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災厄少女と外出を2

 あれから俺は残っている競技でクロノスに試合を挑んだが負け続け、今やっている野球が最後の競技だ。

 点数は五対四。今は九回の裏、2ボール2ストライク、ランナーはファーストに一人だけ。クロノスがバッターだ。

 さすがに全部負けってわけにはいかない。ここで押さえて延長戦に持ち込んで次の回で点数差つけて俺が勝つ。だから今が正念場だ。がんばれ俺。あと1ストライクだ。


「これで最後だ。覚悟しろよ」

「散々私に負けといてよく言うよ。絶対負けないから」

 

 リモコンをゆっくりと後ろに持っていき、一気に投げるように振る。


「必殺! 大リーグボール!」

 

 別に変化する魔球とかではないが中々いい球だと思う。

 やや内角気味だがギリギリストライクゾーンに入っている。

 どうするクロノス。打つか、それともボールだと思って見逃すか。

 ふふ、これでお前も終わりだ。


「いい球きたあああああああああああああ!」

 

 ヒュン。

 何かが俺の横を通り過ぎていき、

 ガシャン。

 何かが壊れる音とともに画面にWINの文字が表示される。

 ………負けた。俺が負けた………‥全部の競技で、全部…………


「ありえないいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

 

 その場にしゃがみ込んで自分の無能さを噛み締めているとリモコンが無惨な姿になって俺の近くに転がっていた。

 あれ? なんでリモコンぶっ壊れてんの? 

 俺はリモコンまだ手に持ってるから俺のじゃないよな。だとしたら―――

 視線を移すとクロノスがバットを振った後のポーズのまま技後硬直していた。その頬からは一筋の汗が垂れているのが見て取れる。


「おい、お前リモコン投げたな」

「あ、あはは。つい手が滑っちゃった。てへっ」

「てへっ。じゃねえよ、てへじゃ」

 

 やはりあのとき俺の横を通り過ぎていった物体はリモコンだったのか。ん? 通り過ぎていったってことはどっかにぶつかったてわけで…………

 壁の方を見ると一カ所、凹んでいた。大幅に。


「お前、壁に当てやがったな!」

「気にしない気にしない」

 

 クロノスは苦笑いを浮かべて、ゲーム画面からテレビを普通の画面に戻し、再放送のバラエティ番組を見始めた。

 な、何してたんだ俺………一回もクロノスに勝てず、あまつさえリモコン一つ使用不可になるし、壁凹んだし。不利益しか、生んでないじゃないか。こいつとゲームなんてするんじゃなかった。

 俺はそれからブルーな気分のまま、グール狩りに駆り出され、ブルーな気分をさらにブルーにして一日を終えた。

 結局残ったのは壊れたリモコンと筋肉痛だけだった。

  

 


 クロノスと出会ってから四日。

 今、俺は寝不足だ。

 あれから毎日昼夜一回ずつ、グール狩りに駆り出された。筋肉痛で痛む体を癒やそうと寝たりして過ごしているとクロノスが何かしら騒いで全然寝れなかったり、もうくたくただ。

そんな疲労困憊の体を引きずってリビングに行くとクロノスもまだソファの上で寝ていた。


「おーい、朝で――――」

「やめて、逃げないで。私から逃げないで………」

 

 何だ寝言か? 

 顔を覗き込むと額に汗を滲ませ、苦しそうに顔を歪め、その目には涙も見える。今も時折「助けて」などと呟いている。きっと悪夢でも見ているんだろう。

クロノスにも普通の女の子みたいに怖い物があるんだろう。なんか普通が異常なくらいに強いからこのギャップがなんか新鮮だ。

 それから寝不足+筋肉痛の体を無理に動かして朝食を作っていると後ろから声が聞こえた。


「あれ、クロードもう起きてたの」

 

 眠たげな目をしつつ、目を擦りながらクロノスが来た。その目にはまだ涙のあとが覗える。

 俺はクロノスが悪夢を見て泣いていたのを知らないフリをしつつ、クロノスに質問する。


「おはよう。あれ、クロノスお前 、泣いた?」

「え、な、なんで」

「いや、目に涙のあとがあるから……」

「え、あ、う、うそっ!」

 

 俺に言われたからか急いで服の袖で目を擦るクロノス。


「言っとくけど別に泣いてないから」

「あ…ああ」

 

 どうやら自分が泣いていたのを知られたくないらしい。写メでも撮っておけばよかったな。そうすればクロノス(こいつ)に対して少しは優位に立てたかも知れないのに。

 少しして朝飯が出来たので食器に盛り、リビングに持って行く。


「さて、朝飯も出来たし食うか」

「う、うん」

 

 返事をするクロノスの声はなぜかいつもより弱々しかった。

 そして二人で食い始める。


「…………」

「…………」

「…………」

『――さんが婚約発表を………』

「…………」

 

 先ほどからテレビの音声だけがリビングに響き渡る。


「…………」

「…………」

 

 き、気まずい! なんでクロノスのヤツ話さないんだ。昨日とかどうでもいいことばっか話してたのになんで今日は話さないんだ? なんか話せよ! 

 ……いかん。本格的に気まずくなってきた。何でもいいから話のきっかけを作らない間が持たない。

 この状況を打開するための策を考えながら味噌汁を啜っていると味噌汁の香りに混ざって何か変な臭いが鼻を刺激してきた。

 なんだこの臭い?

 どこかで臭ったことのあるこの臭いは………あ、あれだ!

 よし、これを話題に上げてこのしんなり空気をぶち破ってやるぜ!


「クロノスお前なんか臭いな。おならした?」

「……は?」

 

 黙って朝飯を頬張っていたクロノスが「お前、何言ってんだ?」みたいな目を向けてくる。


「いや、なんか臭いから」

「レディーに向かってそんなこと言うな!」

「あち、ちちちちちちち!」

 

 いきなりさっき淹れたばかりの熱いお茶をかけられた。顔面に。


「ちょ、何すんだよ! 熱いじゃねえか!」

「デリカシーなさ過ぎ! ていうかおならの臭いってそこにあるゆで卵じゃないの!」

「ああ、確かに」

 

 そういえば朝飯にゆで卵出してたんだったな。なんかゆで卵っておならの臭いがするよね。メシ食ってる時になんだと思うけど。

 それっきり俺は話のネタを見つけることができず会話は終了。俺はもそもそと朝飯を食う作業に戻った。


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