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災厄な高校生活1

 あれから学校を出た俺たち三人は字源市中心部の大通りに来ていた。

 ここはつい先日、クロノスとグールが大規模な戦闘を行った場所だ。おかげで今も壊れたビルの修復工事や道路の整備など違う意味で色々と騒がしかったりする。

 で、ここで何をするのかだが、俺にも実際分からない。

 なら訊いてみれば? という結論に行き着くのは当たり前なんだが、どうにも気が進まない。

 だが、それも当然だ。だってさっきから入界管理局の二人はバスで移動している時も終始無言。さっきから一切会話がない。時々、今日は晴れなのに「今日は酷い天気だなー」なんてツッコミが入れやすいようにアホなことを言ってみたりもしたがツッコミの一つも入れてこない。

 こっちにだって色々訊きたいことの一つや文句の一つもあるんだがこうも会話がないと切り出し方が分からない。

 誰かこの空気ぶち破って!


「着きましたわ」

 

 俺の願いが通じたのか終始無言だった志水がをいきなり口を開いた。


「えーと、着いたって……ここ?」

 

 見ると目の前には商業ビルと思わしきビルがある。見るからに何の変哲ないどこにでもありそうな二階建てのビルだ。

 一体ここに何があるんだろうか。商談でも持ちかける気か?


「どうしたの。早く着いてきて」

 

 立ち止まっていた俺に振り返り成宮が言う。


「……あ、ああ」

 

 少しためらいつつも後に続く。

 中に入るとまず、目の前に受け付けカウンターがあり、受付嬢が二人こちらに向かって笑顔を振りまいている。見るからに一般的な会社だ。

 と、そこで志水と成宮が懐から何やらカードのような物を出し、受付嬢に見せている。


「確認しました。そちらのお客様は………」

「心配いりません。局長から丁重にお連れしろと言われたお客さまですから」

「分かりました。では奥へ」

 

 受付嬢に促され、カウンターの近くにあったドアから通路に入り、右や左へと曲がった後に階段を下りていく。すると一つのドアの前で行き止まった。

 ガチャリ。

 志水がドアを開けてその後に続いて中に入る。

 見ると部屋の中にはポスターや書類などが大量に入った段ボールなどが所狭しと置いてあった。どうやらここは物置らしい。

 なぜこんな場所に……?

 俺が頭に疑問符を浮かべていると志水が壁を手でぺたぺたと触りだした。


「あれえ、おかしいですわね。確かこの辺りに………」

 

 欠伸を漏らしながら志水がぺたぺたと壁を触るところを見ていると、いきなり志水が触っていた壁が左右にゆっくりと開きだした。


「お、おお……」

 

 思わず感嘆の声が漏れてしまう。

 完全に壁が開き終えるとエレベーターらしき物が顔を出してきた。まるで秘密基地のようだ。それも子供の頃作ったボロっちい物じゃなくてモノホンの。


「さあ、入って朝野君」

 

 エレベーターで地下に降りること数十秒。どれくらい下りただろうか。エレベーターは止まり、先ほどの商業ビルとは違うどこか機械じみた通路を二人の指示の元、歩いて行くと二人が一つのドアの前で立ち止まった。ドアの前で立ち止まるとドアがスライドし、二人が中に入っていく。俺も二人に続き、中に入る。


「おわっ、なんだこれ!」

 

 中に入ると目の前に大きなモニターがまず、目に入った。次に目に入ったのが人が入るくらの大きな穴が空いた壁。そして所々にはオペレーターのような人達がいて、目の前に映し出されたディスプレイ相手に何か作業している。さながらどこかの特務機関を想像させるような光景だった。


「ここは一体………」

「やあやあやあ、ご足労、二人とも。で、彼がそうなのか」

 

 男の好奇心をかき立てられ、室内を見回していると不意にそんな声が聞こえてきた。

 声のした方を振り向くと、他の人達とはどこか違う雰囲気を漂わせたと金髪ツンツンヘアの男がこちらに歩み寄って来ていた。年からすると二十歳か二十歳前後といったところだろう。


「はい。彼が朝野蔵人です。ていうか一回映像見ましたよね」

「ああ、あの時はちょっと寝ていたから覚えてない」

「………」

 

 謎の男が志水と成宮が呆れたような顔を見せていることも知らずに俺の方を振り返る。


「で、君が朝野蔵人君か。まだ若いな。って高校生だったか。まだ成り立ての」

「ええ、まあ……あのそれであなたは」

「ああ、俺かい? 俺はここで局長をやれせてもらってるゼクト・リゼルだ。よろしく」

「あ、そうですか」

 

 へー、この人局長なんだー。―――って、局長!


「あのー……もしかして局長って………入界管理局の?」

「その通り入界管理局の局長だ。俺は」

「マジですか!」

「マジ」

「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 なぜに俺は入界管理局に呼ばれてんだ。意味が分から―――いや、待てよ。クロノスのことで頭がいっぱいだったから忘れていたが確か昨日、成宮が家に来た時に「入界管理局で働いてもらう」って言ってたな、確か。

 多分、今日呼ばれたのはそのことについてだろう。でも、わざわざ俺のためにトップ自ら出てくるなんて普通に考えておかしい。何か裏がありそうだ。ま、例え裏があろうとも絶対に入界管理局なんかでは働く気なんて微塵もないが。


「なに、そんなに驚かなくても大丈夫だ。俺は君に何かしようってわけじゃない。というか、俺は男には興味がない」

「あ、そういう話ですか………」

 

 女だったら何かすんのかよ。


「まあ、立ち話もなんだ。まずは移動しよう」

 

 そう言って局長がさっき入って来たドアを指さし、隣に隣接していた部屋に移動する。

 中はさっきの部屋ほど広くはなく、椅子と机が複数置いてあるだけ。あえて特徴をあげるなら部屋の中に何を描いているのかまったく分からない絵画が目の付く場所に一つだけ飾られていることと、すでにテーブルにお茶が四つ並べられているということだけだ。


「じゃ、座ってくれ」

 

 局長の言うとおり椅子に座る。ついでに席順は俺の目の前に局長、その左側に志水、右側に成宮で対する俺の方は一人。まるで尋問といった具合だ。


「で、本題に入るが………ズズズッ」


 言ってさっき置かれた緑茶を一杯すする局長。


「今日君をここに呼んだのは他でもない。君に入界管理局で働いてもらおうと思ってね」

「そういえばそんなこと言ってましたね」


 どちらにしろ全力で拒否するのだから聞いても意味はないが、拒否するからと言って訊かないのもなんだから一応理由くらい訊いてみるか。


「で、いきなり質問なんですけど、なんで俺が入界管理局で働かなきゃいけないんですか。自分で言うのもなんですけど俺はどこにでもいる普通の学生ですよ。それに未成年だ。働く理由がない」

「まあまあ、そんなに必死にならないでくれよ。まずはこれを見てくれ。マキちゃん、映像を」

「その呼び方やめてください。局長」

「いいじゃないか。俺は君が小さい時からそう呼んでるだろ」

「それはそうですけど……」

「……あのー、その映像とやらは………」

「おっと悪い悪い。話が脱線した。早く映像を」


 局長が再び言い、成宮が装置をいじり始める。

 早くしてくんないかなあ。こっちだって家に帰って洗濯とか夕飯作りとかしなきゃいけないってのに。


「さあ、見てくれ」


 成宮が机の上に置いてあった装置を操作し終え、空中にディスプレイが現れ、映像が流れ始める。

 さすが入界管理局だな。空中投影ディスプレイがなんかが普通にある。


「…………」


 流れ始めた映像はを見ること約二分半。途中でノイズだらけになり、見れなくなってしまった。

 映像の中では日本刀を持った人影が無数に迫り来る黒い紐のようなモノを切り裂いている映像だった―――――って、


「これ完全に俺じゃねえかああああああああ!」

「お、よく分かったね」

「そりゃ、分かりますよ! だって自分なんですから!」

「そりゃそうか」


 はは、と渇いた笑いを浮かべる局長。


「あれは君と災厄の使徒、つまりはクロノスさんが準知的生命体と上でドンパチやっていた場所に設置してあった防犯カメラの映像だ」


 上でドンパチ? 

 ああ、そうか。ここはこの前グールと戦った場所の地下にあるのかもしれない。実際、戦っていた場所の近辺にあったビルからエレベーターで地下に降りたわけだし。それにしてもクロノスさんってなんだ、クロノスさんって。


「……なるほど防犯カメラの。で、これと俺が入界管理局で働くこととどう関係があるって言うんですか」

「関係あるさ。実際に戦ったから分かると思うけど君はあの準知的生命体の第三形態を倒した。君の戦闘能力は異常すぎる。それも人間じゃなく、ウィザード、エルフと比較してもね」

「あ、あれはクロノスから貸してもらった刀のおかげで………」


 俺なんてあの刀なかったらただの凡人なんですけど。


「とにかく、これがどう関係するんですか?」

「まあ、それは後回しにして。とにかくこれを見てもらってから説明しよう」


 局長は今一度ズズズッとお茶をすすって俺の目の前に小さな紙を差し出した。


「これは?」

「読めば分かる」

「読めば分かる?」


 何だろうかと思いつつ、紙に目を通すとどうやら領収書のようだった。それも金額が大きい。一、十、百、千、金額からして一千万とちょっと。


「あのこれ何の領収書ですか?」

「半壊した人機の修理費だ」

「……はい?」


 人機の修理費? なんだそれ?

「先日、クロノスさんの造った空間を調査するために志水君とマキ―――成宮君を空間内に送り込んだ。その際にもしものことを考えて成宮君に持って行かせた人機の修理費さ」

「ちょっと待ってください! 人機壊したの俺じゃなくてクロノスですよ」

「あ、いやあ………」


 言葉に詰まりながら局長が気まずそう俺から視線を外す。


「あー、うん……あれは君が壊したんだ。そうに決まってる」

「はあ? 何言ってるんですか。ホント……」


 意味が分からない。あれは俺を助けるためにクロノスが壊した物で俺は一切とは言い切れないがとにかく俺が壊した物じゃない。


「と、まあそういうわけで君にはこの人機の修理費を払ってもらわなくちゃならない」

「ちょ、不当ですよ。そんなの。第一俺は壊してないですし」

「ふ、不当じゃ、ななな、ないし、この世界の法的にも問題はない」

「え、ええ!」


 話がまったく見えてこない。なんで俺が壊したことになってるんだ? 意味が分からん。 困惑しつつも、あの場にいた二人に問いかける。 


「おい、あんたらもあの場にいたから分かるだろ。俺が壊してないって」


 反対側に座る志水と成宮に話しかける。

 すると二人は、


「き、局長の言うとおりた、たしかに人機を壊したのはあなたで間違いないですわ」

「ええ、あなたが人機の両腕を壊したのを私は見たわ」


 と口々に事実とは異なることを言い出した。


「おい、おかしいだろ、それ。ちゃんと真実言えよ……」


 話を元に戻すぞ、と前置きして再び局長が話し始める。


「とにかく壊してしまった人機の修理費はちゃんと払ってもらう。この日本支部だって今はゲートの運転を停止しているから予算的にも厳しく、君の壊した人機の修理費を黙認するほどの余裕もないからな」

「そ、そんな……」


 あんまりだ。

 あんまりにもあんまりすぎる。

 これ、なんの冗談ですか? 

 一千万と少し俺に払えって?

 あはははは。面白い冗談だ。

 ………って笑えねえよ。全然面白くないよ。理不尽過ぎるだろ。

 変な非現実に巻き込まれた挙げ句、その加害者たるバカ女が壊した人機の修理代まで請求されて。

 どうすりゃいいんだよ………

 学生たる俺にそんなポケットマネーなんて無いし、そもそも家にそんな金なんか無い。 他に考えられる方法は窃盗? いやいやいやいや、そんな犯罪に手を染めるほど人間腐ってないし、それにそんなことする度胸もない。

 こうなったら身体を売るしかない。そうすれば少しは足しになるはずだ。

 あー……臓器って一体いくらくらいするんだろうなあ…………


「とまあ、悩める少年に俺から一つ提案だ」

「?」


 今後の身の振り方について考えているといきなり人差し指を一本立てて局長が話しかけてきた。


「学生である君にこれだけの金額を用意するなんて到底無理だろう。しかも君の家について色々調べたが、払える余裕もないことは明らかだ。一般的にこういう場合、方法は一つしかない」


「そ、その方法って………?」

「ずばり、働けばいいってことだ。ほら、この世界にはこういう名言があるだろ。『お金がなければ働けばいいじゃない』って」

「いや、パンがなければお菓子を食べればいいじゃない、みたいな感じで言われても困るんですけど」


 なんか名言間違ってるし。……この人、本当にここのトップか怪しくなってきたぞ。


「とにかく君には人機の修理費分はちゃんと働いてもらうからよろしく」

「ちょっと待った! 労働基準法に違反してますよ! 俺まだ学生なんですから」

「じゃあそこはアルバイトってことで」

「それ最低賃金以上出るんですか」

「出ない」

「ほら来た! 最低賃金も出ないアルバイトってありえませんよ!」

「や、だって働いて人機の修理費払うんだから最低賃金以上の金が貰えるはずないだろ」

「……えー……」


 悪夢だ。

 なんで俺があのクロノス(バカ)が壊した人機の修理費を肩代わりしなきゃいけない。壊したのはクロノスであって俺じゃない。

 それにこの三人、真実とは違うことを言っている。何か裏があるとは思っていたが、まさか人機の修理費を肩代わりさせられるとは思ってなかったぞ。

 おまけに断ろうにも人機を壊したクロノス、つまりは加害者側の人間に協力した形になっているからどんなに俺が支払いを拒否しても正当性がない。

 つまりは将棋でいう王手。チェスでいうところのチェックメイト。逃げ場はない。

 くそっ、『働いてもらう』ってそういう意味だったのかよ。


「さあ、どうする? 直で払うか、地味に働いて返すか。さあ選びたまえ。まあ、準知的生命体を倒した君なら別に心配はないさ」


 局長がキザっぽく両手を広げ、俺に答えを迫ってくる。何とも芝居がかっていてウザい。

 普通ならここは働いて返す方を選ぶんだろうが、何せ支払うのが一千万と少し。何年かかるか分かったもんじゃない。それに加え、入界管理局でバイトなんて一体何をやらせられるか知れたもんじゃない。例え、一般的なバイトだったとしてもロクな金も出ないバイトなんてありえない。

 でも、ここでうんと言わなきゃ直で払うことになる。

 しかし、俺の家にそれだけの金を払う余裕は微塵もない。

 つまり俺には一つしか道が残ってないことになる。


「……わかりました。やりますよ。そのバイトってやつを」


 この時の俺の気分は言うまでもなく、最強にブルーだった。


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