エピローグ:傍観者たる者の呟き
人の生においてすべての起因となるのは一握りの感情である。
彼は生死の狭間で課された選択のうち、一つを選び、激しい怒りとともに再び生を手にした。
やはり怒りという感情にはどこか縁があるのか。
……いや、そんなことはどうでもいいか。
今の僕の望みは彼が彼であること。それだけが僕の望むところだ。
彼とあの少女の出会いはこれまでの彼の日常を大きく変えてしまうだろう。
その出会いが必然だったのか。それとも偶然だったのか。それは誰にもわからない。
そして好ましい出会いか、好ましくない出会いかといえばそれもまた誰にもわからない。
これは彼だけの唯一無二の物語。
この世界にある数多くのうちの一つであり、彼だけしか味わうことのできない物語。
僕は語り手でもなく当事者でもない。
言うなれば傍観者。
別に僕が語り手になってもいい。
けれど、これは彼の物語。
彼の物語を語るには傍観者である僕より当事者である彼が一番だろう。
だからこれはほんの気まぐれ。
以後僕は語らないし、なにもしない。
たとえ彼がどうなろうとも。
――――まあ気まぐれでも起きない限りの話ではあるけれど。




