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プロローグ:開幕の日常

「朝野黒乃です。好きなものは楽しいこと。嫌いなものは特にありません。一年間よろしくお願いします」

 

 今、俺の後ろに座っている一人の女子生徒が席から立ち、自己紹介を始めた。そして俺はその声を聞きつつ、頭を押さえていた。

 どうもここ最近の俺は頭痛に悩まされる傾向にあるらしい。

 いや、でもそれも当たり前か。

 化け物女と出会い、これまた変な化け物と戦ったり、殺されそうになったり。色々とありえないことばかりが起こりすぎだ。ましてやその原因を作った化け物女が俺の家に住み着くことになったりなんてしたら悩みの種もとい頭痛の種は尽きるところを知らないだろう。だから今俺の頭を襲うこの痛みも頷けるってものだ。

 そう。すべて今、俺の席の後ろにいるこの『災厄の使徒』と呼ばれる人間離れした少女のおかげだ。

 この少女と知り合ったのはつい、一週間前のこと。

 高校進学までの猶予期間たる休みを堪能していた俺の元に突如現れ、とある厄介事に俺を巻き込んだ。その最中、俺は何の因果かこの少女を助けてしまい、今に至るわけだ。

 別にこの少女を助けたことを後悔はしていないが、それにしたって後始末が悪すぎる。こんなことなら巻き込まれる前にどんな手でも使って追い出しておくべきだった。

 などと後悔に浸っている今は四月上旬。俺が病院から退院して一週間が経った。つまりは今日は入学式。

 新しい場所での生活にわくわくと胸をときめかせたり、見知らぬ出会いに一抹(いちまつ)の不安を覚えたり、先行きのわからない新たな始まりに期待する青春の一ページ目。

 だがしかし、俺は自分の行くはずだった高校には行けず、それどころか強制的にこの学校に入れられてしまった。わくわくと胸をときめかせることなんて当然のごとく微塵もない。あるのは「何故こうなった!」という後悔の念と、今後への不安だけ。

 で、なんでこの学校に無理矢理入れられてしまったかというとだ、昨日、入界管理局の二人が帰ってすぐに宅配便で制服が届けられてきた。そして同封してあった紙にこの学校に行くようにと書いてあったのだ。

 なんでも俺が行こうとしていた市立字源高校にはすでに入学取り消しの書類が行っており、この志水学園への手続きも勝手にあっちがやってくれたとのこと。行くはずだった字源高校の制服もすでに購入済みだったっていうのになんとも最悪な話だ。というか制服代どうしてくれんだよ。

 と、まあどんなわけかどういうわけか、俺はなぜかサイズがぴったりな制服を着て、無事入学式を終え、教室に移動したらこれまたどういうわけかクロノス(こいつ)がいたというわけだ。これで頭が痛くならないはずがない。

 もし神様とやらがいたとしたら一体俺をどこへ導こうとしてるんだか訊いてみたいね。

 他のやつの自己紹介をBGM代わりにこれからのことを本気で心配する俺だった。



「いや~、まさかクロードがこの学校にいるなんてね。一体、どういうことなんだい?」

 

 教室での自己紹介が終わり、担任から一通りの連絡を聞いた俺たち新入生が教室から出て行く中、いつの間にか消えたクロノスを捜していると偶然同じクラスになった竹中が話しかけてきた。そういえばこいつ、志水学園に行くとか言ってたな。


「ちょっと俺にも分からないんだが……まあ、家庭の事情ってやつだ」

 

 と本当のことを言うのもなんだし、説明するのも面倒なので適当な嘘をついてみる。


「へえ、家庭の事情かあ。クロードも大変だね。でも、クロードの行こうとしていた市立の字源高校の方が授業料とかなくて安いんじゃないの?」

「あ、ああ、それはちょっとこの学校に兄さんの知り合いがいて………」

 

 確かにこの学校は俺の行こうとしていた高校より学費が高い。というか高校無償化の御時世でありながら私立のため、授業料等々を払わなくてはいけないらしい。でもその点についてはなんら気にすることはない。……その点だけは。

 なんでもこの私立志水学園は入界管理局と繋がりがある人物が運営してる学校らしく、その人に頼んで俺とクロノスの学費は一般生徒と比べて大分安くなっていると書いてあった。まあこれぐらいは当たり前だろう。勝手に入れられて普通に学費を払えなんて理不尽すぎるからな。


「それにしてもクロードと同じクラスで良かったよ。これでまた今までどうりやっていけるね」

「ああ、そうだな」

 

 ま、知り合いがクラスにいるっていうのは確かにいいよな。人と関わるのがあまり好きじゃない俺にとってはなおさらだ。まあ、もう一人の知り合いは災厄的に最悪だが。


「ところでクロード知ってるかい。二日前、つまりはこの前の土曜日。僕たちが隣町に行った日に駅がある中央通りで地盤沈下が起きたんだって」

「……へえー」

「危なかったよねー。もう少し帰るのが遅れていたら僕たちも巻き込まれていたかもしれなかったよ。怪我人も何人か出てるみたいだし、ほんと巻き込まれなくて良かったね」

「ああ、そうだな……」

 

 竹中君。俺、思いっきり巻き込まれました。って言いたいがどうせ信じないだろうからあえて言わないでおく。

 俺だってもし、竹中からそんなこと言われたらきっと信じないだろうし、多分、信じないやつの方が普通の感性をもっているんだろう。逆に信じるやつは中二病がひどい域まで進行しているやつか、または一般とは少しかけ離れたやつか。

 それにしても怪我人だけで済んで良かった。あの大惨事だ。死者が出てもおかしくはないと思っていたけど負傷者が数人とは何とも運がいい。それに避難誘導とかやってた入界管理局のヤツらやグールと必死に戦ってたクロノスからしたらうれしい知らせだろう。

 だが、朝のニュース番組でも言っていたけど地盤沈下ってなんだ? あれはクロノスとグールの戦闘によって起きたことだ。決して地盤沈下なんかじゃない。それはあの場にいた俺が一番分かることだ。多分、俺の勘が正しければ入界管理局とかが一枚噛んでいるに違いない。

 ま、あとでクロノスに訊けばいいか。あいつなにかと色んなこと知ってるし。それに今ここで詮索しても仕方ないしな。

 それから二人で今期のアニメやゲームなどの話をしながら下駄箱に行くために廊下を歩いていると突然後ろから声がした。


「朝野さん、ちょっといいかしら」

「えっ―――」

 

 振り返ると赤みがかった茶髪をカールさせた女子と黒髪ロングの女子が後ろに立っていた。二人ともこの学校の制服を着ていることからここの生徒だと分かる。というかそれ以前にどちらも普通に見覚えがある女の子だった。

 二日前、散々俺を追い回した挙げ句、火の玉やら銃弾をぶっ放してきたり、剣で斬りかかってきたりなどした常識という言葉から遠くかけ離れた異常(クレイジー)な二人だ。黒髪ロングの成宮とかいうのは先日会ったがもう一人とはグールの件以来だ。確か、志水とか言ったっけ。


「な、なんであんたらが………」

「ここは志水グループの運営する学校ですもの。わたくしたちがいてもなんら不思議はありませんわ」

「へ、志水グループ? なんだそりゃ?」

「ちょ、クロード!」

 

 志水グループという謎の単語について考えていると竹中が慌てた様子で自分の方に俺を向かせ耳打ちしてきた。


「……クロードどこで志水さんと知り合ったの」

「え、えーと……この前、偶然街で会ったんだ」

 

 正確に言うと殺されそうになったか、もしく捕まえられそうになったが正しいな。うん、会ったのは本当だから嘘は言ってないよな。


「ていうか志水グループってなんだ?」

「クロードそんなことも知らないの。ここは志水グループが運営する学校なんだよ」

「へー、知らなかった」

「これくらい常識だよ。入学したての僕が知ってるくらいなんだから」

「って言われてもな……」

 

 お前は前からここに行く予定だったから知ってるかもしれないが、俺は元々違う学校に行くはずだったんだから知るわけがない。ましてや一人の生徒についてなんてなおさら知るわけがない。


「で、お前なんで志水について知ってんだ」

「彼女――――志水アリスさんはこの学園の理事長の娘さんなんだから知っていて当然だよ」

「マジで!」

 

 今まで小声で話していたが、竹中の思いがけない一言でつい声がでかくなってしまった。


「入学式でも新入生挨拶してたじゃないか。覚えてないの」

「あ、多分その時寝てた」

「はあ、まったく駄目だね。クロードは」

 

 そんなこと言ったって短期間にこっちも色々あったんだ。そりゃ眠くもなる。


「何が駄目かは知らんがとにかく駄目じゃない」 

「んんっ、朝野さん。もういいかしら」

 

 後ろでわざとらしく志水が咳払いをし、俺は竹中との小声での会話をやめ、再び志水と成宮の方に振り返る。


「あんたらもう俺には何もしないないんじゃなかったのか?」

「ええ、何もしないわ。ただちょっと私たちに着いて来てほしいの」

「着いて来て?」

 

 一体どこに行くというんだ? まったく心当たりがないぞ。


「では行きましょうか」

「いや、どこに」

「いいから私達に着いてきて。じゃないと実力行使の必要があるから」

「……あー、はいはい。分かりましたよ。行きますよ、行けばいいんでしょ」

 

 言うこと聞かないとなんとなく危険な目に遭いそうだったので渋々二人に従い、困惑した様子の竹中に


「悪い、竹中。ちょっと用事ができた」

 とだけ告げて俺はすでに前を歩き始めていた二人にこれまた渋々といった具合でついて行った。

 二人の後ろを歩きながらこの後、なんとなくさらに面倒なことが、いや、必然的に起こるであろうと超能力者でもないのに断言できる自信にこの時の俺は満ち溢れていた。

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