できないって言ったら働いて返せって言われて働くハメになったんだよ!」

「長い。説明が長すぎる。もっと簡単にまとめて」

「ああ、もう、簡単に言うとだな。人機の修理代働いて返せってことだ」

「はい、わかりやすい説明ありがとう」


 パチパチとクロノスが拍手をする。

 お、そんなに俺の説明わかりやすかったか? 俺って意外と説明うまいんじゃ―――


「―――ってそうじゃねえよ! どうしてくれんだよ! なんでただの学生たる俺が入界管理局なんていう危ない所で働かなきゃいけないんだよ! それもバイト感覚で! おかしいだろ!」

「うるさいなあ。よく聞こえないから黙って」

「………」


 なんで自分の家で俺が命令されなきゃいけないんだ。


「とにかくだ。責任はとってもらうぞ!」

「……ははあ、うまく使われたな……」

「ん? 何か言ったか?」

「べつにー。ま、とにかくその入界管理局の仕事だかバイトだか知らないけどそれに私も協力してあげるからそれでいいでしょ」

「う~ん……」


 確かにこいつがいれば異世界のテロリストとか犯罪者とかが相手でも鼻ほじって見物するくらいの余裕は持てそうだ。案外その提案は悪くは………いや、すでに状況が状況なだけにかなり悪いか。まあ状況は悪くはあるが、クロノスの協力でさらに悪くなるなんてことはまずないだろう。


「わかった。ちゃんと協力しろよ。こうなったそもそもお前のせいなんだし」

「はいはい」


 よし、危ないことは全部クロノスにやらせよう。そして俺は普通の学生ライフに花を咲かせるとでもしよう。

「あ、そうだ。クロード、どう? この制服。似合ってる?」

「ん?」


 思い出したように俺の前に立ち、クロノスが制服のスカートを(ひるがえ)し、一回転する。

 ああ、そういえばこいつ今日はいつものワイシャツネクタイという格好じゃないな。まあ、入学式に出たんだから当たり前ではあるのだが。


「うーん………馬子にも衣装とはこのことだな」

「なっ、失礼な!」


 本当はすごく似合っていたが素直に褒めるのは少し癪に障るので少し誤魔化して褒めてやる。


「ほんと、クロードって乙女心わかんないなあ。そんなんじゃ、これからの学校生活で彼女の一人もできないぞ」

「余計なお世話だよ」


 別に彼女作るために学校に行くわけじゃねえよ。

 …………ん、学校?  


「―――――ってそうだ! クロノスお前なんで学校いんだよ! ていうかなんで家にいんだよ!」


 危ない危ない。

 昨日は突然の色々なことがありすぎて、今日の朝まで放心状態だったから、忘れていたがなぜにこいつがここにいる。それに学校にまで進出してきて。


「私、こっちで捜し物してるって前に言ったよね」

「ああ」

「それでこっちにしばらくいなくちゃいけないんだよね。まあ、そんなわけでこっちの世界で捜し物をするからここを拠点にしようと思ってね。で、学校に行くのは暇つぶし」

「どんなわけじゃああああああああああああああああああああああ!」


 目の前にちゃぶ台があったらひっくり返しそうな勢いでクロノスに向かって叫んだ。

 なぜに俺の家がクロノスの活動の拠点にならなきゃいかん。それに学校に来た理由が適当にもほどがあるぞ。こっちは将来のこと考えて学校に行ってんのに。ホントにこいつどんだけ俺に迷惑かければ気が済むんだ。


「大体だ。なんでお前が俺の、俺の家の遠縁になってんだよ! おかしいだろ!」

「まあ、そういう設定にしてもらったからね」

「設定?」


 なんのことだ?


「そう、設定。戸籍作る時に遠縁にあたるようにしてもらったの」

「戸籍って……そんな簡単に作れるもんじゃねえだろ。お前、一体どうやって……」

「ま、そこは秘密ってことで」

「秘密って……」


 少し気にはなったが聞いたところで別段俺にとって得はなさそうだし、何よりこれ以上話を脱線させるわけにもいかない。戸籍がどうのって話よりも肝心なことがある。


「――と、まあ戸籍がどうのって話は別にして。そんなふざけた理由でここにいられちゃ困る。今すぐ荷物まとめて出てけ!」

「……私が出て行ったら私、クロードの仕事に協力できなくなるよ」

「そんなに住むとこ困ってるならそこら辺にあるマンションでも借りればいいだろ。それなら俺の手伝いができる」

「ふ~ん。そんなこと言うんだ?」


 パキ。パキキッ。

 クロノスが意味ありげに拳を鳴らした。


「こんな家なんて私の手にかかれば一瞬でただの廃材に変えることできるんだけどな~」

「はい。すみませんでした。どうかここにいらしてください」


 クロノスが言葉を最後まで言い終えるのを待たず、俺は光の速さで謝った。


「そこまで言われちゃ断るに断れないね」


 さすがに家を壊されたら洒落にならん。ただでさえ、入界管理局の件で参っているってのに住む場所までなくなったんじゃ、もう自殺もんだ。ここは素直にこいつの言うとおり居候させてやり過ごすしかない。幸い、入界管理局の仕事も手伝ってくれるらしいし、少しは役に立つだろう。もっともこうなったのはこいつのせいなんだが。


「とにかく俺の家に居候するなら変なことは絶対すんなよ。近所から変な目で見られるから。あと、俺の部屋に勝手に入んな。わかったな」

「若干、心得ました!」


 若干かよ。

 俺は頭を押さえて夕食の準備をするためにテーブルに置いていたビニール袋を手に台所に向かう。

 色々なことが起こりすぎて多少頭が痛いが、とりあえず洗濯物畳んだりもしなくちゃいけないし、早く準備に取りかからないと。

 ついでにだが、今日の夕飯は肉じゃがだ。




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