危ない二人と災厄と1
「やっぱ慣れないな」
そう言う俺は今、夜の街のビル街の一角にいる。
夕飯を食った後、家のことを色々済ませて部屋でゴロゴロしていたらクロノスに引っ張り出されこんな所にいるわけだ。
道行く人々は俺の姿は見えないらしく何事もないように横を素通りしいく。日本刀を持ち、変な仮面をしたこんな姿の俺の横を。まあ、見られたら見られたで大変なんだけど。
「ほんじゃ、作業再開っと」
そしてグールを狩り始めて一時間くらい経った時グール探知機という名の指さし棒の先端部分を取ったようなキーホルダーが反応しなくなった。
まだ一時間ぐらいしか狩っていない。昨日はあと二時間くらいはかかったはずなのに………早すぎる。
変だなと思ったがすぐに気にすることをやめた。
もしかしたらクロノスが何かしたのかもしれない。気にするだけ無駄ってヤツだろう。
何にしろ反応しなくなったってことは俺の仕事は終わったんだ。なら家に帰るのが普通。学校終わったら家に帰るのと同じだ。
ちなみに今は夜の十一時。初日よりやけに早くグールを狩っている。なんでも亀裂とやらが自己修復を始めたらしく、それに伴ってグールの現れる時間がずれるとクロノスは言っていた。直ってる証拠とのことだそうだ。結構、結構。このまま早く終わってくれるとありがたい。
『メールなんじゃね~の。メールなんじゃね~の』
いきなりポケットに入れていた携帯が鳴り出した。
見ると竹中からだった。
なんだ? こんな忙しい時に。
『あはは。起きてる? 突然だけどクロード明日絶対暇だよね。なら隣町のアニメメイトに行かない? ほしいゲームに今なら特典ついてるんだよねえ~。だから明日駅前に十時に集合ね。よろしく』
「………」
なんだよ絶対暇って。俺どんだけ暇人って思われてんだよ。
ほんとのところ明日は家でぐっすり寝ていたいんだが、この春休みが終わったら竹中とは高校が違うから顔を合わせることも減って、こうやってどっかに行くってこともなくなるだろう。―――体に鞭打って行ってやるか。あれでも一応数少ない友達だからな。
『仕方ない。行ってもいいぞ』
数分後携帯が再び鳴り、
『このツンデレ』
という文面のメールが返ってきた。
『死ね』と打って送信。
何がツンデレだ。アホ。
さて、返信もしたし、早く帰るか。
帰ったら風呂入ってすぐ寝よ。そうしないと筋肉痛で明日がひどい。
―――ヒュン。
「?」
……なんか今、横を何か光が通過していったような…………
何かが飛んで来た方を振り向くと赤い光が三つあった。
よく目を凝らして見ると赤い光のそばにうっすら人影のようなモノが見える。なんだ?
すると赤い光がまた飛んで来た。しかも今度は俺目掛けて。
ボーッと赤々とした光がこちらに近づくのを見ていたらが光がコートの袖に当たり、いきなり燃え上がった。
―――ってあちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
「っ熱、熱ッ!」
なんと光だと思っていたモノは火の玉だった。
なんで? なんでいきなり火の玉飛んでくんの!
いや、今はそんなこと考えている場合じゃない。
俺は燃えている方の袖から腕を引っ込め、燃えている袖を刀で切り離した。
……危なかった。もう少しで火だるまになるところだった。
ていうか誰だよ! 火の玉飛ばしてきたやつ。
ドンッ。ドンッ。
……え、発砲音?
「……嘘だろ。おいっ!」
全身から血の気が引いているのが自分でも分かる。
ていうかこの仮面付けてれば認識されないんじゃなかったよ。
とにかくヤバイ。いよいよ冗談じゃ済まなくなってきた。状況はうまく読み込めないが早く逃げなくては。このままここにいたら焼き殺される。もしくは撃ち殺される。
見ると刀の刀身はまだ半分以上は赤い―――よし、まだいける。
俺は全身の力を足に集中させ地面を蹴り走った。
相変わらずすごい跳躍力だ。一回蹴るだけで五メートルは飛んだんじゃないだろうか。普段の俺の運動能力じゃ考えられない。
走ること約十分。息も上がってきたので少し立ち止まる。
「は……はあ、はあ…‥…」
大分走ったな。これなら結構距離が離れたはず。いや、もしかしたら撒いたかもしれない。
そう思い後ろを振り返ると――――――――
ヒュンヒュンヒュン。
ドンッ。ドンッ。ドンッ。
と火の玉と銃弾がほぼ同時にさっきより多く飛んできた。
パリン。
放たれた銃弾の一つが街灯に当たったようで割れる音がする。
ひいいいいいいいいいいい! 殺される。ていうか嘘だろおおおおおおおお!
俺はひたすら逃げまくった。とにかく逃げまくった。
誰の家とも知れない家の屋根を走ったり、公道のど真ん中を思いっきり走ったりもした。
でもやっぱり振り切ることはできないようで今だ火の玉と銃弾が飛んでくる。
どうするよ俺。このままじゃ蜂の巣か火だるまにされちまうぞ。
走りながらそんなことを考えていると横断歩道のところで人が固まって信号が変わるを待っているのが目に入った。
……そうだ! 人混みに紛れてやり過ごそう。
――――いや、駄目だ。そんなことしたら関係ない人達を巻き込んでしまう。それだけ絶対駄目だ。
じゃあ俺はどうしたら…………
「?」
いきなり銃弾の発砲音が止んだ?
振り返ると火の玉の光も感じられない。どうした?
………そういえばさっきもこんなことがあったな。
俺が人のいる所を通りかかると銃撃や火の玉による攻撃が若干少なくなっていたような気がしなくもない。
もしかすると俺を襲っている連中は人に目撃されるのを恐れているかもしれない。もしくは人的被害を出したくないのかもしれない。まあ理由は何にせよ多分、騒ぎにしたくないんだろう。
一応仮説だが、もし仮説じゃなく本当だったら周りに被害は出ないだろうから安心だ。それに幸か不幸か、ちょうど俺が今いるところは繁華街の近くだ。この時間帯なら人で溢れているはず……うまく身を隠せるだろう。
ふと、右手にある刀を鞘から出してみる。先ほどまで半分ほど赤かったのに今は刀身のほとんどが白銀に染まりつつある。このまま動き続けられるのも時間の問題だ。
……‥手段を選んでいる暇はない、か。
「一か八か………」
俺は刀身がほとんど白銀に染まりつつある刀を持って繁華街に急ぐ。
五百メートルぐらい距離を一分ぐらい走って繁華街に着いた。我ながらびっくりだ。これなら追っ手も撒けたんじゃなかろうか。なんて甘い考えを持ちつつ、振り返ってみると、
――――あ、やっぱ駄目か。
相変わらず後ろにぴったりくっついているようだ。しかし、まったく攻撃してこない。やはり人目を気にしているのか。
ならば好都合。このまま逃げ切ってみせる!
俺は繁華街のビルの一角にある路地裏に飛び込んで「戻れ」と呟き、仮面と刀とコートを急いで手のひらサイズに戻し、急いで人混みの中に入った。
俺は周囲に意識を向けつつ、なんとか繁華街を抜けることができた。それから嫌な緊張感とともに家の方角に向かった。
それから数十分、今もなお帰宅中である。あれから火の玉も銃弾も飛んではこない。どうやらうまく撒けた用だ。
それにしても何だったんださっきの銃弾と火の玉。いきなり俺を狙ってきて。
いつの間にこの町はこんな物騒になったんだ?
俺はまた襲ってはこないだろうかとびくびくしながら家に向かう速度を速めた。
それから三十分くらい経ってやっと俺は家の玄関に着いた。普段なら十五分くらいで着くのに。ま、それも仕方ないか。だって今全身筋肉痛で痛いんだもん。
さっさと寝たい。
「うおっ」
家に入ろうとした時、体中に激痛が走り、俺は玄関に倒れた。
な、なんとか部屋に戻らなくては………
体を動かそうとしたが動かない。あと痛い。
ああ、なんとなく眠たくなってきた。
……せめてベッドで寝かせて……くれ………