8.鞘の中身
平和が....平和がほしい!
さて、だいぶ緊張するシーンが続きますね。
頑張って進めていきます。
彼女との問答を終えた俺は、翌日に備えて休むことにした。
だが、精霊であるエナには睡眠という概念がないらしい。
頑なに部屋から出ていこうとせず、結局諦めた俺は同室で夜を明かすことになった。
翌朝――
予定通り支部長室に向かう途中のことだ。
エナは歩きながら、妙なことを言った。
「私が危ないと判断したら、その場で力を使います」
「――支部長は魔物じゃねぇよ……」
事実、強面で大柄だがみんなから慕われているすごい人だ。
(エナもかわいいところあるんだな……)
俺は彼女に、意外な幼さを感じていた。
受付に要件を伝えると、3階の応接室に案内された。
俺はノックして扉を開けた。
「――失礼します」
部屋には、獅子のたてがみのような髪をした大柄な男と、
細身で初老の女性が座っていた。
男の方はクセル支部長バゼルで間違いない。
だが、女性の方は組合では見たことがない。
しかし、どこかで見覚えがあった。
(どっかで見た気もするけど……誰だ?)
「まずは急な呼び出しに応じてもらえたこと、感謝する」
「それと、こちらのお方の紹介もさせてもらおう」
「こちらはメイデン=クセルディア、ここクセルのご領主だ」
「はじめまして、メイデン=クセルディアです」
「以後お見知りおきを」
そう言って軽く会釈をした。
「……は、はい! アルです。旅人をしています!」
自分でもわかるほど、声が裏返っていた。
名乗っただけなのに、喉の奥が妙に乾く。
それに対して――
「はじめまして。アルの契約精霊、エルナビスと申します」
彼女は一切の淀みなく、静かにそう述べた。
緊張も、遠慮もない。
上位精霊は王族や貴族の庇護下に置かれるため、言葉遣いが丁寧だとは聞いていたが――
(……それにしても落ち着きすぎだろ)
俺の隣に座る彼女は、場の空気に呑まれる様子すらない。
戦場以外でも頼れる相棒なのだと、改めて思い知らされる。
「さて、挨拶はこの程度でいいだろう」
「では会合を始めよう」
支部長の一言で、室内の空気がはっきりと変わった。
雑談の余地は消え、視線が一斉に俺たちへ向く。
「まずはアル。念のため確認しておくが……」
「そちらの精霊と、正式に契約したのは事実だな?」
(……やっぱり、そこからか)
「はい。間違いありません」
隠す意味もない。
ここは、はっきり答えるべき場面だ。
「そうか……」
「では、彼女の力については、どこまで聞いている?」
「力……ですか」
そう問われて、言葉に詰まる。
思い返してみても、俺は“体験した”だけで説明を受けてはいなかった。
「詳しい説明はなにも……」
「契約者を剣に変える……それくらいしか」
「やはりな……」
「ふむ……」
支部長と女性が、短く視線を交わす。
その仕草が、やけに重く感じられた。
(……なんだ?)
(エナの力に、まだ何かあるのか?)
反射的に俺は隣を見た。
エナは先程から、何も変わらない表情で二人を見ている。
まるで――最初から、こうなると知っていたかのようだった。
胸の奥にざらついた違和感が広がる。
その沈黙は領主によって破られた。
「アル様」
「エルナビス様の力は、“契約者を剣に変えること”ではございません」
ドクン、と心臓が跳ねた。
嫌な予感がする。
見ないようにしてきた何かを、正面から突きつけられるような感覚だ。
「契約者に限らず“生物を剣に変える力”……です」
「対象は牛や馬だけでなく……もちろん人間も含まれます」
「そ、それがなんだ!別に戻れるんだし問題ないだろ!」
「アル様……」
見苦しい言い訳だ。
こんな話し方の時点で本当はわかっているんだ。
「彼女が剣に変えたものは――」
(やめろ……!)
(それ以上、言うな……!)
「あなた以外に――元に戻った例はございません」
「……」
突きつけられた真実に、俺は言葉を失うしかなかった。
主人公よりも作者の方が緊張してます




