表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/79

災厄ノ目覚め2

「ん、ああ……」

 

 あー、頭がボーッとする。 

それにしてもなんか変な夢っぽいものを見てた気もしなくもなくもないが今はそんなことどうでもいい。

 俺は脇腹に刺さった触手を抜き、必死に体を起こし立ち上がる。

そして気づいた。腹から相変わらず血がどばどば流れていることに。しかも服に大穴開いて血まみれ。

 これ結構お気に入りの服だったのに。

 ああ、なんか段々イライラしてきた。

 ていうかそもそもこの怪我で助かるのか?

 否、守ってみせる――――――― 



「たとえ世界が滅んでも自分だけ守るんだよボケぇぇぇぇぇぇぇぇ!」



 ぼやける視線をグールに向け、睨んでいると目で追えないくらいの速さで何かが俺目掛けて飛んできているような気がした。

 幻覚か? ヤバいな。もう意識もハッキリしてないのかもしれない。

 そして気が付いたらザクッという効果音で形容してもいいぐらいに飛来してきた何かが深く俺の胸に突き刺さっていた。


「うっ………」

 

 なんだこれ? 痛い。息ができない。胸が苦しい。

 そういった感覚を感じた瞬間、赤い閃光が前の前を覆った。

 虚ろな意識の中、光源の方に視線を向けると俺の胸に刺さったままの何かが光っていた。

 なんだ何が起こった?

 よく見るとそれは先ほどグールに弾き飛ばされた時に、手元から離れてしまったヴァーリーとかいう日本刀だった。

 な、なんでヴァーリーが………

 だが、そんな疑問はすぐにどうでもよくなった。

 痛くない。

 胸に日本刀が刺さっているという絶望的な状態なのに全然痛みを感じない。

 突き刺さった瞬間は痛かった。でも、今は痛くない。それはさっきグールに刺された脇腹の傷も同じだ。

 それに逆に何故か力が湧いてくるような感じもする。

 ………不思議だ。こんなに傷を負っているのに。

 なんでだ?

 ―――いや、分からないことだらけなんだ、今さらいくら考えても埒が明かない。

 今はこの目の前にいるゴキブリ野郎をメタメタに殺してやらないと気が済まない。

俺は自分の胸に刺さっている刀の柄を握りしめる。

理由は分からないが今のこの状況。なんだか無性にやれそうな気がする。

そういう時はどうすればいい? 

 簡単だ。



「やれそうな時は、やるっ!」


 

 叫ぶと同時に刀を鞘から抜くように胸から抜き放つ。


「ぐっ」

 

 鮮血とともにべっとりと赤を纏った刀身がその姿を現す。

 その瞬間、これまで生きてきて感じたことのない悪寒が体を襲った。

 でも、この感じは嫌いじゃない。

 それに何故か懐かしい。

 俺は鮮血に染まった刀を振るう。

 刀に付着した血が辺りに飛び散り、辺りに赤い斑点を作り出す。。

 そして刀に視線を落として俺は驚いた。

 血を払い白銀の刀身が姿を見せるかと思ったら、徐々に刀身が赤く染まってきた。あっという間に刀身全部が真紅に染まる。

 これが俺の血によるものなのかはわからない。でも、これだけはわかる。状況が俺に傾いてきているってのは。


 さあ、行こうぜ、俺。

 


                ◆                  


「あ、あ……ああ………」

 

グールに串刺しにされた蔵人を前にクロノスはただ呆然とするしかなかった。否、何もできなかったのだ。今のボロボロの彼女では。

 真っ赤な鮮血を泉のように腹部から溢れさせながら蔵人の顔が静かに下がっていく

 やってしまった。

 もう誰も殺さない。

 誰も自分のせいで死なせはしない。

 そう誓ったのに結局、彼を死なせてしまった。いや、これは自分が殺したのと同じだ。

 興味本位で彼を巻き込んだから彼は死んだ。

 その現実だけが、クロノスに重くのしかかった。

 先ほどクロノスは確かに逃げろと彼に言った。これ以上彼を巻き込むわけにはいかないからと。そして同時にここまで化け物じみた力を出し、自分に恐れをなして逃げると思っていたのだ。

 しかし、それでも彼は助けに来てくれた。この明らかに人間を超越した人間ではない彼女を。

 それは本来なら彼女にとっては喜ぶことだろう。だが、今の彼女にそんな余裕はなかった。

 せめて彼の仇討ちくらいはしたいと体を動かすが、体が限界なのか少しも動かない。

 結局、誰かを犠牲にしたあげく、自らの願いも叶わず、死ぬのか?

 そう、死を覚悟した時、驚くべき光景が目に入った。 


「えっ!」 

 

 ありえないことに先ほどグールに串刺しにされたクロードがゆっくり立ち上がったのだ。

 

 ――――ありえない。グールのあの一撃を受けてまだ動けるなんて。

 

 戸惑いの表情を浮かべるクロノスをよそに鮮血に染まった体をグールの方に向け、蔵人は叫んだ。



「たとえ世界が滅んでも自分だけは守るんだよボケぇぇぇぇぇぇぇぇ!」



「ええ! 何それ―――――――――!」

 

 いきなり意味不明なことを叫んだ蔵人に向けて、こんな状況だというのに思わずツッコミを入れてしまう。

 そして脈絡の読めない叫びに呼応するように先ほどグールからの一撃で弾き飛ばされた時にクロードの手から落ちたはずのヴァーリーがいきなりクロードに突き刺さり、クロードを中心に周囲が赤く光り出したのだ。


「これは……何………?」

 

 この現象はクロノスにも分からなかった。いや、彼女はこれと似たようなものを見たことはあった。しかし、この時はあまりに唐突なことでそこに思い至らなかったのだ。


「やれそうな時は、やるっ!」

 

 さらにありえないことは続く。

 クロードが胸からヴァーリーを抜き放った瞬間、血だらけだった刀身が完全に紅く染まり、それに合わせるようにクロードの左目が赤く、いや真紅に染まった。それと同時に紅い光が天まで立ち上る。


「こ、これは………」

 

 この感じはエナジー! でもヴァーリーに蓄えられたエナジーはなくなったはずなのに。

 ―――いや、違う。クロードからエナジーが溢れ出てるんだ!

ただ唖然とするしかなかったクロノスがその瞳を大きく開く。

 今、蔵人から溢れ出すエナジー量はクロノスに、災厄の使徒に匹敵するといってもいいぐらいの量だ。あまりにも多すぎる。災厄の使徒でもない人間がエナジーを使えるはずもない。

 仮にそれがヴァーリに蓄えられていたモノであっても常人である蔵人には絶対耐えられない。死ぬといっても間違いじゃない。


「これは……」


 そこでクロノスは師匠にヴァーリーを預かった時のことを思い出す。

 そういえば師匠は私以外に使わせちゃ駄目と言っていた。

 ―――いや、でも、まさか!

 蔵人がヴァーリーを抜きは放つと同時に発生した赤い光の柱。

 それを今になって思い出す。先ほどは驚きのあまり忘れていたが、クロノスは一世紀以上前にこれに似た光景を見たことがある。災厄の使徒と呼ばれる者となってしまったあの時に。

 でも何……このエナジーの色は。

 もし、災厄使徒として覚醒したならエナジーの色は絶対に金色のはず。

 しかし、この色は紅だ。血を塗りたくったような真紅。

 これは一体……

「いくぜオラァァァァァァァァァァァァァァァァ!」    

いきなりの叫びにビクッと思案していた顔を上げると足下にヒビを入れ、蔵人が地を蹴った。


「速いッ!」

 

 真紅に輝く軌跡を描きながら流星のように蔵人が目にも留まらぬ速さで駆け抜ける。

 先ほどまでの蔵人より段違いに速い。下手をしたらクロノスと同等の速さだ。

 スピードを維持したまま一気にグールに近づく蔵人。

 だが、グールも無抵抗ではない。背中の羽から先ほどより多くの触手を出現させ、蔵人にその矛先を向ける。

 ――――いけない! あれを喰らったらひとまたりもない。

 しかし、そう思ったクロノスの心配は無用だった。クロードはグールの攻撃を俊敏な動きで次々に(かわ)していく。


「なっ――――」

 

 先ほどまでの蔵人とは比較にならない動きにクロノスが驚きの声を上げる。でも、あの無数にあるグールの触手を全部避け続けるなんて無理だ。

 そんなクロノスの心配をよそに蔵人は自身の左目と同じく真紅に染まった刀を振るい、襲い来る触手を次々に切り裂いていく。

 あの触手をいとも簡単に切断するなんて………


「何……この力………」 

 

 その時のクロノスにはただ『ありえない』という感想しか抱けなかった。

 でも、それとは別にどこかに安心感もようなものもあった。




      ◆

 

相変わらず気持ち悪いグールの方に刀身を向け、再び俺は叫ぶ。


「さあて! ゴキブリ駆除といきますか!」

 

 戦闘再開とばかりにグールに叫び、しっかりと刀を握りしめグールに向かって走り出す。

 軽い! 体が軽すぎる! 

 さっきまでこの刀の補助を受けていたけどその比じゃない。

 スピードを維持しつつ、グールとの間合いを詰める。

 俺が接近してくるのを感じてか、無数の黒い触手が連続して俺を狙って襲ってくる。だが、咄嗟に避けて何とか全部を躱す(かわ)

 避けるだけじゃ駄目だな。そう思い再びグールに向かって地を蹴り、突貫する。

 グールが自分の近くに待機させていた触手をさらに俺に向かわせる。数からして……一、二、三……十数本。そのすべてが俺を突き刺そうと向かってくる。

 見える。普通だと絶対目で追えるスピードじゃないのに何故か知らないけどすべて触手一個一個の動きが見える。


「オラァァァァァァァ!」

 

 叫びながら俺の行く手を邪魔する触手に斬りかかる。

 ガラスの割れるような音を立て、切り裂かれた触手は地面に落ちるとともに砕けて光の粒子となって刀身に吸い込まれていく。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!」

 

 一瞬にして数本の触手を切り裂かれたグールはわめき声のような気持ち悪い咆哮を上げる。

 まあ、自分の一部を切り裂かれたら痛いよな。普通。


「ま、俺の知ったこっちゃねえーけど」

 

 防御が手薄になったグールに接近し、刀を突き刺そうとしたがグールの中で最も人間臭さを残す腕で軌道をずらされてしまった。どうやらあの腕は相当硬く、飾りでもないようだ。


「でもな、ただじゃ終わらないぞ!」

 

 体勢を崩した状態から放った右足がグールの脇腹を抉り、その二メートルはあるであろう巨体を弾き飛ばす。

 蹴りをまともに喰らった巨体は二、三十メートルぐらい先のビルの一角にぶつかり止まった。我ながら呆れるくらいの剛力だ。

 だが、まだだ。まだ終わらんよ。とどっかの公国軍の大佐的なことを思いながら追撃しようとした瞬間、再び吠えたグールがその光沢のある羽を開いた。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「おい、嘘だろ」 

 

 大きく開いた羽が分裂し、無数の触手、いや、漆黒の槍を形成していく。その数……駄目だ。数え切れない。あれはヤバいな。

 即座に危険と感じ、追撃するのを止め、後ろに後退する。

 一方、グールは体勢を前傾姿勢から四つん這い移し、まるでゴキブリのようにカサカサと俺の方へ近づいてくる。

 気持ち悪ッ! ちょー気持ち悪ッ!

急いで躱すと羽から無数に出現した触手がホーミングミサイルの如く俺を追撃してくる。

 直感で避けられないと感じ、ガラスを突き破り、半壊したビルに入る。

……やり過ごせるか?

 しかし、そんなの関係無しにすべてを貫いて触手が俺を襲ってくる。

 うぉい! なんでもありだなコイツ。

 ビルの中から脱抜け出した俺の後ろで蜂の巣のように穴だらけになったビルの一部が轟音を立てながら崩れ去っていく。

 さすがにあれを全部避けるのは無理だな。

 なら特攻あるのみ!

 逃げるのをやめ、身体を百八十度反転、グールに向かって突貫する。

 襲ってくる黒い槍と化した触手を次々と切り裂き、グールとの距離を詰める。

俺の接近に気づいてか、グールが残りの触手をすべて防衛のためか俺に向かわせる。だが、そんなのは関係ない。足に力を込め、さらに加速して一気にグールに迫る。

 触手が風を切る音を耳に追撃してくる触手をギリギリの所で躱しながら、跳躍。俺を串刺しにするために次々と向かってくる触手を足場に跳ねるようにグールとの間合いを詰めていく。

 普段の俺からは、いや、クロノスからこのヴァーリーとかいう刀を受け取った時の俺からでも考えられないくらいの動きだ。それになぜか頭がスッキリしてるというか晴れ晴れとしているというか、澄みきっているような感じすらする。不思議な感覚だ。

 俺が近づくと防衛本能からか。自分の危機を悟ったグールはゴキブリのような光沢を持った羽で自らの体を覆っていく。だが、今の俺にはそんなもの障子ぐらいにしか感じられないね。



「死ねよ、ゴキブリ野郎!」



 グールの触手を最後に力強く蹴り、刀を前面に構え、一気に突貫。勢いよく突き刺す。

 見事に羽ごとグールを貫くと同時にグールがその漆黒の体を光の粒子と変え、刀に吸い込まれていく。


「はあ、はあ……」 

 

 終わった。

 ハッ、ざあまみろ! ゴキブリ野郎!

 光の粒子となって消えていくグールを見ながら安堵のため息を漏らすと、同時に段々目の前がぼやけてきた。

 ヤバい。なんか、頭がクラクラ する。これってまさか死ぬんじゃ――――

 そう思った時には視界が完全に真っ白になり、俺はそこで一度気を失った。


評価や感想、アドバイスなどをいただけたらとても嬉しいです。

P.S.辛口でも全然かまいませんのでお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ