第10話 なぜか世界が平和になりました
競技場が静まり返っていた。
十万人。
魔王。
勇者。
女神。
古竜。
紅茶皇帝。
そして創世神。
全員が見ている。
ただ一杯を。
重い。
コーヒー一杯に背負わせる規模じゃない。
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創世神が告げる。
「決勝課題」
「互いに、世界を争わせぬ一杯を淹れよ」
女帝エル・ダージリンが微笑む。
「負けませんわ」
俺もドリッパーを握る。
手が不思議と震えない。
ここまで来ると腹が据わるらしい。
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先攻は女帝。
優雅な所作。
茶葉が舞う。
香りが会場を包む。
完成。
永劫王室アフタヌーン
名前つよい。
創世神が飲む。
目を閉じる。
そしてぽつり。
「文明」
評価がでかい。
観客どよめく。
強い。
さすがラスボス。
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次は俺。
深呼吸。
何を淹れる。
技術?
いや違う。
ここまで俺をここへ運んだもの。
魔王の孤独。
勇者の正義。
女神の責任。
古竜の情熱。
紅茶皇帝の美学。
全部、敵じゃなかった。
違いがあっただけだった。
俺は微笑んだ。
《感情抽出》発動。
全員の想いを抽出する。
原初の豆。
世界樹の水。
停戦ティラミスで使ったカカオを一滴。
最後に、自分の願い。
「静かなカフェをやりたい」
それを注ぐ。
湯気が金色に光った。
会場がざわつく。
「……できた」
俺は言った。
「世界平和ブレンド・極」
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創世神が飲む。
沈黙。
長い。
長い。
誰も息をしない。
やがて――
創世神が、泣いた。
神が。
泣いた。
ざわあああああっ!!
会場爆発。
創世神は震えながら言う。
「争う理由を、思い出せぬ」
魔王が固まる。
勇者も呆然。
女帝が小さく笑う。
「負けましたわ」
勝った。
……コーヒーで。
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その瞬間だった。
世界樹が発光する。
空へ光柱。
魔法陣が広がる。
世界中へ。
創世神が告げる。
「この一杯をもって宣言する」
「人・魔・神・茶・珈琲、永久停戦」
待て。
茶も勢力なのか。
会場は歓声に包まれる。
勇者と魔王が握手。
女神と紅茶皇帝が抱き合う。
薬湯拳士まで泣いてる。
なんで。
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その後の歴史は早かった。
森のカフェ・ヒュッゲラボは
世界会談の聖地となった。
戦争前にまずコーヒーを飲む文化ができた。
「一杯飲んでから話そう」
それが世界の合言葉になった。
飲料戦争は終わり。
争いは消え。
――なぜか。
本当に。
世界が平和になった。
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数年後。
俺はいつもの店で豆を挽いていた。
相変わらず小さなカフェ。
常連は今日も来る。
魔王。
勇者。
女神。
古竜。
紅茶皇帝までいる。
全員入り浸り。
平和ってうるさい。
魔王が言う。
「いつものを」
勇者。
「停戦ラテを」
女帝。
「今日は珈琲で」
紅茶皇帝が珈琲派に寝返ってる。
俺は笑う。
「かしこまりました」
湯が落ちる。
香りが立つ。
静かな時間。
やっと望んだ暮らしだ。
……少し騒がしいけど。
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看板が揺れる。
森のカフェ・ヒュッゲラボ
ただコーヒーを淹れていただけなのに。
なぜか世界が平和になりました。
⸻
第一部 完




