陰の天子編
◆陰の天子の参戦
その日、妃果梨は物部家の玄関にいた。
「今までお世話になりました。」
妃果梨は一朗太とその妻に深々と頭を下げた。その後、2人に背を向け、はつらつとした様子で歩きだし、大伴命前神社の鳥居をくぐって行った。
「とっても元気そうだ。よかった。」
一朗太は隣の妻に言った。妻は頷きながら微笑みを夫に返した。
妃果梨は、その足で亜香里たちの所に行った。
「妃果梨さん!」
亜香里は、驚いた様子で妃果梨を迎えた。
「亜香里さん、命士さんたち、おかげさまで私この通り元気になりました。ありがとう。」
「それは、よかったな。」
晃が返した。
「一朗太さんたちにもお世話になったけど、皆さんにもお世話になったから、私、皆さんのお手伝いをしたいです。そんな形で、恩返ししたいんです。」
亜香里は、心配そうにその提案に言葉を返した。
「大丈夫?大変な事にまた巻き込まれるかも知れないよ?」
「大丈夫だよ。亜香里さん。色々覚悟の上で来たんだ。」
「なら、お願いしようかな?いいかな?命士たちも。」
教宗が亜香里の決定に従う意思を示した。
「陰の天子、天子の力を持つもう1人の存在を筆頭命士として歓迎する。」
教宗は、妃果梨に頭を下げた。それに続き、他の命士も頭を下げた。
「あの、そんな、私、偉くないです。」
「そういうしきたり、なんだ。妃果梨さん。とりあえず、受け入れてあげて?」
「そうなんだ。こちらこそ、よろしくお願いします。」
それを受け、妃果梨を乗っ取っていた八小蛇の真実を話した。それに関連して暁の現状も伝えた。八大蛇に吹き飛ばされたあと、すぐに意識を取り戻し、どこかに行ってしまったが、ちょくちょくこちらに来てはちょっかいを出してくると。妃果梨は、その情報に驚いたり、呆れたりした。
◆元従者と
別の日、7人態勢になった亜香里たちの元に暁が顔を出した。
「今日は、お前らここにいたのかよ?」
「何だよ、悪いかよ。」
度々来る暁にうんざりしている朝陽が苛立ちを込めてそう返した。
妃果梨は、自らが八小蛇から解放された時以来の暁との再会に声をかけざるを得なかった。
「暁くん、久しぶりだね。」
「妃果梨様!ご無事でしたか!!」
「止めて、もう、私たちは、そんな関係じゃない。」
「そんな。それに、何故このような所に?再び、破壊行為に参りましょう!」
妃果梨は自分への敬語を止めない暁にどうしていいかわからないまま、返答をすることに。
「それも、もう、やらない。私の中の八小蛇は消えたんだから。」
「そんな。」
肩を落とす暁。
「暁くんには、八小蛇の力が残ってるようだね?私のように亜香里さんたちに取り払ってもらう?嫌でしょう?」
「これは、俺に必要な物です。」
「え?」
「妃果梨様にそのようなことを言われるとは思いませんでした。妃果梨様こそ、俺の理解者と思ってましたが。今日の所は失礼します!」
暁は、ショックを受けた様子で走り去って行った。
「暁くん!」
妃果梨は戸惑った。亜香里たちも首をかしげた。
「何だろう。」
亜香里が呟くと、朝陽がこう毒づいた。
「何だっていいよ。あいつが消えてくれたんだから。妃果梨さん、いい仕事したよ。」
「ちょっと!朝陽!!」
亜香里が少し厳しい声色でそう言う。
「あ、ごめん。天子。」
◆7人の戦い
八大蛇の活動を察知した亜香里一行は、八大蛇の所に急行した。妃果梨はそんな亜香里たちに初めてついて行った。
過去、八小蛇に乗っ取られながらも敵として見た亜香里と命士たちの戦いを、今度は味方として後方から見た。あの時と比べ、連携の取れた戦いが繰り広げられ、自分が入り込める余地などないと妃果梨は思った。そうしている内に、亜香里たちは八大蛇を退けた。
「亜香里さん、命士さんたち、凄いよ。」
「そうかな?」
亜香里が首をかしげながらそう返す。
「今回の攻撃じゃ、持って2週間だな。」
「ご明算だ。晃。」
「検算ありがとよ、リーダー。」
そのやり取りを聞いていた亜香里は苦笑いしながら妃果梨に再び声をかけた。
「あんまり長く八大蛇を抑えることが出来なくてね。でも、根拠はないけど頑張るつもりだよ。」
「そう、なんだ。」
◆力
後日、妃果梨は考えた。亜香里たちの戦いが思うような成果をあげられていない理由を。
「もしかして、私のせい?」
八大蛇は、八小蛇の力を吸収し、強化されているというのに、亜香里は、自分に半分の力を与えたままだ。そして、亜香里からはあれから力が「回復した」とは聞いていない。自分という存在が、亜香里の足を引っ張っていると結論付けた。
妃果梨は、亜香里の所へ行き、こう言った。
「亜香里さん、私、あなたに力を返したい。どう考えても、この力は亜香里さんが使う物だよ。」
すると、亜香里が変な口調で話し出す。
「そなたとは初めて話すな、妃果梨。」
「ど、どうしたの?亜香里さん?」
「我は、亜香里の力の源となっておる近だ。」
「ち、か?」
「我らは、その力の返却は、現状望んではおらぬ。残された力を回復させながらこれからも戦う意気込みでおるところだからだ。なに、心配するでない。」
この日の妃果梨の思いは受け入れられなかった。
◆再びの戦闘
それからわずかな日数を経て、八大蛇は活動を再開。7人は、再び八大蛇と対峙。すると、この日は暁が八大蛇の加勢を依頼されてもいない状況で開始。暁は、主に命士たちを攻撃し始めるが、圧倒的な命士5人の力を相手に暁は敗北。
「ふっ、非力な。」
八大蛇は、そんな暁を鼻で笑った。
「しかし、天子と命士らを引き離したことは評価するぞ!不破暁!!」
それを言い終えると、八大蛇は、亜香里と妃果梨を捕まえた。
「むしろ、天子の力を持つ者を我の手下とする!!」
「嫌だよ!!そんな事!!」
亜香里は自力で何とか八大蛇の右腕から伸ばされた蛇から逃れた。しかし、妃果梨は上手く脱することが出来ない。
「みんな!妃果梨さんを助けるよ!!忠通、あなたの命士奥義を!」
「御意。」
忠通の毒にて八大蛇の力が抜ける。妃果梨はやっと八大蛇から解放された。
「許さない!妃果梨さんまで捕まえるなんて!!」
鬼気迫る破魔の剣は、八大蛇を退けた。
「ごめんなさい。役立たずで。」
謝る妃果梨に守常は声をかけつつ妃果梨の頭をなでた。
「陰の天子、無事だったのだから、気にするな。」
◆暁
妃果梨は、それから悩んだ。自分は、戦いにおいて何も出来ない。足手まといでしかないと。
むしろ、八小蛇に乗っ取られていた頃の方が、自分は戦えていたと。しかし、この考えは、自分の解放に力を尽くし、それ以降も見捨てることなく自分を受け入れてくれている亜香里、命士たち、そして、一朗太に背を向ける考えだ。必死にその考えを振り切った。
その上で、今の自分が出来ることを探した。そして、「自分ではない自分」が従者としていた暁を亜香里たちの邪魔をしないように説得する事と結論が出た。そして、再び暁が亜香里たちに接触してくるのを待った。
数日後、待ち望んだ暁の襲来を受ける。命士たちを筆頭に迷惑がっている6人を守るために暁に妃果梨は話しかけた。
「暁くん。少し、2人で話をしない?」
「妃果梨様、何ですか?」
暁は、妃果梨について行った。
「何で暁は、八大蛇が好きなの?それに、何で、亜香里さんたちを苛めるの?」
「俺をこけにした世間をぶっ壊したいんです!八小蛇様と八大蛇様は、俺のための神様です!その神様のお力の器だった妃果梨様も俺にとっては大事な人です!そんな神様たちを攻撃する天子たちは許せないんです!!」
暁は、熱のこもった説明をした。
「『こけ』って。」
妃果梨は、少し考えた。
「そうだったんだ。あの、そのね、亜香里さん、いえ、天子たちのことは私も憎いよ?八小蛇に乗っ取られてた私を容赦なく攻撃してきたあの時の恨み、かな?」
妃果梨の震える声が暁に届けられる。
「だったら何故あんな奴らの所に、仲間になってるんですか?」
「その、そのね、うんと、外から攻撃するんじゃなくて、いつも一緒にいて、油断した所を攻撃しようかと思って今の私があるの。えっと、えっとね、その、前、暁くん、いえ、暁を突き放しちゃったのはね?うんと、えっと、その、天子が、命士が見てたから本心を言えなくて、嘘ばっかり言っちゃったの。えっと、もし、暁がよければ、一緒に天子の所にいて、一緒にいつか攻撃しない?」
妃果梨の心臓はばくばく言っていた。それを聞いた暁は満面の笑みを浮かべ、こう返した。
「そうだったんですか!さすが!妃果梨様!この暁、お供します!!」
「よかった。その、天子たちに気づかれないようにしようね。だから、その、表向きは、私たちは天子のお手伝いをしなきゃならないけど、一緒に頑張ろうね。」
「はい!精一杯やります!」
「だったら、暁、天子たちに挨拶できる?」
「はい!最初の務めとしてやらせていただきます!!」
その足で暁は、亜香里たちに頭を下げに行った。傍らには妃果梨。
「天子と命士の皆さん、俺、間違ってました!その、妃果梨様から諭されて改心しました!妃果梨様と共にあなた方のお手伝いをさせていただきたいです!!」
「私の顔に免じて、暁を受け入れてくれないかな?亜香里さん、命士たち。」
「妃果梨さん、暁くんを説得してくれてたんだ!ありがとう。暁くんも私たちの元で動いてくれるって言ってくれてありがとう。」
亜香里は、妃果梨がとても頼もしく感じた。そして、新たな仲間、暁を心から歓迎した。
◆謝罪
後日、亜香里は個別に妃果梨に呼び出されていた。
「どうしたの?妃果梨さん?」
「黙っておきたかったけど、やっぱり嫌だから、言っておきたくて。暁くんのこと。」
亜香里は首をかしげた。
「ごめんなさい、私、暁くんを騙して仲間に入れたの。」
「暁くんは、騙されてる?」
「暁くんの中では、私、亜香里さんたちに復讐したい人にしちゃった。それで、暁くんは、私の手伝いをする人として仲間に入ったの。いつか、これがばれちゃったらひどいことになるかも知れない。」
「それは、私たちのためにしてくれたこと?」
「うん、そうだよ。」
「じゃあ、覚悟しておくよ。ありがとう。嘘までついてくれて。」
「私がここで出来ること、たくさんやるから。」
亜香里は、急に遠い目をし始めた。
「私の中に近ちゃんって女の子はいるけど、初めて女の子の仲間が出来た気分だよ。妃果梨さん、これから、頼りにしていいかな?」
妃果梨は、優しい笑顔でそれを受け入れた。
◆暴露
亜香里は限界だった。自らの体に巣食う痣様の模様の事を1人で抱えるのが。その模様に自らが初めて気づいた時の自分への誓いを破ることとした。
「妃果梨さん、変な物だけど、見てもらいたい物があるんだ。」
「どうしたの?」
「私ね、実は、この戦いで妃果梨さんと同じように体、壊れちゃったの。」
「えっ、それじゃ!休んでなきゃ!」
「これは、きっと休んでも治らないと思う。」
そうして、亜香里は一番ひどく模様が刻まれている胸元を妃果梨の目に晒した。
妃果梨は両手を口に押し当て、絶句した。
「本当は、誰にも言わないつもりだったんだけど、おんなじ女の子の妃果梨さんに甘えたくなっちゃって。ごめんなさい。気持ち悪かったよね。」
妃果梨は、気持ちを整理するために少し沈黙していたが、亜香里に声をかけた。
「謝らないで。亜香里さんの心の痛みを受け止めることも私が出来ることなんだね?初めて頼りにされて、嬉しいよ。苦しかったらまた、いつでも私を頼って?」
「ありがとう。妃果梨さん。」
◆再びの吸収
何度交戦したか、数えるのが億劫なくらい亜香里たちは八大蛇と戦った。そんな日常となりかけた八大蛇との戦いを繰り広げていたある日、亜香里たちは、八大蛇にあと一歩という所まで損傷を与えることが出来た。それは奇跡と言っても過言ではなかった。
「ぐぅ、力が、力が欲しい。」
八大蛇は呻いた。そんな八大蛇と目が合った人物が。暁だ。
「おお、我が従者よ、そなたの内の破壊の力を、我に寄越せ!!」
八大蛇は、右腕の蛇8本を暁に噛みつかせた。
「あああああ!!」
響く暁の悲鳴。八大蛇は、暁の身に残る八小蛇が注ぎ込んだ破壊の力を一片も残さずに吸収。それどころか、暁の生気まで奪おうとした。
亜香里たちは、戦闘の疲労をおして、再び暁救出の為に戦いを仕掛けるが、八大蛇は、暁から吸収した力を無駄に出来ないと暁を捨てて姿を消した。
「おい!しっかりしろ!!」
晃の大声に暁は、答えなかった。
◆妃果梨の後悔
暁は、あれから晃主導で処置を受け、その後救急搬送されたが、意識を取り戻せず、そのまま入院。後に、植物状態となる。
妃果梨は涙をこらえられなかった。懸念した暁の反乱は起きなかったが、その暁を自分が仲間に引き入れたことで八大蛇に深刻な状態まで攻撃されてしまった。
「私が、私が、暁くんを、植物状態にしちゃったんだ!何から何まで、私は、暁くんにとって『悪』だよ!!」
「辛いね、妃果梨さん。」
亜香里は、妃果梨の思いを受け止めることにした。痣状の模様の件を受け止めてくれた恩返しとして。
◆陰の天子の覚悟
「八小蛇が乗っ取っていたとはいえ、私が破壊行為をしていたのは、間違いないよね。だから、『破壊』は、私の仕事なの。八大蛇を破壊するのは、私にやらせて。」
「大変だよ、妃果梨さん。」
「その『大変なこと』をずっと亜香里さんはしていたでしょう?もう、解放されていいと思うよ。」
「そう、かな?」
「亜香里さんと同じ力を持って感じているの。『創造』の力もあるって。実はね、その力のおかげでここまで回復できたって思ってる。それに、きっとその『創造』の力で八小蛇から受けた私の傷は治ってる。だから、私に注いでくれたその力を返すよ。あなたの持つ『破壊』の力と引き換えに。そして、亜香里さんは八大蛇がいなくなった後、八大蛇からこの世界が受けた傷を治してあげて?」
「大丈夫?『破壊』の力はとっても痛いんだよ?」
「1回だけだから、頑張るよ。」
「じゃあ、お言葉に甘えるよ。」
亜香里は、妃果梨が暁を植物状態に追いやった八大蛇に復讐するつもりだと察した。あえてそれには触れず、後方から応援しようと思い、その足で命士に話を通した。
◆決戦
その日、亜香里たちは、八大蛇と相見えることが出来た。すると、命士たちは早速八大蛇を取り囲み、天子2人の元へと行かないように代わる代わる攻撃を仕掛けた。
それを受け、亜香里と妃果梨の力の交換が行われた。亜香里はそれが終わるとこう言った。
「命士たち!陰の天子の妃果梨さんを支えて!!」
命士たちは、陽の天子である亜香里の命を受け、先程よりも強く、全力で戦った。妃果梨の負担を考えると、「次の戦い」はないと判断した命士たちは、補戦玉にある力をすべて用いた命士奥義を全員が展開。八大蛇に再起不能の損傷を与えた。
妃果梨は、それを見届けた後、体中の激痛に耐え、自分の中にある『破壊』の力をすべて用いた「破魔の剣」を繰り出した。そして、八大蛇に突き刺した。
「我が、負けるだと?認めぬ、認めぬぞ!!」
八大蛇はそう叫んだ。そして、八大蛇すべての存在は滅した。
妃果梨は、自らの推測通り、力を失っても生き残ることができた。一方、命士たちの補戦玉は、すべて力を失ったため、粉々に砕け散った。
「後は、私の仕事だね。」
亜香里は、命士や妃果梨のように自らの中にある全ての『創造』の力を用いて今まで八大蛇から受けてきた世界の傷を治していく。その力は、植物状態になっていた暁の元にも届き、暁を奇跡の目覚めへと導いた。
そして、世界は救われた。
◆高校の校舎にて
2027年4月。亜香里は、高校3年生となった。一学期の始業式の為、入学式以来の高校に足を踏み入れる。慣れない教室に設けられた自らの席につき、見知らぬクラスメイト全員を見渡す。
すると、1人のクラスメイトが入室してくる。その姿に亜香里は声を上げた。
「妃果梨さん!」
「亜香里さん!」
妃果梨は、八大蛇との戦いに巻き込まれたため、留年してしまい、この度亜香里と同学年となった。2人とも、知り合いがいてよかったと声を掛け合い、その後に行われた始業式にクラスメイト同士として臨んだ。
更に約1年後、2人は自らたちの卒業式に出席。
「おめでとう!妃果梨!!」
「亜香里!おめでとう!!」
式が終わった後の高校の教室内では、卒業証書を持ちながら涙、涙で抱き合う2人の姿があった。




