自動販売機で出会った災厄1
評価や感想など良かったらお願いします!
『起きろ、バッカ野郎。起きろバッカ野郎』
「ふ、ふぁ……」
隣の方で罵っている目覚ましを止め、安らかなる眠りから目覚めて目を開ける。そうすると太陽光が俺の目を容赦なく襲い、虚ろだった意識がはっきりとしてくる。相も変わらずなんとも忌々しい太陽である。
「……ねむ」
短い呟きのあとに伸びをして身支度を済ませ、二階にある自分の部屋から洗面所へ行って顔を洗う。そのあとにてリビングに行き朝食を作り始める。
リビングではさっきなんとなくつけたテレビの音声が聞こえてくる。
「マギアクルスとの条約締結は――――」
ふと、耳を凝らすとテレビではもう何度も聞いたニュースをやっているようだった。
「まだやってるのか」
ニュースでは異世界との条約締結や大使が訪れたとかここ一ヶ月そんなニュースばかりが報道されている。
約一年前の三月十七日。いきなり国連から異世界との交流を半年後に開始するという声明が発表された。もちろんそんなことは俺も世界中の人々もちょっと早いエイプリルフールだと思って全然信じていなかった。
でも半年前、アメリカに造られた転送用ゲートから異世界『フィロソフィア』の転送用航空艦が現れたことで世界は一変した。
それによって異世界からエルフや魔法使いなどの異世界人が現れたことでこれまで国連の発表を嘘だのふざけているとか批難していた人々も国連の発表が嘘でなかったことを知ることになった。
そしてこの世界は『ムンドゥス』という名を与えられ、そう呼ばれるようになった。
簡単に言うと半年前にこの世界が異世界と関係を持ち始めたってことだ。
異世界人が現れた当初は世界中大騒ぎだったが今は落ち着いたもので最早、異世界人がいることは普通となり生活の一部として溶け込んでいる。
こんなにすんなり生活に溶け込み、各国の混乱が薄かったり、対応が早かったりしたのは前もって異世界側と何年も前から打ち合わせしていたからだとかいう噂も耳にする。
実際、今チラッとテレビに視線を移したが異世界の品を宣伝するCMまでやっている。案外噂どおり事前に計画されていたことなのかもしれない。
そんな感じで半年前からテレビではそのようなことばかり報道している。まったく世界も末期じゃなかろうか。こんな全世界ドッキリ的なことが一般常識化しているのだから。
俺はアニメやゲームとか割と好きな方だが、現実にエルフや魔法使いがいるのは勘弁してほしい。ああいうのはフィックションだからいいのだ。実際いたら危なくて仕方ない。
最近では転送用ゲートがある地域で異世界人などによる傷害事件などが起きているらしいし、なんていうか物騒な話だ。まあ、この日本も例外ではないのだが。
現在この日本にも一ヶ月前にゲートターミナルが建造された。だが日本で異世界人を見かけるのは極めて珍しい。
ゲートターミナルが出来てもう一ヶ月経つが、ゲート装置の調子が悪いとかで運転停止。まだ再運転の見込みは立っていない。またヨーロッパやアメリカのゲートからこっちの世界に来た異世界人もあまり来日することはない。どうやら異世界人にとって日本は地味すぎるようだ。
俺としては別に日本にゲートが出来るのはいい。でも、作られた場所が問題なのだ。
なんと日本にゲートが作られた場所はここ字源市―――つまりは俺の地元だ。
なんか字源市の沿岸部にいつの間にか広大な埋め立て地が出来ていたと思ったら、いつの間にかゲートターミナルが出来ていた。
なんでこんな特にこれといった特徴もない地味な我が街にできるのかというと、まず東京を中心とした日本有数の主要都市に造るには場所が無いらしく、土地が余っている地方の都市に造ることになったそうだ。そしてもう一つの理由が主要都市にゲートを建造した場合に起きるテロなどによる被害を考慮した結果だそうだ。確かに実際、東京とかにいきなり異世界人とかによるテロとかが起きたら大変だと思う。それこそ日本の国としての機能は麻痺するだろう。最悪、日本滅亡ってのもありうるかもしれない。
別に日本にゲートができるのは百歩譲ってもいい。だが地元に出来るのは治安が悪くなるので勘弁してほしい。まあ、来日者数が少ないのが唯一の救いなのではあるのだが、それでも物騒なのは嫌だ。
ふと、テレビに視線を移すといつの間にか天気予報をやっていた。今日は一日中晴れか。なら朝飯食った後、洗濯物でも干しとくとするか。
「じゃ、食べるか」
それから出来た朝食をテーブルに並べ、黙々と味噌汁をすすっていると時間になったのかニュース番組が切り替わり、正座占いが始まる。別に占いを信じているわけではないが、なんとなく見てしまうのは動く物に目がいく動物の性なのかもしれない。もっとも動いているのは映像なんだが。
俺は天秤座なので天秤座の順番を今か今かと待っていると、
『ざ~んね~ん今日の運勢がもっとも悪いのは天秤座のあなた。今日は新たな出会いによってトラブルになるかも。自動販売機に気をつけて。でも大丈夫そんな天秤座のあなたにアドバイ――――」
チャラッチャラ~。
とそこで占いが途切れ、CMが流れ出した。
「アドバイスはッ!」
思わずテレビ相手にツッコんでしまった。
何だよ、この占いコーナー。ちゃんと最後まで言って終われよ。しかも俺、運勢最下位だし。アドバイスぐらいは聞きたかったぞ。
いや、でも俺占い信じてないし関係ないか。多分運勢が一位や二位なら信じていただろうけど、最下位ともなると信じたくなくなる。
ま、所詮占いなんて自分に都合が良い方を信じるわけであんまり意味がない。違う占い番組があってそっちの方が運勢が良かったら百人中九十人はそっちを信じるだろう。
「さてと」
空になった茶碗を持って台所に行き、洗い始める。
その時の俺は知るよしもなかった。
あの占いが切実に俺の運勢を表していたことを。