22.鉱山攻略開戦
団長と別れた後、俺たちは平地に変わった元街道を進んだ。
鉱山までは半日で、日暮れ前には到着予定だ。
「詳しく聞きそびれたけど」
「結局、作戦はあるのか?」
何度も共に戦ってはいるが、相手は魔王だ。
さすがに無策で突撃は困る。
「――これを使います」
そう言った彼女の右手には、先程までは無かった剣が握られていた。
「それ、領主の屋敷からぶんどってったやつか」
攻略準備で、なぜか彼女は倉庫にあった近衛の剣を20本も持って行った。
なにやら鉱山攻略で必要らしい。
「でも、そんなので戦えるのか?」
あまり言うのも嫌だが、俺が変わった時よりも貧相なのは明らかだ。
「使い切りですが、ないよりはマシです」
「これは兵隊アリ専門ですから、あまり気にしなくていいですよ」
そしてエナは剣を自分の手に突き立てる。
だが刃は彼女の手を突き抜けることはなく、どんどん吸い込まれてやがて消えた。
(何度見ても不思議だ……)
どういう理屈かはわからないが、剣を体の中に保管できるらしい。
20本の剣は、今はエナの中に全て収まっている。
どう見てもあの華奢な体に、大量の剣が収まっているとは思えない。
だが、そんな俺の考えなど無視してエナは話を続ける。
「先程の剣で眷属の数を減らして、本丸は強制接続で一気に押し切ります」
「――やっぱり使うしかないのか」
思わず腕が震えてしまう。
戦況は厳しいと聞いた時から、ある程度の覚悟はしていた。
それでも、あの痛みを思い出した途端に体の震えが止まらない。
すると、それに気づいたエナが俺の手を握ってくれた。
暖かさを感じて、少しずつ震えが止まる。
「大丈夫――」
「今は勝つことだけを考えましょう」
それから細かい作戦を話してるうちに、気がつくと鉱山の入口に到着した。
「着きましたね」
「――ああ、いよいよだな」
鉱山は放棄されているので、明かりは一切なかった。
真っ暗な穴の奥から、ここからでもわかる強力な気配を感じる。
他にもチラホラと他の気配もある。
(あの気配……、斥候か見張りだろうな……)
あまりの暗さに一層の警戒を強めていたのだが……
「さて、行きましょうか」
エナは街を歩くのと同じように坑道へ入っていく。
しかし、彼女の進む先には魔物の気配がする
感じ取れないはずはないのだが――
「来ないのですか?」
――全く気にしていない様子で歩みを進める。
「あ、おい」
思わず呼び止めるが――
ボガァァン
予想通り壁の中潜んでいたアリが彼女の背後から襲いかかる。
「よっと」
だが、回し蹴りで難なく仕留めてみせた。
(…………相変わらずだな)
雑魚相手では、剣を抜く必要もないと言わんばかりだ。
「――ほら、早く行きますよ」
何事もなかったような顔で、急げと手招きをしている。
「――わかったよ」
呆れて何も言う気が起きない。
俺は彼女に従って、ついて行くことにした。
坑道は奥に進むにつれて、どんどん暗くなっていく。
数分も歩けば灯りもなく、数歩先も確認できない。
「――にしても暗すぎるだろ」
とりあえずで持ってきたランタンで照らしてはいるが、足元以外、何も見えない
その一方で、エナは俺の手を引いてぐんぐん先に進んでいく。
(まったくどうなってんだよ……)
まるではっきり見えているかのようだ。
「なあ、エナ」
「はい、なんでしょうか」
「もしかして、この暗闇でも見えてるのか?」
俺はどうしても聞きたくなった。
「そうですね――」
「外と変わらない程度にははっきりと」
「それは少し羨ましいな」
きっと精霊は、環境適応能力が高いのだろう。
そう思ったのだが、次の一言でそれが勘違いだとわかる。
「羨ましいのは私の方です」
「私には、夜も星空も知覚できませんから」
どうやら彼女にとって、闇は存在しないものらしい。
それはきっと、精霊にとってとても寂しいことなのだろう。
「えっと……」
相棒として何か言うべきだと思った。
しかし、奥から無数の足音が近づいてくるのが聞こえてくる。
「無駄話はここまでのようですね」
「あ、ああ、そうだな」
――音がどんどんはっきりとしてきた。
だが、エナはいつまで経っても俺を剣にしない。
そこで、入り口での会話を思い出す。
「もしかして、今は剣にならなくていいのか?」
「はい、アルはまだ温存していてください」
彼女は胸から剣を抜きながらきっぱりと答えた。
剣が一際強く光を放つ。
その光で、坑道の奥が一瞬浮かび上がる。
―――ドドドドドドドド
(嘘だろ……)
坑道の壁だけでなく、天井も埋め尽くす大群がこちらへと向かって迫っている。
――ざっと見ただけでも、数十匹はいる。
「では、道を拓きます!」
そう言って剣を振りかぶり、一閃。
――ドォォォォォォォォン
眩い閃光と轟音が坑道を満たす。
「……無茶するな」
最前線のアリたちは、土煙と共に霧散していた。
同時に、先程の剣も塵となって崩れる。
だが、奥からはまだ無数の気配が迫っている。
「さあ、どんどん行きましょうか!」
エナはすでに新しい剣を握り、先の一撃を放つ準備をしている。
煌々と輝く刃に照らされた彼女の横顔は――
なぜか、かすかに笑っているようだった。
時間がかかりましたが、いよいよ魔王戦へ向かって進みます。
ここからが、この章の要なのでお楽しみに!




