災厄少女と外出を3
「あいつなんかやっぱ元気が若干元気無いよな………」
食器の片付けと洗濯物を干し、やることがなくなった俺は自室に戻り、ふと、そんなことを呟いた。
あれからクロノスは今だ浮かない表情をしたまま今はテレビを見ている。昨日までとは違い、なんというか見るからに元気が無い。
理由はなんとなく分かる。多分、朝見ていた夢が原因なのだろう。なんか助けてとか言ってたし、多分悪夢だ。
こうもしょんぼりされると昨日までのクロノスを見てきた俺としも何か気まずい。
さて、どうしたもんか………
考えていると、気分転換にはどこか行くのがいい。とか前にテレビで言っていたことをふと思い出した。
そういえばクロノスのやつ俺の家に来てからグール狩りの時以外、全然外に出てないような気がする。
……気分転換に外にでも連れ出してみるか。ちょうどトイレットペーパーも買わなきゃいけなかったし、買いたいラノベもあるし、ちょうどいい機会だ。
ちょっと外をうろつけば少しは元気出るっていうか、心のもやもやも取れるだろう。
俺は身支度をパパッと済ませ、一階のリビングに行く。
リビングに行くとクロノスはやっぱりまだ浮かない顔をしたまま、テレビを見ていた。
「クロノス、少し出かけないか」
「え、なんで?」
「え、ええと、俺の出かけるついでだ。お前一人を俺の家に残したんじゃ何するか知れたもんじゃないからな」
「ふーん、まっ、いいや。行ってあげる」
「じゃ、玄関で待ってるから」
そう告げてリビングをあとにする。
少し、待っているとクロノスが浮かない顔をしてやってきた。
「じゃ、行くか」
「………うん」
そう言うクロノスはやはり何か元気が無かった。
家を出てまず向かったのは家からほど近いTSUTAYA。
家のもっと近くに本屋はあるのだが、やはりポイントが付いた方がいい。世の中ポイントが付くのと付かないのでは大きな差だ。
まずはここでラノベを買おう。
中に入ると平日ということもあってか、客はまばらであまり多くはなかった。
あまり多くはないというだけで客はいるわけで、俺の後に入ってきたクロノスにそいつらの視線が向けられる。
所々で「うわっ、かわい」とか「モデルか何かかな」なんて声が聞こえる。まあ、クロノスも黙っていて余計なことさえしなければ普通に可愛い女の子だから当たり前って言えば当たり前の反応か。あくまで普通にしていればの話だが。
そんなクロノスを賞賛する声に混じってこんな声も聞こえてきた。
「隣にいるの彼氏?」
「んなワケないでしょ。地味過ぎ」
「だよね~」などなど。
悪かったな。地味で。
「じゃ、俺は自分の用済ませるんで。その間ちょっとその辺でも見てきたらどうだ? 用が済んだらお前のとこに行くから」
「じゃあ、その辺見とくね」
クロノスは俺とは違うコーナーの方へ歩いて行った。
よし、追っ払い成功。
さすがにラノベのコーナーにクロノスを連れて行くのは気が引ける。中学の時、一緒のクラスだった女子に言わせりゃ、ラノベのコーナーは頭がピンク色のやつだけが行くピンク色ゾーンと言われていたほどだからな。
目的のラノベを買い、クロノスを捜していると雑誌のコーナーで立ち読みしていた。
「終わったぞ」
「あ、もうおわったんだ」
ふと、クロノスの見ている雑誌に目をやると『週刊護身術辞典』なる物を読んでいた。
今さら護身術なんていらんだろ。十分強いんだから。
「じゃあ次行くぞ」
「あ、うん」
それから二人でTSUTAYAを後にして近くのスーパーへと向かう。
そこでトイレットペーパーのなどの日常品を一通り買った後、俺達は当ても無くぷらぷらと街を歩いていた。
用も済んでどこに行けばいいか分からなくなったな。
俺の貧相な頭で考えても女の子の喜ぶ場所、ましてや元気の出そうな場所なんて知るわけもない。
やっぱり本人に訊くのが一番だよな。
「クロノス、どこか行きたい場所あるか?」
「特にないよ」
「………」
こういうのが一番困る。例えるなら「今日晩ご飯何食べたい?」と母親に訊かれ、「なんでもー」と返された時、「何作るか迷って訊いたのに意味ね―じゃん」と思う母親のような感じだ。
さて、どうしたもんか。
考えながら歩いていると視界の隅にゲームセンターが入ってきた。
とりあえずあそこにでも入ってみるか。
「ゲーセンでも行くか」
「ゲーセン?」
「ああ、ゲームとかが置いてある……まあ娯楽施設みたいなもんだ」
「……娯楽ねえ。別に入ってもいいけど………」
「じゃ、決まりだな」
入ると俺と同年代の男女がしか人はいなかった。多分俺と同じで中学を卒業したばっかりの連中や春休み中の高校生だろう。
俺はまず、クロノスをガンゲームの方へ連れて行った。
「ほれっ」
お金を入れ、クロノスにガンゲームに使う銃を手渡す。
「銃?」
「そうだ。今から目の前の画面にゾンビ的なやつが出てくる。そいつらを撃ってスコアを競うゲームだ」
「なるほどね。でも、『フィロソフィア』のと比べたらなんとも単純なゲームだね」
「『フィロソフィア』と比べるなよ」
『フィロソフィア』というのはこことは違う世界。つまりは異世界だ。その世界は技術が発達している世界で、世界と世界を繋げるゲート装置を造ったのもフィロソフィアだとか。この技術国日本でもフィロソフィアからの輸入品で日本製品の売れ行きが大幅に減るのではとニュースで今話題になっていたりする。それくらいフィロソフィアの技術力はすごいのだ。
そんな世界と比べられても正直困る。というか比べるまでもない。あっちが圧倒している。
「あ、なんか出てきた」
クロノスの声で画面を見るといつの間にかゾンビがわんさか出てきていた。
「ふっ、俺の腕を見せてやるぜ!」
これでも俺はガンシューティングは得意なんだ。前に竹中と来た時なんか竹中と大きく差をつけたもんだ。
だが俺の実力なんかちっぽけでしかなかったことを俺は知ることになった。
実際やってみるとクロノスは異常なくらいにうまかった。
出てきたゾンビを俺が撃つ前に全部一人で片付けやがった。おかげで俺は一匹も撃つことが出来ず、スコアはゼロ。そのかわりクロノスはありえないスコアを叩き出していた。
「うそ、だろ……」
「まあまあかな」
「お前、どこかでやったことあるのか?」
「ほんの時々、実銃使うことあるしね。これぐらいはできて当然かな」
「実銃ってマジか!」
やっぱ異世界人、ありえん。
それから各種二人でできるゲームをやったが全部クロノスの圧勝だった。なんていうか悔しい。無性に悔しい。
途中なんか俺がトイレに行っている間どうやらナンパされたらしく高校生らしき五人組の男をフルボッコにしていた。
クロノスが謝らなかったので一応、俺が代わりに謝ったが男達は「もうしません」とか何とか言ってすぐに逃げていった。こいつ何したんだよ一体。
「はあ、楽しかったぁ」
一通り遊び終わり、楽しそうに隣で伸びをするクロノスとともにゲーセンを後にした俺は昼食を取るべくファミレスに向かった。
家に帰って食べるても良かったが作るのが面倒なのでお金は掛かるが外食することにしたのだ。
それにしても良かった。やっと昨日までクロノスに戻った。やっぱり明るい感じのクロノスの方が話しかけやすくていい。
それから奥の方の席へと移動する。
メニューを見ると春のだけの期間限定メニューなどがでかでかと載っている。
俺は期間限定という甘い言葉に惹かれつつも、割と安いハンバーグ定食に決めた。
「クロノス、決めたか?」
「うんっ、決めたよ」
クロノスも決めたようなので呼び鈴を押して店員を呼ぶ。
押してすぐ女の店員が来た。
「ご注文はお決まりでしょうか」
「えーと、ハンバーグ定食をひとつと……」
「ここに載ってる春限定のと、チョコレートパフェをひとつ」
「あ、ちょ――」
「かしこまりました。では繰り返します。ハンバーグ定食をひとつ、春限定定食とチョコレートパフェをひとつ。間違いございませんか?」
「あ、はあ……」
「では、失礼します」
注文を取った女の店員は忙しそうに店の奥へ引っ込んでいった。
クロノスのやつ、俺が我慢した春限定メニューを注文したあげく、パフェまで注文しやがった。人の金だと思って。
「お待たせしました」
少し待っていると店員が来て、最初にクロノスが注文した物、数分後に俺の注文した物をテーブルに並べていく。
店員が去り際に置いていった伝票を見る。
高ッ!
もうちょっと安いの頼めよ。
と文句の一つでも言いそうになったがやめた。どうせこっちの世界の金なんか持ってないだろうし、文句を言ったからって注文した分の金が返ってくるわけでもない。カロリーも無駄遣いってやつだ。
正面を見るとクロノスはいつの間にか春限定定食を食べ終えようとしていた。よく見ると俺の皿の端の方になぜか野菜が積まれている。
「おい、この野菜お前のだろ。野菜ちゃんと食え。勿体ないだろ」
「私あまり野菜好きじゃないんだよ」
「例え好きじゃなくても食え!」
「嫌!」
「あー、わかった。じゃあ俺が食うから」
何回言っても食いそうにないので仕方なく皿の端の方に積まれた野菜を食う。野菜にだって命があってそれを食べているんだから残したら可哀相だ。
程なくしてクロノス分の野菜も食べ上げた俺はクロノスの分と俺の分の会計済ませ、店の外に出て、今は家路に着いている最中。
「………」
先ほどはなぜかしょんぼりしていたクロノスも食事を取ってか、大分表情が明るくなった気がする。なんとも単純なヤツだ。
それから今日放映されるアニメはなんだっけかなー? などと考えながらクロノスと二人で歩いていると、
「――来たっ」
いきなり何かに気づいたようにクロノスが視線を上げた。
「クロード」
「ん? どうした」
「出たよ。グールが」
「はあ? 昨日より早くないか?」
「そんなことは今はいいから。はい、これ」
クロノスがヴァーリとかいう日本刀のキーホルダーとグール探知機を投げ渡してきた。
「っとと」
キーホルダーと探知機受け取るとすぐにパチンという音が聞こえてきた。
見ると辺りからは人気がなくなり俺とクロノスだけが虚しく二人だけで立っていた。
「よっと」
ブンッ。
クロノスが手を振り払うと同時に右手が光り、瞬時に金色の大剣がその姿を現す。
一瞬ビビったを余所にクロノスは俺に顔だけ向け、
「じゃ、また後でっ」
それだけ言って颯爽と行ってしまった。
「………はあ。じゃ、俺も行きますか」
ため息をつきつつ、少し遅れて俺も「顕現せよ」と呟き、日本刀を手にグール探知機の指示する方へ向かった。