1.剣精◯◯◯◯◯との契約 前編
長すぎたので分割です。
――護衛の依頼を受けて2日が経った。
明日の夕暮れにはクセルに到着するだろう。
この2日間の道中は順調としか言えないものだった。
途中で少数の魔物との遭遇戦が何度かあったものの、カリナとダルが全て撃退してくれている。
2人は俺と違い精霊契約を結んでいる上に、一般でも珍しい部類の中位精霊と契約している。
たいていの魔物相手に苦戦することはほぼない。
一度だけ御者のじいさんに「あなたは戦わないのか?」と尋ねられたが、詳しいことは話す気になれなかった。
話したところで不安を増やすか”厄介者”扱いされるかだ。
どちらにせよ碌なことにならないので、適当に濁しておいた。
そんなわけで全く疲れのない俺が、こうやって夜番を担当している。
別に構わない。俺たち3人はいつもそうやって来たのだ。
「今日もあなた様お一人で見張りなのですか?」
突如として凛と透き通る声が響いた。
「誰だ!」
瞬時に思考を警戒へと切り替える。
(仲間の声じゃない、あの2人は目の前で寝てる)
何より聞いたことがない声で、聞こえたのは後ろからだ。
(・・・まさか)
声の主を確かめるために振り返ると・・・
そこには馬車の扉を半分開けて、覗き込むようにしてこちらを見ている人影がいた。
外套を深く被っているため顔は確認できないが、声を聞く限り女であるのは間違いない。
「あの、その・・・、起こしてしまったのでしょうか?」
予想外すぎて一気に警戒心を解いたせいか、不自然な喋り方になる。
(貴族のご令嬢とか、話したことねぇよ!)
「いえ、そんなことは・・・」
気まずい沈黙が場を支配する。
「あのぉ・・・」
「辛くはないのですか?」
「えっ・・・」
突如として振られた質問に思考が止まる。
からかいじゃない、本気で心配しているんだ。
(貴族が雇われの平民を心配だなんで、変わり者なんだな)
失礼かもしれないが本当のことだ。だが、悪い気はしなかった。
「―辛いことはないです。それに、これぐらいしかできませんから」
スラスラと言葉が出たが明日には別れるんだ、別に構わない。
それに、なぜだか話してもいいと思えた。
「精霊と契約ができないのですね」
いきなり図星を突かれ驚いたが、すぐに納得する。
(精霊が見えるほどの魔力持ちか、まあ貴族だし当然だな)
「魔力の波長が合わないらしいです」
「おかげで下位精霊とでも数時間の臨時契約が限界なんです」
そう、昔から俺は精霊とは相容れない。
精霊契約は契約期間の長さで出来ることが増える。
普通なら誰にでもできることだ。でも・・・
「こんなだからどこに行っても厄介者、あの2人ぐらいしか受け入れてもらえませんでしたよ」
自分で話しておいて惨めになる。
(まったく、なんでこんな話したんだか)
「なんて、こんな話されても困りますよね。」
今はこの変な空気を誤魔化したくて仕方なかった。
「申し訳ございません、忘れてー」
「私と、同じですね」
誤魔化せないほど寂しい言葉で、彼女はそう呟いた。
「それってどういう・・・」
「ごめんなさい!忘れてください!」
意味が気になったが、聞く前に遮られてしまった。
「変なことを言ってしまいました」
「もう寝ますので、引き続き頑張ってください」
そう言ってそそくさと扉を閉めて奥に引っ込んでいった。
(さっきのは、いったいー)
妙な気分だがそれを確かめる術はない。
当の本人がいなくなってしまったのだ。
(明日で最後、このまま何も起こるなよ)
先ほどとは別の胸騒ぎを抱えていたが、俺には焚き火を絶やさないことしかできなかった。
本当はヒロインが出るはずだったんです。
本当です。




