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短編集

吸血少女とトレジャーハンター

 乾いた銃声が二度響いた。


「マジ……かよ!?」


 撃たれた少年から血が体から噴水のように溢れ出す。

 そして、あっさりとその少年は死んだ。

 少年を撃った男は彼が息絶えたのを見て、立ち去った。


 直後、死んだはずの少年が体を起こす。

 そして彼は何事もなかったようにため息を吐き、頭をかいた。


「あぁもう、クソッ!! これで二百と五十三回目だぞ!!」

 少年は唾を地面に吐き捨てて、前を向く。

 胸を撃ち抜かれたばかりだというのに少年の目は活き活きとしていた。

 彼の目は一つのものを捉えている。

 目の前にある大きな宝箱だ。


「さぁ~てと、こんなに苦労したんだ。あたりであってくれよ~」


 少年は期待をこめて宝箱を勢いよく開く。

 そして、目を見開いた。

 愕然としている少年を余所に、中に入っていたものが口を開く。


「何? 眠いんだけど?」


 宝箱の中に入っていたのは財宝ではなく、青白い顔の少女だった。


「…………ハズレか。努力して手に入れたのがただの死体とはな。皮肉なもんだ

ぜ」


 少年は落胆して、わざとらしく大きなため息をつく。

 どうやら少女はそれが頭にきたらしかった。

 眉を吊り上げ、少年を睨みつける。


「ちょっと人を死体扱いしないでくれる!!」


 死体ではないと主張する彼女の肌は透き通るように白く、少年に氷を連想させ

た。

 とても生きている者の肌の色とは思えない。


「あー、あー見えない、聞こえない!!」

「ちょっと聞いてるの!!」


 淡い青色の眠たげな眼を大きく見開いてしゃべる少女に少年はうんざりしたよ

うに言い返す。


「例え、生きていても……好き好んで宝箱の中に入っているような変人さんとは

関わりたくないぜ。まだ棺の中に入って吸血鬼ですって主張した方が現実味があ

るぜ?」

「あら? 私は吸血鬼よ」


 胸を張って答える少女に少年は哀れむような視線を注いだ。


「何よ? 信じてないわね?」


 少女が怪訝な表情を浮かべる。


「信じろって言う方が無茶だろ。それにお前が入ってたのは棺じゃなくて宝箱だ


 そういう少年に対して少女は大きく口を開き、歯を見せつける。

 確かに4本の犬歯が人間の歯とは思えない位尖っている。


「えっと……新手のファッション?」

「そんなわけないでしょ!!」

「いやぁ、いきなりそんなもん見せられても何て反応すりゃあいいのやら。だい

たいお前が入ってたのは宝箱だろうがっ!! 吸血鬼はそんなとこには入りません

ーだ」

「棺がなかったんだから仕方ないでしょっ!!」

「吸血鬼ならそこは拘れよっ!!」


 そう叫び喉が渇いた少年は、ポケットから林檎を取り出してかじろうとした。


「あっ!!」


 急に大きな声を出されて驚いた少年の動きが止まった。

 声を上げた少女は林檎を物欲しげに見つめる。


「ん? なんだ? まさか……欲しいのか?」


 少女は口を尖らせ言う。


「別に欲しいなんて言ってないわよ」

「そうか、なら……」


 再び口を大きく開いて林檎を少年がかじろうとする。

 すると、少女は焦ったように言葉を紡いだ。


「でも、貰ってあげてもいいわよ?」

「いや、別にいいです」

「貰ってあげても構わないわよ?」

「だから結構です」

「遠慮なんていらないわよ?」

「さっきから、いいって言ってんだろうがっ!!」


 思わず大声をあげる少年に少女は、林檎を貰おうと伸ばしていた手を降ろして

頬を膨らませ呟いた。


「……意地悪」


 その言葉に少年がピクリと反応する。


「やっぱり、欲しいのか?」


 少年のその問いに自称吸血鬼の少女がそっぽを向く。

 そして小さな声で言った。


「……そうよ」

「吸血鬼なのに? 血の方がいいんじゃないか?」


 大袈裟に驚いてみた少年を少女が睨む。


「何その偏見? あんな鉄の味しかしないののどこが美味しいのよ!! 鉄の味が

好きならスプーンでも舐めてりゃいいじゃない!!」


 憤慨する少女をジトっとした目で見ながら少年は頷いた。


「そりゃもっともなご意見で。吸血鬼さん」

「当たり前よ」

「皮肉だよ!! それぐらい気づいてくれよっ!! しかしどうすっかなぁ」


 皮肉ということにすら気づかれなかったので訂正して、少年は再びため息をつ

く。


「どうしたのよ?」

「また、宝が見つからなかったから落胆してんだよ。もう金欠だ」


 そう言い、少年は少女の方をチラチラ見た。


「な、何よ!?」

「どっかに助けてくれる吸血鬼さんはいないかなぁ」


 宝箱から出て後退りする少女を少年はさらに、チラチラと見た。


「あ、あたしはお金なんて持ってないわよ!!」

「あぁ、きっと俺の村ではチビ共が俺が宝を持って帰るのを楽しみに待っている

んだろうなぁ。みんなごめんな。兄ちゃんは無力だ……。ハァ、宝箱の中身が役

立たずの吸血鬼じゃなくて財宝だったらなぁ」


 涙ぐむ少年をみて、少女はヤケクソ気味に声を荒げた。


「あぁ、もうわかったわよ!! ようはあんたが宝を手に入れればいいんでしょ!!

 手に入れれば!!」


 そんな少女に少年は怪訝な顔を向ける。


「どうする気だ?」

「私を誰だと思ってんの!? 宝の在処ぐらい心辺りあるわよっ!!」

「おおっ!! さすが吸血鬼さんっ!!」

「私にどんと任せなさいっ!!」


 自分の胸を叩く自称吸血鬼少女に少年は手を差し出した。


「俺は、ディン アレシオ。トレジャーハンターだ。よろしくな」


 少年の手を少女は無愛想に掴む。


「……レーナよ」



◇◆◇


「で、何で俺達はこんな所にいるんだ?」


灰色の髪に灰色の瞳をしたトレジャーハンターの少年が尋ねる。

 彼は今、ある遺跡の中にいた。もちろん、自称吸血鬼も一緒だ。

白髪に淡い水色の瞳をした自称吸血鬼の少女が答える。


「こういう場所ってお宝ありそうよね?」


彼女は単純だった。


「確証ないのかよっ!?」


少年が頭をかかえる。


「大丈夫よ。吸血鬼は人より長く生きるから賢いのよ? 私はかなり若い方だけ

ど、あなたよりは年上だわ。年長者の勘を信じなさい。なんせ私は200歳なんだか

ら」

「俺は500だけどなっ!!」

「……え? えぇぇぇえっ!? あんた何者なのよっ!?」

「何そんなに驚いてんだよ? 俺はただのアンデッドだよ。それより、お前これ

で信じられる理由がなくなったぜ?」


 驚いた少女は目を逸らし、


「大丈夫……私の勘を信じなさい」

「不安で不安で仕方ねぇよっ!!」


少年の不安を余計に煽った。


「大丈夫よ。この遺跡他に人が押し入った形跡がないもの」

「その根拠は?」


やけに自信あり気に先に進む少女に少年が聞く。


「罠がまだ作動してないからよ」


壁の一部を押して少女が答える。

その瞬間、反対側から、矢が飛んできて、少年の頬を掠った。

 青ざめる顔、流れ落ちる冷たい汗。

 そんな彼に少女が肩をすくめてみせる。


「ね?」


 どこからか血管が切れる音がした。


「ね? じゃねぇっ!? 殺す気かっ!? お前は俺を殺す気かっ!?」

「そんなつもり別にないわよ」


自称吸血鬼の少女がそう言いながら踏んだ床のパネルが凹んだ。

上から槍が飛び出してきて、少年の顔が再び青ざめる。


「言ってるそばからやりやがって!!」


そういう風に言い合いながら、先へと進んでいると二人は急に広い部屋に出た


「なんだ?」


首を傾げる少年の肩を少女が叩く。


「見て、宝箱」

「おぉっ!?」


意気揚々として少年は宝箱を開き、


「我の眠りを妨げる者は誰……」


閉じた。


彼は叫ぶ。


「もう、嫌だあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」




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