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はじまり


 ちゅんちゅんと近くで鳥が鳴いている。

 たくさんの緑がいい感じに木陰をつくっていて、この学校にもこんな場所があったんだ、と感心した。少し肌寒いと思って着ていた白いカーディガンは必要なさそうだ。見上げた空には爽やかな青空と桜の花びらがはらはらと舞っていた。


 そんな華やかな景色とは裏腹に、私は悩んでいたのである。



「やっぱり学校休んだのはまずかったなー」

 ぽつりと呟いて、ベンチの上に寝転がる。


 エスカレーター式の高校に外部入試を受けて合格したというのに、入学式の日に風邪をひいて休んでしまったのだ。もう馬鹿としかいえない。

 内部入試がほとんどのこの学校。みんな周りは中学からの知り合いばかりである。入学式で同じクラスの子と仲良くなっていろいろ教えてもらおうと思っていたのになんたる誤算。おかげで友達もいない、学校のこともよく分からない、とのことで更に苦労するはめになってしまった。

 それは席の場所であり移動教室であり。クラスの子はそんな私に優しく接してくれたが、人見知りが激しい私にとってはいちいち声をかけるのにどきどきだった。


 それにここ数日間過ごしてみて気づいたのだが、なんだか私が知らないような何かがあるらしく、少しクラスから疎外感を感じていたのだ。

 その話になると、女子たちがきゃあきゃあと楽しそうに騒がしくなる。まるで、うっとりと妄想にひたって恋する乙女のように。様子から見て男性関係のことだというのは分かるけれどもとても雰囲的に聞けそうもない。



 少し一人になって落ち着きたくて、一緒にご飯を食べようと誘ってくれたクラスメイトに断りを入れて、この中庭にたどり着いた。

 とりあえず人のいないところいないところを探して歩き続けていると、ここを発見したということだ。

 たくさんの木とちょっとした花壇にぽつりとある一つのベンチ。中学校のときにいつもお昼を食べていた中庭にそっくりで見たとたん感動してしまった。なんだか迷子になっていてやっと知っていた道に戻ってこれたときのような安心感がある。


 うーん、と唸りながら狭いベンチの上で寝返りをうつ。

 普段からこのベンチを愛用している人がいるのだろうか、ふんわりと甘い香りが漂う。その香りがやけに心地よくてじんわりと涙がでてきそうになった。

 気を張って疲れていたのだろうか、すぐに私は夢の中に沈んでいったのであった。






 寝返りをうとうとしたときだった。

 もうそろそろ起きないと昼休みが終わっちゃう。意識がはっきりしない中でそう思い体を起こそうとしたとき、ちょっとした異変を感じた。


 なんだか頭の下にあるものが暖かい。

 気持ち悪い感じはまったくなく、逆にとても心地いい。まるで人肌みたいで気を抜くとまた眠りにおちそうになる。

 でも確か、私の頭の下は固い木のベンチがあったはずなんだけど。


 おかしいなあ、と思いつつゆっくりと重たい瞼を開く。



「あ、起きちゃった?」

 目に映ったのは茶色い髪の毛と穏やかな笑顔。

 心地いいテノールの声が予想以上に甘くて思わず力が抜けてしまいそうになった。ちょ、ちょっとえろっちいのは気のせい?腰に響くような、女の子だったら、いやん、と頬を赤く染めてしまうような声。

 そしてふんわりと甘い香り。

 もしかしてこのベンチを愛用してる人?


「おはよう」

「んん…?おは、よう?」


 にっこりと笑みを浮かべている目の前の人をまじまじと見つめる。

 とても、綺麗な男の人だ。誰が見ても、美青年!と言ってしまいそうになる、きっと生まれながらにして持っている美貌。まるで白馬の王子様のよう。

 

 ん、あれ?男の人…?

 男――――!?


 がばりと起きて今まで頭があった場所を見る。すらりと長い脚があった。どうやら、私は何があったのか膝枕をしてもらっていた様だ。

 

 ええええ、寝てる間に一体何があった?!一気に顔が青くなったのが自分でもすぐに分かった。冷汗もだらだら。


 それを見て、目の前の男の人はくすりと笑って顔を近づけてきた。どうしちゃったの、そんなに驚かなくても、と砂糖のように甘ったるく言う。

 おでこに暖かい感触―それが目の前の男の人の唇だと思った瞬間、ぎゃあ!と女らしからぬ声で叫んでしまった私はおかしくはないと思う。


 ちなみに、この後さらに悲鳴をあげてしまうのはもうちょっとだけ、先の話である。





まだまだ序盤。

でも起きたら膝枕されてたなんてそりゃびびるよね。

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