災厄少女と外出を1
あれから俺はなるべく早く終わるようにとグールを急いで倒しまくった。でもいくら倒しても湧いて出てきて中々早く終わらなかった。
結局俺がグール狩りから解放されたのは朝方の四時頃だった。
おかげで寝不足だ。あ、あと筋肉痛も。
で、そんな体を引きずってわざわざクロノスのために朝食を作ったり(寝てたら腹減ったって叩き起こされた)で朝から大変だ。
「はあ」
ふと、ため息が漏れてしまう。
まさか昼ならず夜までも化け物狩りとは。
このままだとマジで体が持たない。
ていうか最悪死ぬ。
「ああああああああああああああああああ!」
そう思った瞬間、後悔の念がこみ上げてきた。
先日スーパーに行ってクロノスに出会ったのがそもそも間違いだったんだ。
ああ、過去の俺よ、なんであの日スーパーに行ったんだ………
過去に、過去に戻りたい!
神よ、俺に未来から青狸を召喚する力をくれえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
頭を掻きむしりながら悶えること数十分。
「って俺、なにやってんだ………」
何故か意味不明な行動をしてしまったことを悔やみつつ、ベットに横になる。
早くどこか行ってくんねえかな。俺の春休みが台無しだ。
それから部屋でパソコンを少し弄り、気分転換にゲームでもしようかと一階に行くと…………やつがいた。
「……悪いけどテレビ変えるぞ」
「なんで?」
ソファに寝転がったまま、クロノスが顔をこちらに向ける。
「俺は、今からゲームをする」
「ふーん。勝手にやれば~」
「ああ、勝手にやる」
それからテレビにゲームのケーブルを繋げゲームを起動させる。
やっぱゲームつったらRPGだよね。
とそんなわけでゲームデータ『クロード』を選択する。
後ろで「自分の名前を主人公に付けるなんて」などと言っているバカは無視することにして、街周辺にいるザコキャラでレベルアップを図ることにする。
まあ、ザコと言っても結構レベルの高いエリアだからそこまでザコとは言えないがレベルアップにちょうどいい。早くレベルを上げて次のエリアへ進み、ラスボスを倒さなくては。
適当に出てくる敵を白魔法や黒魔法、通常攻撃で殲滅しているとクロノスが真剣な目でテレビ画面を見てきた。
さっきは興味なさそうにしていたのにやっぱり異世界の物に興味があるだな。
「どうだおもしろそうだろう」
「別にそうは思わないのけど。なんでモンスター倒してお金出てくるの?」
「あ、そこ」
そんな現実的なこと言われても。
「モンスターが商人かなんか襲ってたまたま体毛とかに金が引っかかったんじゃないか?」
と適当にクロノスをあしらい、レベルを上げるために再びフィールドをうろついてモンスターとバトルを繰り返す。
それらのモンスター余裕でを倒し、経験値とともにモンスターが持っていたであろう武器を手に入れた。
お、この武器結構高いな。後で武器屋で売って金に換えよ。
「なんで武器出てくんの!」
いきなりクロノスがテレビに向かって叫んだ。
「大体さっきから思ってたけどモンスターからお金が出たり、武器が出たりするなんてありえない! 私の経験上、モンスターとかと遭遇して落とし物していったやつなんて一匹もいないよ」
「や……あくまでゲームだから。空想だから………ね」
フィックションにそんなリアルな話持ち出されても困るんだが。ていうかこいつどんな生活してきたんだよ…‥‥
「このゲームもうちょっと現実見たほうがいいと思うね」
「異世界人のお前が現実とか言うな!」
……ああ、なんかやる気失せたな。
というかこれ以上RPG系のやつやってたらまたなんか「ありえない!」とか言われそうだ。
そう思った俺は近くにあったセーブクリスタルに行き、セーブした後、ゲームの電源を落とした。
――――部屋に戻って今期のアニメでも見るか。
ソファから立ち上がり部屋に戻ろうとリビングのドアに手を掛けた時、
「あれ、もうやめちゃうの? あそこにある白いのしないんだ」
クロノスが近くにあった細長の白い長方形を指す。
あれは某ゲームメーカーから出ているリモコンを使ったゲーム機だ。
確か、兄さんが家にまだいる時に買ったやつだったけな………
俺はあまり体感型のゲームは好きじゃない。そもそも体感型ゲームというのはみんなでワイワイやるのが楽しいわけで友達の少ない俺にとってはまったく楽しくない。だから俺はいつも違うメーカーのゲーム機を使っている。なのでまったくこのゲーム機の存在を忘れていた。
「別にやらねえよ」
「じゃ、私やろっ」
「あ、やっぱ俺やる」
こいつに一人に扱わせたら壊されそうだ。ましてリモコンを振り回したりする体感型ゲームだ。壊される率が高い。させないという手もあったがまた逆らって腕輪で締め付けられるのも嫌だ。というわけで壊されないように監督官として俺が一緒にやることする。
さっそく配線を繋ぎ直すし、ゲームを開始する。
入れたソフトは唯一ある色んなスポーツを体験出来るゲームだ。
メニュー画面にはテニスやボクシングなどメジャーなスポーツが表示され、どれにするか俺が悩んでいるとクロノスが勝手にテニスを選択した。
「あ、おい」
「このテニスってやつしよっ」
テニスか………俺あまり球技得意じゃないんだよな………
渋りながらもプレイヤーを選び、一セット目が始まる。
先攻はクロノス。さあ、どう来る?
しかし、一行に待ってもクロノス打ってこない。
どうした?
「ねえ、これってどうやるの?」
どうやらやり方を、というかテニスそのものを知らなかったらしい。まあ異世界人だから仕方ないか。
俺は一通り自分が知っているテニスの知識をクロノスに教えてやった。
「―――とこんな感じのスポーツだ」
「……なるほどね」
テニスについて大体分かったようなのでゲームを再会する。
「うりゃ」
クロノスの打った球は真っ直ぐ俺の方へと飛んで来た。サイドに打てばいいに真っ直ぐとは。ま、初心者だから仕方ないか。
でも、初心者であることは俺も同じなので容赦はしない。俺はリモコンにボールをジャストミートさせるつもりで思いっきり振るった。
「おらよっ」
放たれた俺のボールがアウトラインギリギリを通り、決まった。
「うっ……もうちょっと容赦してよ。私初心者だよ」
「俺も初心者であることには変わりにないから容赦もくそもねえよ」
そうは言ったものの、最初は俺に圧倒されていたクロノスも徐々に俺の打った球を返すようになってきた。なんか微妙に悔しい。
「さあて、私の本気見せてあげよっかなあ」
少し返せるようになったからって威張りやがって。
「仕方ない。俺も本気を出すか。言っておくが俺はまだ本気の八割しか出していない」
「へえ、私は五割も出してないよ」
「あ、間違えた。俺は一割も出していなかった」
「私もさっき間違えた。実は百分の一しか出していなかった」
「俺なんか一割も出していなかったって言ったけど本当は千分の一も出していなかったっけな」
「私は――――」
結局熱くなった俺たちはその後も今考えるとアホな言い合いをして結局、クロノスが「私なんか無限分の一も出していなかった」というワケのわからないことを言って、俺が言い返せなくなったところで言い合いは終わり、実力で決着ということになって再び対戦を開始し、今は同点。どちらもマッチポイントだ。
「必殺、ツイストサーブ」
クロノスがリモコンをまるで剣でも扱うように袈裟斬りして叫ぶ。
「お前テニスやったことないのになんでそんなこと知ってんの!」
ツッコミつつも俺も負けじとリモコンを一気に振り下ろす。
クロノスの一撃をなんとか拾い、サイドへと打ち返す。
………決まった!
「甘い、甘いよクロード」
「な……なに!」
なんとクロノスは立っていたその場でいきなりバク転をし、俺の球を跳ね返しやがった。
「なっ………」
完全に決まったと思っていた俺はその無駄に大げさな反撃に虚を突かれ、反応することができなかった。
ゲームセット。
俺は一点差で負けてしまった。
俺に勝ったクロノスはソファに乗り、腰に手を当て、見ていてイラっとくる顔で俺を見下している。
「ふっふっふ。正義は必ず勝つ」
何が正義だ。人の家に勝手に押しかけといて正義もクソもあるかっての。
たまたま、勝ったからって調子に乗りやがって。
だが、このまま勝たせたまま引き下がるのものなんか悔しい。というかここで引き下がるわけにはいかない。昼夜問わず化け物狩りに駆り出されたり、リビングを爆散されたり、いきなり家を宿代わりにされたり………高校進学前の春休みをメチャクチャにされてこちとらストレスが溜まってんだ。でもかといって抵抗してもあの異常な怪力女に腕力でねじ伏せられてしまう。例えゲームだとしても今の俺にはこれしかクロノスに勝つ方法はない。ゲームで圧倒すれば少しはストレス発散になるだろう。
「まだだ。まだ勝負はこれからだ」
待ってろよ、クロノス。今からお前を負かしてやるから。
「いいよ、いくらでも相手になってあげる」
クロノスも乗り気なようなので選択画面に戻り、次のスポーツを選択する。
次に対戦するスポーツはボクシングだ。
ふふ、現実では絶対腕力で勝てないが、ゲームならお前に拳を叩き込むことができる。
さっそくボクシングを選択し、いざ試合開始。
「容赦しないからな」
「容赦されるまでもないよっ」
ドンッ。
いきなりクロノスが顔面を狙ってきた。
なんとかガードし、カウンターを喰らわせる。が、しかし。クロノスもカウンターがくることが分かっていたのか、うまくガードされた。
「やるな」
「まだまだ」
再びパンチを放つがまことごとくガードされる。
「うりゃああ、桜華崩拳!」
なんか子供先生の必殺技出たあ! ていうかなんでお前知ってんの?
「させるか」
ガードしたことでカウンターのマーカーが出た。
「喰らえ! 渾身の右ストレート!」
俺も負けじとカウンターを繰り出す。
「なんのおおおぉぉぉぉ!」
俺の渾身のカウンターをさらにガードし、画面にカウンターのマーカーが浮き出る。
ええ! まさかのカウンター!
「いけえぇぇぇ無限パンチィィィィィィィィィィィイイ!」
「別に伸びてねえぇぇぇぇぇぇえええええ!」
カウンターのカウンターという思いもせぬ攻撃に反射神経が追いつかず、ガードも何も出来なかった。俺は「シンクロ率四百パーセント?」と言われても仕方ないぐらい大げさにアバターが殴られたと同時に床に転がった。
「がはっ…………」
画面を見るとWINの文字。当然クロノス側にだ。
くそ、また負けてしまった…………
いや、落ち込むのはまだ早い。普段から戦い慣れてそうなクロノスにボクシングで挑んだのが間違いだったんだ。他の競技なら絶対負けはしない。
「まだまだぁ!」
「いいよいいよ、相手になってあげる。どうせ勝てないんだから」
と言うクロノスは馬鹿にしたように俺をニヤニヤと見てくる。
カチン。
俺イラッときましたよ。とってもきましたよ。絶対なんかの競技で勝ってやる!