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1週間たちまして

久しぶりの更新。主人公視点で。




「芽依、こんにちは」

「こんにちは潤くん」


 潤くんと出会ってから早くも一週間。

 時間は放課後。場所は中庭ではなく、保健室から少し離れた空き教室。私たちの教室とは違い、棟が離れているため人通りは少ない。部活が盛んでたくさん生徒が残っているにもかかわらず、教室に入るまでにすれ違う生徒も片手で数えるぐらいだった。

 


「密会するにはうってつけの場所だ」

 といたずらっぽく微笑みながら、鍵のチェーンをくるくる指に引っかけて回していたのを思い出す。

 それ、どこから手に入れたの、とは聞けなかった。

 なんか笑顔が怖かった。聞いちゃいけない雰囲気だった。

 

 というわけで、どこから手に入れたのか分からない空き教室での昼食や雑談がここ数回の定番だった。

 これからも集まるときは、この場所に決定したらしい。




 私より先に来ていたらしい潤くんは、窓際の席で本を読んでいたようだった。さわさわと心地よい窓から風が舞い込み、桜の花びらがカーテン越しに舞うのが見える。春の穏やかな空気と、潤くんが元々持つ儚い面影がマッチしすぎて一枚の絵のようだ。

 それは、壮絶に美しかった。例えだるそうにほおづえをついていてもである。逆にけだるい雰囲気が妙な色気となって美しさに磨きをかけていた。


 私の考える事が分かるのか、飴色の目がおもしろそうに緩む。ひきっつた笑顔を返すと、あまったるい微笑みが返された。思わぬ色気にぞくりとする。いるだけで犯罪じゃないかこんな男前。

 

 早くおいで、と促され急いで潤くんの目の前の席に座った。

 何されるか分かんないもの。




 最初の方は、どう接して良いか分からず戸惑ったものの、潤くんは思った以上にしゃべりやすかった。

 かわいいアイドルやお笑い、俳優の話などを振ったものの、そんな俗世間のことなど歯牙にもかけないような雰囲気を持つ潤くんに、話題の選択ミスをしたかと焦ったものだ。しかし、口から零れ落ちた言葉は、その内容に応えるものであり、どれほど安心したことか。楽しい会話を期待できると分かり、胸をなで下ろした瞬間でもあった。

 

 

 そして、謎につつまれた潤くんについて一つ分かったことがある。

 

 学年が上の先輩ではないか、ということだ。

 

 数日も学校生活を過ごせば気づくことであり、私の学年の階で潤くんらしい人物を見かける所か、噂らしい影も聞くことはない。

 先輩には敬語を、と思い潤くん相手に使い始めたのだが、そのときの潤くんの恐ろしい笑顔は忘れない。


「めーいー?次に敬語使ったらどうなるか分かってる-?ねえ?」


 がしっと両肩をつかまれて、じりじりと壁際におされたときは泣きそうになりながらうなずいたものだ。殺されるかと思った。





 くいっと袖を引っ張られ、はっとする。

 いけないいけない。意識が飛んでいた。

 そんな私を咎めるように不満顔の潤くんが上目遣いでこちらを見ていた。くそう、可愛いな。


「めーいー、お腹が減った」

「えー」


 昼休みの時間にたんとご飯を食べた潤くんはもうお腹が減ったらしい。小食そうに見えて意外に大食漢な潤くんはものすごい量の食品を摂取する。美形な男の子が豪快に食事をする様は違和感があるが、見ていて気持ちいいものがある。


 関われば関わるほど潤くんは普通の男子高校生だった。


「じゃーん、今日はマフィンつくったんだよー」

「・・・くれんの?」

「どーぞ」

「やった」


 実は今日調理実習があるの知ってたんだ、と小悪魔のように笑う潤くんは私の手からマフィンを受け取ると豪快にかぶりついた。儚げな印象からは思えないぐらい男らしい。


「おいしい」


 目を細めながらもぐもぐと口を動かす様子を見てほっとした。よかった、おいしいみたい。

 私はその反応に満足げに微笑んだ。




 潤くん。名字は知らない。たぶん年上。でも敬語は使われたくみたい。

 大食いで、甘いものが大好き。熱いものが少し苦手らしい。

 意外と俗っぽく、テレビのアイドルお笑いや映画、音楽など、たいていの世間話には乗ってくれる。

 くせのある甘い声。さらさらの茶髪に、長いまつげがふさふさとかかった飴色の瞳。 

 とてつもない美形で、それを本人も分かっているのか故意に使うのがずるい。

 

 でも、普通の男子高校生。


 

 それが、現時点で私が知る、潤くんである。





ほのぼーのゆるい空気。ゆるい。ゆるい。

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