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共通編

◆太古の記述

世界は、その時生まれた。歩みを始めたばかりの世界は、試行錯誤を繰り返した。創造と破壊を繰り返し、ある時、安定した世界が完成した。

それをもって破壊を司る神、八大蛇は、最高神天照より任を解かれる。

だが、八大蛇は神という立場にしがみついた。神力を保持し続け、破壊を止めず、自らも尽力し作り上げた安定した世界を壊していった。

事を重く見た天照は、弟神である読月、佐須と共に八大蛇の討伐に乗り出した。

八大蛇は、破壊と共に自らの力を高める為に様々な悪意を取り入れ大破壊をもたらす悪神と化していた。天照はその強大な邪気に気圧される事となった。

天照は、この事を自らの失政と悔い、全てを懸けて八大蛇と対峙。八大蛇は、妹神の八小蛇を引き連れ、こちらも天照一派に対峙。戦いは長きに渡って繰り広げられたが、最終決戦の際、力及ばず天照は八大蛇に敗北。その姿を消した。

一方、八大蛇と八小蛇も無傷では済まず、その傷は力の減退を引き起こし、長い間の雌伏の時を強いられた。

読月、佐須は姉神を消滅に追いやった責めを感じ、自害。

八大蛇の反乱は、ここで幕を下ろした。


◆千年前の記述

今より1,000年ほど前、八大蛇はその力を取り戻した。破壊神として再び君臨。

その対応のため、天照の力を汲む天子と呼ばれる少女、式彩と、読月、佐須の力を汲む命士と呼ばれる5人の男性が戦った。

そして、式彩は、天照の力を含め、自らの存在全てを懸け、八大蛇を封印。その際、3人の命士も命を落とした。

この封印は、持って1,000年と見積もられていて、生き残った2人の命士は、対応を検討、決定後実行された。


◆近代の記述

とある年、時の総理大臣が先導し、間近に迫る八大蛇復活への対応のため、極秘の法律を成立させた。

この法律成立の件は、国民に対しては混乱を招くとしてきつく箝口令が敷かれることとなった。

「治安変災再来対策法」は、このことに対応する者に対し、生活等の面ですべての便宜を図るもの。勿論、当時の国会議員の中には、眉唾物の伝承に、税金等をかけられないと反対する者も一部いたが、総理大臣の確固たる意志を受け、可決成立された。


◆肝だめし

時は2024年。日下部亜香里は、高校受験真っ只中の中学3年生。亜香里は夏休みに入り、少しだけ羽を伸ばして遊びたいと思っていた。そんな中、幼馴染の物部朝陽が自宅の神社で「肝だめし」をしようと誘ってきた。亜香里は恐怖が先に立ったが、楽しそうな雰囲気も感じ、その話に乗る。

朝陽の父が宮司を務める「大伴命前神社」の地下にて肝だめしは行われる。朝陽によるとなんでもそこにはミイラが安置されているとのこと。それを最近、朝陽は知り、遊びに使えないか考えていたとのこと。

亜香里は、ますます恐怖が煽られ怯えたが、ここまで来たのだ。とりあえず、耐えられる所までいて限界だったら逃げればいいと朝陽にしがみつきながら2人きりで神社の地下に侵入した。

すると、朝陽の話は本当で、時代を感じさせるが、綺麗な装束を着たミイラ1体と対面した。亜香里の恐怖は限界を迎えた。その時、体の芯が一瞬熱くなったような気がした。すると、ミイラの右手がピクリと動いたように見えた。それは、朝陽も同じで2人は悲鳴を上げながら地下から脱出。

騒ぎを聞いた朝陽の父、一朗太は慌てて2人の元に。朝陽は、父に事情を説明。一朗太は、顔を真っ赤にして怒った。


◆父の叱責

この肝だめしは、朝陽が誰にも許可を得ずやってしまったこと。その為、一朗太は烈火の如く朝陽を叱った。地下には御神体を祀ってあると小さい頃から言い聞かせてきた筈、無許可で御神体の元に行くとは言語道断だと言った。

朝陽は、それは耳がタコになるほど聞いた話だが、その正体までは教えてくれなくて気になったから見に行った。そうしたら、凄い物を見たので肝だめしをやりたくなったと言う。

一朗太は、子供の年齢である朝陽にはミイラを見せたくなかったとし、反対にもっと説明すべきだったとも自省の弁を述べた。亜香里がいることから怒りの矛先を収め、御神体であるミイラの状況を確認してくると言い、その場を後にしようとする。

亜香里は去り際の一朗太に謝罪。神社にとって大事なものを遊びで見てしまったと。

一朗太は、亜香里には罪はない、自分と朝陽の不手際で恐がらせたと謝罪し返し、地下室へ向かった。

朝陽は、そんな父の背中を見送りながら、亜香里に変な所を見せてしまったと後悔の念を吐露。

亜香里は、叱られた朝陽には悪いとは思うが、ちょっとだけ肝だめしは、楽しかった。この夏の一番の思い出になりそうだと笑った。


◆夏休みの最中

8月に入り、「大伴命前神社」では、夏の例大祭が開催された。亜香里は肝だめしの際は迷惑をかけたとお祭りの手伝いを買って出た。忙しい一朗太は、ありがたくそれを受け、祭りは盛況のうちに終了した。

宮司の一朗太は、祭りに関わった人々へ労いの言葉をかけてはいたが、どこか上の空だった。

亜香里は、それに気づき一朗太に声をかける。隣にいた朝陽もそれに続いた。

一朗太は、祭りの疲れを見せてしまったかと謝罪。しかし、朝陽はそれは嘘だと言う。何故なら、一朗太の様子がここ数日おかしかったと。

一朗太は、息子の一言に降参し、大いなる悩みがあると言った。

亜香里は自分で良ければ相談に乗りたいと申し出たが、一朗太はこの日はもう遅いと帰宅を促した。亜香里は、一朗太にはぐらかされてしまった。


◆終わった夏休み

亜香里と朝陽は二学期を迎えた。朝陽は、亜香里にあれから父の一朗太の様子が変わらないのでさすがに心配になってきたと言った。

亜香里は放課後、一朗太の所へ行っていいかと朝陽に言う。朝陽は歓迎した。

そして、亜香里は朝陽と共に一朗太の元へ行き、お祭りの時の話の続きをしたいと言った。

観念した一朗太は、心の内を話し始める。


◆来年

始めに一朗太は、朝陽に歴史の教科書を持ってくるように言った。朝陽は自室に行き、言われた通り教科書を一朗太に渡した。一朗太はそれをめくりながら年表に小さく書かれている「治安の変災」という項目を探し当てた。

一朗太は、これに関することで焦っていると言う。学校では4年間の間に起こった連続した災害としか習っていないその項目に亜香里と朝陽は首を傾げる。

一朗太は、その「治安の変災」は早くて来年の夏に再現されてしまうとのこと。この変災を引き起こしたのは、破壊神、八大蛇。「天子」と呼ばれた女性と「命士」と呼ばれた5人の男性が全力をかけて八大蛇を封印し、変災は終息させたのだが、その封印が見積り通りならば来年の夏に解けてしまうと言う。

そして、一朗太は、物部家は、「命士」の1人、物部定家の子孫だと言った。朝陽は驚いた。亜香里も目を丸くする。

物部家は、この事態に対応する任を先祖代々言い伝えられて来た。そして、この時点で成人している一朗太が来年復活を遂げるであろう八大蛇と戦う予定だと言う。

更に、一朗太1人で戦いを強いられる予定ではなく、過去から「命士」の1人、文室教宗が派遣されて来るらしいと言う話も聞いている。しかし、過去の人物がこの時代に現れるなどあり得ない話であり、いっこうに姿を現さない為、それは、偽りの情報だと断定している。その為、この先どのように対応すればいいかわからず悩んでいるとのこと。タイムリミットが1年後に迫る中、状況が膠着し、焦るばかりだと。

更に、御神体のことも一朗太は話し始める。あのミイラは、八大蛇を封印した際に命を落とした「命士」の1人、大伴守常の遺体だと言う。教宗の支援が受けられそうもないこの状況から守常の遺体より何かしらの力を得たいとも考えていると。

朝陽は、自分の名字が「物部」なのに神社の名前が「大伴」だったのはそういうことだったのかと言った。一朗太はそれに頷いた。

そして、一朗太の話は続いた。せめて、「天子」がこの時代にいれば心強いのだが、先代の「天子」の式彩は、八大蛇の封印時、遺体、力、魂全てが消えてしまったと聞き及んでいて奇跡は起こりそうもないと肩を落とす。

残りの「命士」の2人、小槻忠通や賀茂一之丞が八大蛇の封印時に生き残り、子孫を残すか、守常のように遺体を残してくれていれば良かったともため息混じりで弱音を吐く一朗太。

想像を遥かに越えた一朗太の悩みに亜香里も朝陽も助言が出来ず、その事で謝罪。

一朗太は、それでも話を聞いてくれただけで気が楽になったと2人に感謝した。そして、宮司としての仕事が残っていると一朗太はその場を後にした。

その背中を見送った朝陽はあんな弱気な父は見たことはないと呟いた。

亜香里は、大変な事に1人で立ち向かわなければならないようだから無理はないと返した。


◆息子の決意

9月も半ば、朝陽はいつもの通りに登校してきた亜香里にとある決意を伝える。それは、一朗太がやろうとしてることを手伝おうと思っているということ。亜香里は驚いたのと同時に、それなら自分もやりたいと申し出た。

再び放課後、一朗太を朝陽と共に訪ねた亜香里。2人は一朗太に手伝いを提案。一朗太は、子供には危険すぎると拒否したが、朝陽は、一朗太が数年前から腰を痛めていることを理由に八大蛇と戦えるとは思えないと言った。

一朗太は少し考えた。腰痛をおして対応するつもりだったが、もしかしたら、若い朝陽たちの方が何かを起こせるかもしれないと朝陽を「命士」にすることにした。そして、自分は全力でそれをバックアップすると。更に、一朗太は亜香里に息子のサポートを依頼。亜香里は快諾した。

一朗太は、それを受け先祖から代々伝わって来た命士の証、補戦玉と呼ばれる勾玉型の小さな紅色の石を朝陽に手渡した。


◆迷いの人

10月が始まった。朝陽は命士として、亜香里はそれを助ける者として特に何をするのでもなかったが、学校が休みの時でも会うようになった。

すると、時代絵巻から飛び出てきたような男性を見かける。2人は、はじめ何かの遊びだと思っていたが、一朗太が話していたことを思い出し、もしかしたら過去の命士でこの時代に派遣されるとされていた教宗なのかもしれないと思うようになった。

恐る恐る亜香里はその男性に声をかける。すると、考えは当たり、男性は教宗だった。

朝陽は、自分の補戦玉を見せつつ自己紹介する。

すると、教宗は黒色の補戦玉を見せ、この時代にたどり着いてすぐに定家の子孫と出会えるとはと感動した様子だった。

亜香里と朝陽は教宗を一朗太に会わせようと大伴命前神社へと案内した。

一朗太は、本当に教宗が来たことに驚いていたが、ようやく伝承の人と会えたことに感動もしていた。

そして、今の状況を教宗に説明をし始める。

教宗は、朝陽と共に八大蛇と対峙する決意を述べた。そして、朝陽に式彩の状況から、天子なしの戦いになる、覚悟をと言った。

朝陽は、よくわからないが、頑張ると宣言。

一朗太は、教宗に御神体である守常に対面するかと問う。教宗は、是非ともと言った。


◆蘇生

亜香里、朝陽、教宗と一朗太は神社の地下へと移動した。亜香里と朝陽は二度目の御神体との対面をした。御神体は、よく見ると胸の所で組んだ手の中に白色の補戦玉を持っていた。

教宗は、定家が約束通りに全てをやり遂げていたことに感動の意を述べつつ、ここまで守常を管理してきた一朗太と朝陽に感謝した。

少し罰の悪そうな雰囲気がありつつも朝陽は、命士の後輩として先輩である守常に挨拶をした。

そして、亜香里は守常に命と引き換えに平和な時間をくれたことへの感謝を告げた。

その時だった。再び亜香里の体の芯が熱くなった。「肝だめし」の時は気のせいかと思われる程一瞬だったのが、この時は収まることがなかった。亜香里は戸惑い、その事を朝陽と一朗太に訴えた。教宗含め、驚く一同。

すると、御神体も全身が小刻みに震え始めた。そして、ミイラ状態だった体は光を放ち、それが終わると血の通った肉体に変わった。その後、御神体は、目を開けた。

守常は、生き返った。その事は地下にいる全ての人を驚かせた。それは、守常自身も例外ではなく、頭を抱えて混乱。守常は、八大蛇封印時、自身が死んだ自覚があったからだ。しかし、命士仲間の教宗の姿を見て安心し、冷静さを取り戻した。

そして、見知らぬ3人がいたことから自己紹介をし、反対に3人から自己紹介を受ける。朝陽と一朗太が定家の子孫だとすぐわかり、かなりの時間自分が死んだ状態で眠っていたことを自覚。その事実を噛み締めながら、何故自分が生き返ったのか再び頭を抱えた。

それを受け、教宗は先程の光景を思い出し、亜香里が守常を生き返らせたと推測。亜香里に一体亜香里は何者なのかと問いを投げかけた。その問いに亜香里は、答えを持っていなかった。


◆命士3人

戸惑う亜香里。守常がもしかしたらこの時代に現れし天子なのかもしれないと言う。

亜香里は心当たりのないこと、朝陽のように式彩の子孫でもないし、教宗のように過去から来たわけでもなく、守常のように生き返ったわけでもない何の変哲もない生まれや境遇な自分がそんな立場なわけがないと全力をもって否定。

その場に妙な雰囲気が流れる。

その空気を察したのか朝陽が、よくわからないが、亜香里がさっき感じた体の熱さと守常が生き返ったのは偶然かもしれないと言いつつ、命士の先輩が2人に増えて心強いと話を反らした。

教宗も守常もそれに返して後輩である朝陽に期待していると言い、朝陽の言う「偶然」の説も捨てがたいと疑問の矛先を収めた。

その後、教宗と守常は、物部家の居候となり、また、大伴命前神社の権祢宜として働くことになった。


◆案内

それからすぐの事だった。朝陽は次の学校の休みの日に現代に来た教宗や生き返った守常に同じ命士として街を案内したいと亜香里に言った。

亜香里は、先日の天子扱いを思い出し、少し抵抗感があったが、朝陽のサポートを引き受けた手前、ついて行くことにした。

そして、迎えた土曜日。亜香里は神社へ。すると、現代に合わせた服を着た教宗と守常が朝陽と共に待っていた。亜香里は待たせたことを謝罪しつつも一朗太に見送られ、一行と共に周辺を散策し始めた。

教宗と守常は、高速で移動出来る自動車に驚いたりするなど、まるで子供のように様々な物に興味を示し、それに亜香里は朝陽と共に説明した。

街歩きが中盤に差し掛かった頃、守常は、綺麗な街並みを見渡しながら、この美しい街を八大蛇に破壊されたくないものだと呟く。そして、せめて守護結界を張ることができたならとため息をつく。

教宗は、それを聞き、それは天子と命士5人が揃わないと出来ないことで残念だ。命士3人のみの今の状況ではせいぜい復活した八大蛇を自分達の戦闘の力でねじ伏せるのが限界と返した。

亜香里は、再び「天子」という言葉が出た事から「天子」を探さないかと提案。すると、教宗は提案に感謝しつつも、天照の力も式彩の存在も全て消えた事から望み薄だとし、気持ちだけもらっておくと及び腰。

朝陽がやってみなければわからないことではと鼓舞する。2人は新たな命士2人と共にこの時代にいるかもしれない天子を八大蛇復活まで探そうと一転前向きになった。


◆反応

一行は、ひととおり街歩きが終わった事から帰ることに。来た道を戻るだけかと思われたが、教宗と守常はその最中、すれ違った男性を驚いた様子で振り返った。そして、2人は、声を揃えて「賀茂一之丞」と呟き、その男性を追いかけはじめた。

そして、その男性を囲み、教宗と守常は話し始めた。すると、その男性は困惑するばかり。賀茂一之丞という人物には心当たりはない、自分は堀晃という名前だと。

少しの時間それを遠目で見ていた亜香里と朝陽だったが、晃と名乗った男性がだいぶ困ってると察した事から教宗と守常を止めに行くことにした。

すると、教宗が所持していた黄色の補戦玉がひとりでに教宗の荷物から飛び出し、晃にまとわりついた。晃は虫を追い払うように補戦玉を拒んだが、それをもって教宗と守常は、4人目の命士と認め、共に来るよう強要。

そこに亜香里が割って入る。事情も知らない人に命士を強要するなんてどうかしていると。教宗は、補戦玉が反応した時点で命士とならざるを得ないのだと言い、守常もその補戦玉が晃を選んだのだから、一之丞に関連のある人物、これは避けられない運命と言う。

晃は、ますます困惑。朝陽はそんな晃に頭を下げながら、一度だけでもいいから話を聞いてくれないかと依頼。晃は、これだけの事をされたのだから、説明してもらおうかと立腹した様子。

とりあえず、一行は朝陽の自宅兼神社へ晃と共に帰ることに。

朝陽は、帰るなり一朗太に事情を説明。一朗太は、とにもかくにも晃の怒りを鎮める為にひととおりの説明をした。

晃は、新手の宗教みたいだと言いながら、どうしても命士が自分ならば、名前だけ貸す。自分は看護師として働いていて忙しい、実際には動かないと言い、未だにまとわりつく補戦玉と共に帰宅していった。


◆集わざるをえない命士

補戦玉がうっとうしくてたまらない晃は、返還を試みるために大伴命前神社に定期的に通うことになってしまった。神社の境内に補戦玉を置いては追いかけられ置いては追いかけられを繰り返す晃。そこには、教宗と守常、朝陽がいる。晃はある日観念し正式に命士になることを渋々了承した。

すると、あれだけしつこかった補戦玉が、晃の手中で落ち着くように収まった。


◆凄惨な現場から

11月も終盤に差し掛かった頃だった。晃が神社に行く途中、神社の程近くで飛び降り自殺を目撃。状況から1人では対応出来そうもないと協力する人を探したが、人通りがなく、不本意ながら教宗か守常の力を借りようと神社へ走った。

依頼を受けた2人は共に現場へ急行した。そして、晃主導で行われた的確な処置の後、飛び降りた男性を救急車に引き渡すことが出来た。


◆青

それからまもなくの事だった。

12月に入ったとある日曜日、「天子」と残りの「命士」1人を探そうと神社に亜香里、朝陽、教宗、守常、晃の5人が集まっていた。

すると、1人の男性が母親を伴って神社を訪ねて来た。亜香里と朝陽は首を傾げたが、教宗、守常、晃は明るい表情を見せた。

その男性の母親は、ここの神社の人に自殺未遂をした息子を助けてもらったと、感謝したいと言った。

男性は、助けてほしいなんて頼んでなかったと言いながら、口先だけの感謝を述べた。そして、ふらふらとその輪から離れて行った。

この男性の名前は母親によると、五十嵐光輝という。

光輝の母親は、息子にあまり遠くに行くなと言いつつも、悩みを聞いてほしいと依頼。5人は聞くことに。

光輝は駆け出しの美容師ではあったが、何かがあってすぐに解雇されてしまい、それを苦に自殺を図ったとのこと。その後、晃たちに病院に運んでもらい、医師も驚く程に回復が早かったため、数日後には退院出来たとの事。晃はそれは良かったとしたが、母親の顔は曇るばかり。退院した直後に、光輝が二重人格になってしまったことに気づいた。息子に何か取り憑いたのではと思い、ここは神社なのでお祓いをお願いしたいと。

朝陽は、一朗太に相談をと父を呼びに行った。一朗太が到着。光輝の母親の相談を聞いてると、光輝が戻って来る。

しかし、先程とは様子が違った。しっかりとした足取りで自己紹介をしていない筈の教宗と守常の名を呼んだ。呼ばれた2人は驚き、とある気配に身震いした。そして、2人は、口々に忠通か、小槻忠通なのかと問う。そして、光輝の口からそれを肯定する言葉が出た。

そして、教宗が管理していた最後の青色の補戦玉が忠通を名乗る光輝の元へゆっくり近づき、その手中に収められた。


◆揃う命士

忠通は、光輝の母親に、事情がありこの体を借りることとしたと伝えた。光輝の母親は、混乱、動揺し、息子の体を貸したくはないと抵抗。

しかし、忠通は、先の自殺未遂により、光輝の魂は今不安定なため、自分がこの体にいないと光輝は命を落とすと言った。母親は、そんな、と一言言ったが最終的には息子の命を優先するとし、許可を出した。そして、大事な話があるようだからと光輝を残し、帰宅した。

それにより、命士が5人揃い、忠通との情報交換が始まった。それにより、急遽「天子」探しは中止された。

忠通は、先の八大蛇封印後、意志のもった魂として悠久の時を過ごしたという。そして、傍らには意志が消えた虚ろな一之丞の魂もあった。

その一之丞の魂は、25年程前に生まれ変わりを果たしたという。それが晃だと言った。晃は驚いた。

それを模倣し、生まれ変わりを試したが、意志の残る自分では生まれ変わりが不可能だった。

しかし、この度、瀕死の光輝を発見し、その体に入る事が出来たとの事。

一朗太は、こんな形で命士が揃うとは想像もしてなかったと、命士5人を見渡した。

すると、苦しそうな亜香里の姿を見る。一朗太は亜香里の元へ。亜香里は、再び体の芯が熱いと訴えた。そして、命士5人の持つ補戦玉もほのかな熱を持ち、光を放ち始めた。


◆天子降臨

亜香里の体の熱は、全身に行き渡った。苦しさで亜香里は悲鳴を上げた。それが終わると、口が勝手に動きはじめた。

「我には、名前はまだない。しかし、命士よ、よく集まってくれた。」

亜香里は、勝手に動く口からの言葉を自分の耳で聞く。内心戸惑う。そんな思いを無視し、口は止まらない。

「我は、この娘に力を与え、この娘を天子とする。命士よ、我についてくるのだ。」

教宗や守常は、やはり亜香里が天子だったのかと言った。

亜香里はそれを聞き、口を勝手に動かす力に必死で抵抗しつつ、自分の言葉を紡いだ。

「やめて!私、こわい!天子になりたくない!!」

そして、亜香里は逃げるように帰宅して行ってしまった。


◆困惑の命士

残された5人と一朗太。

「亜香里。」

朝陽は呟いた。

「なんだあいつ。」

晃は眉間に皺を寄せ吐き捨てた。

「なんと言う事だ。」

教宗は動揺したように言う。

「天子はこの戦いで必要なお人なのに。」

守常は力なく言った。

「確かにそうなのかもしれないですが。」

忠通は遠い目で見る。

「僕が亜香里ちゃんを説得してこよう。」

一朗太が言い、単独で亜香里を追いかけた。


◆失敗の説得

日下部家を訪ねる一朗太。亜香里の両親がそれに応対した。

亜香里も既に帰宅していて、渋々一朗太と顔を合わせる。

一朗太は、事情を説明する。それに両親は高校受験が迫っている亜香里に危険そうで訳のわからない事をさせないでほしいと声を荒らげる。亜香里は、その両親の言葉に安心した。

一朗太は、朝陽も同じ状況であり、気持ちはわからないでもないが、それよりもこの先起こる大破壊からこの地を守りたいと訴えた。更に、1,000年前の事を重く見ている政府は、極秘で天子や命士を優遇する法律、「治安変災再来対策法」を既に成立させている。それに亜香里は守られるだろうと続けた。そして、この件に関わっている者として全力で亜香里をサポートすると約束した。

それでも、恐怖を拭えない亜香里は首を縦に振らず、交渉は決裂した。


◆亜香里の恐怖

一朗太は帰宅し、命士5人に失敗した説得の事を謝罪。その規模の大小はあれど、命士5人は、肩を落とした。

一方、亜香里は、自室にて震えていた。

何度か聞かされた式彩の消滅。その事態がこの先の自分に振りかかることが約束されたという底無しの恐怖が亜香里の心を支配していた。

すると、脳内に女児の声が響き渡る。亜香里は、頭を抱える。

「天子を拒否するか、そなたは。」

「だって、こわいんだもの。それに、あなたは誰なの?」

「我には名前はないが、あったとしても天子を拒む者に名乗る名前はない。だが、これだけは伝えておこう。我はそなたが命としてこの世に存在するようになったと同時にそなたの内にいた。」

「嘘!嘘でしょ?だって、あなたの事ずっと知らないでここまで来たんだもの!」

「それは、そうであろうな。決戦の時に向け、力を温存するため、揃った命士の気配を合図に目覚めることとしてそなたの内で深い眠りに就いておったのだから。まあ、死んだ守常の気配を感じて蘇生させた時は一時目を覚ましたがな。」

亜香里は鳥肌が立った。

「この先、そなたの体を乗っ取り、我が天子として降臨する手もあるが、そこまで我は堕ちてはおらぬ。揃った命士には悪いが、八大蛇とは5人のみで戦ってもらうこととする。我はそなたの一部、出ていくことは叶わぬ。しかし、力を使えぬとあれば、我はそなたが朽ちて行くまで再び眠りに就く他あるまい。驚かせてしまったな。すまぬ。再びそなたと話すことはないであろう。ではな。そなたは、そなたとして生きろ。」

その言葉を最後に、脳内の女児の声は治まった。亜香里は戸惑いながらも、この先戦う事はないと安心感も抱いた。


◆怒りの説得

亜香里が天子を拒否している中ではあったが、過去から来た命士3人は、なんとしてでも亜香里を天子に据えようと話し合いを始めた。

そこに晃が怒りをもって介入した。

「なんでお前らは、そうなんだ!いやいやながらやる天子ってやつがいいのかよ?それで、お前らの望む働きをアイツが出来るって思ってんのか?」

3人は、その言葉にも一理あると晃に謝罪。晃は腹立たしいとして、その場を後にした。

後日、晃は心を閉ざす亜香里の元へ訪ねてきた。

亜香里は、あまり話したことがなかった晃との会話にどうしていいかわからず、一方的に話を受け止める形になった。

「あのよ、お前は、天子から逃げられるかもしれないけどよ、俺はこの補戦玉のせいで命士から逃げられないんだぜ。羨ましい限りだ。他の命士の奴らは、戦い方知ってるだろうからいいだろうけど、俺は知らねぇ。真っ先に八大蛇とか言う奴に殺されるんだろうな。でも、乗り掛かった舟だ、俺はやる。逃げたお前と違ってな。」

晃の話の重さに亜香里は返す言葉を失った。

「教宗の奴と守常の奴の2人に絡まれた俺を庇ってくれたお前は、どこ行っちまったんだ?」

晃は、更に続け、亜香里が返答出来ないと判断し一方的に鬱憤を晴らすために話しをしたと言いつつ、帰路に就いた。


◆身を焦がす後悔と決心

晃の言葉は、強制的に亜香里の心の中で反芻された。

そうだ、自分は逃げた卑怯者なのだ。頭の中で繰り返される晃の言い分にその都度反論してみたが、次第に自分の小ささが突きつけられていく。

朝陽は、体が万全でない父親の代わりに命士となった。

教宗は、過去から来てまで命士としての任を全うしようとしている。

守常は、自分の内なる力で強制的に起こされた後、動揺しただろうが、すぐに命士として動いていた。

晃は、聞いた通り、命の危険を感じながらも命士として生きようとしている。

光輝と忠通、2人とはまだ話をしてない。しかし、想像だが、きっと2人も命士としての覚悟を決めている筈。

その人々と比べてただ「こわい」という理由から逃げた自分は、本当に小さい。その事実がとても悔しかった。

その悔しさから逃れるためには、天子をやる他、道はないような気がしてきた。その考えを抱く自分すら汚いと感じたが、亜香里は決心した。庇ってくれた両親には悪いとは思うが、天子を引き受けると。

そして、日を改め、両親にその事を伝えた。予想通り、反対された。そんな両親を説得する術を亜香里は持っておらず、自らの感情のまま、身ひとつで家出をした。


◆現代の天子

その足で大伴命前神社へと向かった亜香里。一朗太、朝陽、教宗、守常は急な亜香里の来訪に驚いた。そして、亜香里は命士全員に話がしたいと言った。それを受け、一朗太は、晃や忠通に連絡を取る。

そして、集まった命士と一朗太の前で、亜香里はこう言った。

「天子の事は、ずっと他人事だったから、関われた。でも、いざ私が天子と知って、こわくてこわくて仕方なかった。だから逃げちゃったんです。ごめんなさい。ずるいですよね。そんな私でよければ、天子をやります。」

教宗と守常、光輝の体を借りている忠通は、それに明るい表情で頷いた。朝陽と晃は、心配そうだったが、亜香里の決断を後押ししようとこちらも頷いた。

5人の命士が亜香里の宣言を受け入れたことから、亜香里は改めて覚悟を決めた。胸の前に右手を握りしめ、こう言った。

「眠ってしまって聞こえないかな?私の中の女の子さん。私、天子やるよ。起きて、私に力を貸して。」

すると、再び亜香里の体の芯から熱さが襲って来る。それはあの時のように全身に行き渡る。

亜香里は表情を歪めながらも悲鳴を上げる事なく、必死に耐えた。

すると、ほのかな光に亜香里は包まれた。同時に体の苦しみは無くなる。そして、再びあの時のように、命士5人の持つ補戦玉もほのかな熱を持ち、光を発し始める。それは、5本の光線となって亜香里に向かって集結した。

その後、補戦玉は、それぞれの命士の右手の指に指輪が如く縛り付けられ固定された。忠通の魂を受け入れている光輝の薬指、朝陽の中指、晃の人差し指、守常の親指、教宗の小指は補戦玉の居場所となった。

それが終わると、あの時のように亜香里の口が勝手に動く。亜香里はそれを受け入れ、身の内の力の源となる女児の話を聞く。

「我は、日下部亜香里を天子として認める。そして、木の命士、小槻忠通ならびに忠通に身を貸与しておる五十嵐光輝。火の命士、物部朝陽。土の命士、堀晃。金の命士、大伴守常。水の命士、文室教宗。天子亜香里に誠心誠意支えよ。」

教宗、守常、忠通は、「御意」と声を揃える。朝陽、晃はそれに続いて頭を下げた。


◆天子と命士

天子と命士は、天子を主とし、力の契りで結ばれた主従関係となる。

それに関連して、忠通があることを尋ねた。

「ところで、今回の『筆頭命士』は、誰にしますか?」

それに首を傾げる朝陽。

「ひっとう?」

晃がそれに返す。

「命士のリーダーみたいなもんだろうな。俺はそこまではやらねぇぜ。」

それを聞いた守常は、こう続けた。

「ここは、命士経験者がやるべきだろうな。と言うことだ、教宗、引き続き筆頭命士を。」

少し眉間に皺を寄せつつ、教宗がそれを受諾。

「今回は、最年長の守常にやってもらいたかったのだが、仕方がない、私がやろう。」

その話が終わると、亜香里は命士に挨拶した。

「朝陽、教宗さん、守常さん、晃さん、忠通さん、そして、眠ってるのかな?光輝さん、よろしくお願いします。」

それを聞いた教宗はこう返した。

「僭越ながら申し上げる。これより我々のことは敬うことはない、天子。我々は天子の下に位置する者。それを考慮の上、態度を改めてもらいたい。」

亜香里は、戸惑ったが、こう返した。

「そうなんだ。わかった。そういうしきたりなんだね。言ってくれてありがとう。」

それを聞き届けると、教宗は命士に向き合いこう言った。

「守常と忠通はわかっているとは思うが、朝陽と晃に伝えるために改めて言う。これより、天子となった日下部亜香里様を『天子』と呼ぶように。忠通は、手数だが、光輝にこのことを伝えろ。」

「わかりました。教宗。」


◆法律適用

現代の天子と命士が揃った事から「治安変災再来対策法」を管轄する秘密省庁、「変災対策庁」にて6人は法律適用のための届出を行うことに。一朗太はそれに立ち会った。

その結果、6人に必要な支援等が決まる。

亜香里と朝陽には、学校に通わずとも卒業の資格を与えるということが決定。

晃は、休職することになり、その期間の給与と同等の報酬が国から支払われることになった。

職を失っている光輝には、通常の失業保険より手厚い保障が約束された。

教宗と守常には、特例の住民登録がなされた。

そして、家出をしてしまった亜香里には、国が借り上げたアパートの一室が宛がわれ、1人で暮らす為の支援をするとの決定がなされた。


◆守護結界

対策法の適用を受けたとはいえ、まだ八大蛇の封印はとけていない現在の状況で出来ることと言えば、「守護結界」を張ること。

その結界の張り方を教宗が説明する。その説明を受け、亜香里は、この日初めて守護結界を張る儀式に臨んだ。晃は、自分の立ち位置に戸惑った様子を見せていたが、とにかくやってみることにした。

まずは、命士5人がその地を清める。

中央に晃、北方に教宗、南方に朝陽、東方に忠通、西方に守常が立ち、補佐神、読月の力を使用し、「地脈浄化」を展開。地中の穢れを引き出し、命士それぞれの補戦玉と同じ色の光をもってこれを滅する。

「地脈浄化」が完了すると、命士5人はそこから一時撤退。その後、天子亜香里の出番が来る。

清められた場所に足を踏み入れ、「結界発現」を展開。亜香里は、命士5人が清めた大地を力に導かれ毅然としながらも優しく、たおやかに舞う。

亜香里が舞っている間、命士はその周りを囲むように大きな輪を作り、移動しながら天子を見守りつつ、命士も力に導かれ歌い出す。

「打ち壊す力に抗う強さ我ら与えん天子と共に。」

短い節を数回繰り返す歌は、ゆったりした穏やかなものだったが、それは、確実に厳かな歌だった。

すると、大地に荘厳な紋様が浮かび上がり、刻み込まれる。天子はその中央に立ち、空から現れた神聖なる剣を大地に刺す。それをもって儀式は終了した。

この紋様と剣は、力を持つ者しか見たり感じたり出来ないようだが、これを多く作ることで大地に破壊されない強さを与えることが出来るとのこと。点と点は結ばれ、線を成し、線と線は繋がり、強固な領域を成す。また、その領域は重なることで、何事にも揺るがない大地を生み出す。そんな「守護結界」をこれから作っていくことになる。

1つ目の結界を張れたことに亜香里の内の女児は評価の声を亜香里の脳内で響かせた。

すると、亜香里はその女児にとある提案をする。

「ねぇ、私の中の女の子。名前がないって言ってたよね?私もきっと命士たちも不便だから名前、付けていいかな?」

「我に、名前を?」

「うん、私の近くにずっといたから、『近』ちゃんって呼びたいな。」

「『近』、我の名前。嬉しいぞ。亜香里、これからは我をそう呼べ。」

それを受け、亜香里は命士にその事を伝えた。命士はそれを了承した。


◆高校受験と実態のない入学

2025年3月。亜香里、朝陽は共に高校受験に臨み見事合格を果たす。しかし、誰にも訴えることはなかったが、2人の心には虚無感が漂っていた。

そして、4月。亜香里は高校の入学式を迎えた。

高校の体育館には、同級生や上級生、教職員や同級生の保護者たち、多くの人々が集結していた。それを見渡しながら亜香里は、夏が来ればこの人々のために自分は戦わなければならないと心で呟いた。

そして、極秘法律の下、この同級生たちとは明日から時を共に過ごせない事実を噛み締めた。

そう、明日からは再び守護結界を各地に張りに行かねばならない。しかし、それは別の高校に入学した朝陽も同じだと、自分1人が辛いのではないと心に言い聞かせた。


◆学習の確約

入学式の翌日、亜香里に教宗が話しかけてきた。

「天子、私がいた時代では天子の年齢は成人と認められていたが、この時代ではまだ学ばなければならない年齢だったのか。」

「そうだよ。だけど、私は天子になったからそれもしばらくお休みだけどね。」

「私は、私塾の塾長を務めていた。守護結界を張る合間に天子の勉学の力添えをしたいと思っている。」

「へ?教宗の時代とこの時代の勉強って違うと思うけど、大丈夫なの?」

「私も共に学ぶ形で手助けをしたいと思っている。」

「それじゃあ、朝陽と一緒に勉強に付き合ってもらえるかな?」

「承る。」

亜香里は、朝陽を呼び、教宗が先生となって高校の勉強を手伝ってくれると言った。

「ええー?俺もいいの?」

「勿論だ。」

教宗は亜香里と朝陽の教師となった。


◆警備

それから間もない日の朝だった。亜香里はアパートの自室からいつものように外出しようとした。

しかし、外に出た瞬間、守常がそこに立っていた。

「守常?何か用事?」

と、亜香里は声をかけた。

「1人で暮らしている天子が心配になってな。勝手ながら今日からここの警備をしようかと思っている。」

「ありがとう。でも、いつからそこに?」

「昨日の晩だ。」

「一晩中、ここにいたの?」

「そうだ。」

「やだ、知らない人が見たら不審者だよ。」

「不審、なのか?検非違使だった者として、天子を護衛をしたいのだが。」

「け、検非違使?あ、あの、警察みたいなものだったけ?」

「よくは知らないが、そうだ。」

「そうなの。でも、こっちの警察にお世話にならないようにしてね。」

「心得た。」

そして、守常はその後、アパートの管理人の許可を得て亜香里の自室の前に夜間立ち続けた。


◆自殺の真相

光輝は、忠通の魂から慰めの言葉や力そのものを受け、自らの魂に力が戻って来た。忠通の魂を受け入れることにし、不安定ではあるものの、忠通の魂が眠りに就いている時に少しずつ表に出て来て天子や命士たちと交流することが増えてきた。

それを受け、亜香里は話しづらいとは思ったが、何故自殺しようと思い至ったのか尋ねることにした。そして、光輝はその問いにこう答えた。

「僕ね、役立たずって言われて、美容師に採用されて半年で辞めさせられたんだ。」

「やっぱり、大変な事だったんだね。」

「小さな頃から憧れてた美容師なのに、半年で要らないって言われちゃって、自暴自棄になってた。だから、あの時死のうとしたんだ。」

「光輝のどこがだめだったんだろう?」

「わからないよ。わかれば直せるんだけど。突然の解雇だったから。」

「単純に考えたら、腕がない?」

「そうかもね。最速で免許は取ったんだけど。」

「よかったら、私の髪、練習台に使っていいよ?」

「本当に?じゃあ、早速やらせてもらおうかな。」

そして、光輝は亜香里に簡単なヘアアレンジをし始めた。すると、とてもかわいらしく仕上がり、亜香里は気持ちが高まった。

「こんなに素敵にしてもらったことない!光輝、凄い!!」

「褒めてくれてありがとう。」

そして、それ以降も光輝の「練習台」に亜香里はなり続けた。


◆治癒

その日、亜香里は、連日の守護結界展開儀式の疲労から、足がもつれ、転んでしまった。命士一同慌てたが、派手に擦りむいた膝を見て、晃が駆け寄った。

「おい、大丈夫かよ?天子。」

「ん、痛い。」

「ちょっと待ってろ。」

晃は、荷物の中から必要な道具を取り出し、亜香里の怪我に適切な処置をしていった。

「ありがとう、晃。」

「休職中だからな、看護の腕が鈍らないようにしただけだ。礼なんて要らねぇよ。」


◆一時の癒し

亜香里の膝の怪我を心配した忠通。亜香里に声をかけてきた。

「天子、お怪我は大丈夫ですか。」

「えっと、大丈夫だよ。晃に絆創膏貼ってもらったから。」

「そう、ならばいいのですが。」

「痛いのは変わらないけどね。」

「ああ、それは心苦しい。」

「心配してくれてありがとう。」

「天子、その、よろしいですか?」

忠通はそう言うと、自信なさげにこう続けた。

「私の歌で、痛みを紛らわせることが出来るかわかりませんが、試しに聴いていただけませんか?」

亜香里は、それを受け入れた。そして、忠通は古風だが、優しく穏やかな旋律を光輝ののどから生み出していく。亜香里は、聴いたことのないその歌に驚きながらも心惹かれるものがあり、聴き惚れた。

「おお、まさか忠通の歌がまた聴けるとは。」

教宗は感動した。守常も続けた。

「1,000年を越えても、忠通の歌は一級品だな。」

亜香里はその歌に包まれ痛みを忘れ、いつの間にか眠ってしまった。


◆幼馴染

気づけば、亜香里が天子を引き受けて数ヶ月が経とうとしていた。この頃になると朝陽はさびしさを覚え、日々苦しい思いをしていた。

つい半年くらい前までは、亜香里とは普通の幼馴染、普通のクラスメイトとして付き合ってきた。しかし、自分は今では天子に支える命士。亜香里と明確な上下関係を突きつけられている。父の一朗太のため命士を引き受けた時には想像もしてなかった事態に戸惑っていたのだ。

「な、なぁ、あ、天子。」

「どうしたの?朝陽。」

「いや、なんでもない。」

亜香里は首を一旦傾げたが、会話を続ける。

「呼んだのに何もないっておかしいよ。」

「いや、その、本当になんでもない。」

「なんだか久しぶりに朝陽と2人で話出来そうなのに、なんでもないで終わっちゃうのさびしいよ。」

朝陽は少し沈黙したが、再び口を開いた。

「あ、あのさ、その、俺、天子ってお前を呼ぶの辛い。」

亜香里は、一瞬かなしげな目になり、その朝陽の言葉にこう返した。

「私も、だよ。朝陽に天子って呼ばれるの、辛いよ。自分のことってわかってるけど、朝陽が他の人を呼んでるみたい。」

うなだれる朝陽。そんな朝陽に亜香里は話し続けた。

「だから、誰もいない2人だけの時は、名前で呼んで?」

そんな亜香里からの提案に朝陽は周囲を見回し、

「あ、亜香里。」

と呟いた。

「やっぱりそっちの方がしっくりくる!」

一転明るくなる亜香里の表情。そして、こう続けた。

「なんだかお互い辛いみたいだけど、それでも朝陽が命士でよかった。だって朝陽がいなかったら話し慣れてない男の人5人とずっといなきゃならなかったんだもんね。これからもよろしくね。朝陽。」

「おう!」

朝陽の顔にも明かりが灯った。


◆過去の天子と命士の伝承

「打ち壊す力に抗う強さ我が与えん命士と共に。」

亜香里は、守護結界の儀式で命士が歌う歌がすっかり頭に残り、自分の立場に置き換えた替え歌を静かに歌った。命士たちは微笑んだ。

忠通がとても心地よい歌だとし、式彩は、そのようなことはしなかったと過去を回想。

式彩という言葉に、一朗太は、自らの先祖である定家がどのような人物だったのか知りたいと思っていたと尋ねた。

いい機会だとし、教宗、守常、忠通は代わる代わる過去の戦いを説明した。

まずは、天子の話からとし、式彩の事から話し始めた。式彩は、忌み子として産まれ、人々から蔑まれていた幼少期を過ごしたと聞いている。天照の力に選ばれた後は、やっと自分の居場所を作れたと天子として日々傷つきながら戦うようになったと言った。そのため、責任感が強くなり、その結果すべてをかけて八大蛇を封印することになったと言う。

一朗太から尋ねられた定家の件に話は移る。定家は、命士になる前は何者でもなかった。今の朝陽のように命士の中で最年少で共に戦う命士仲間ではあったが、同時に守りたい存在でもあった。八大蛇封印後は、生き残った命士として、守常の遺体を御神体として取り扱い、神社を創建し伝承の任を引き受けてくれたと教宗。

そして、晃の転生元となった一之丞の話もし始める。一之丞は、武器商人で快活な人物であった。検非違使であった守常は、命士になる前からの顔見知りであったため命士として選ばれた際はお互い驚いたと。しかし、八大蛇封印の際は、式彩に次ぐ大きな犠牲を払ったと3人は一様にさびしがった。しかし、晃という存在に転生し、再び会うことが出来て喜ばしいとも言った。


◆壊される結界

6月を間近に控えた頃だった。各地に守護結界を張っていった亜香里たちだが、その守護結界にほころびが感じられたのだ。原因を探ろうとまずはほころんでしまった守護結界が近くにあったため付近を調査することに。

すると、守護結界を張った所に亜香里や朝陽と同じ位の年頃の男女一組が立っていた。

そして、その男女の足元を見ると、刺した筈の神聖なる剣が地面に無造作に投げ捨てられていて、荘厳な守護結界が見るも無惨な状況になっていた。

守常が、

「何者だ!」

と怒鳴るように問いただすと、

「俺の主に名を名乗らせる手間かけさせんのか、お前らは。俺は、不破暁。壊主、観月妃果梨様の従者だ。」

と、男が言った。

「良くできました。暁。」

と、妃果梨と紹介された女が拍手しながら続ける。それを受け、亜香里が

「なんで?なんでこんなことをするの?」

と問うと、妃果梨は、

「守護結界なんていう目障りなものを消してるだけよ。」

と、答えた。

「これは、これから壊されちゃうかもしれないこの大地を守るためのものなの!目障りって、そんな!!」

「天子は、目障りなものを作るだけじゃなく、耳障りな存在でもあるんだな!消えろ!!」

暁が邪悪な力を浴びせかけた。守常がとっさに前に立ち、亜香里は難を逃れた。

その間に妃果梨と暁は姿を消してしまった。


◆予期せぬ戦いの開始

戦いを始めるのは、早くて1、2ヶ月後に予想される八大蛇復活を受けての事だと誰もが思っていた。

しかし、結界を壊す存在が確認された以上、結界が破壊されないよう守備的な戦いを始めねばならない。

それは、近からも直々に命じられた。

「今の状況でも結界は不足しておると言うのに、これ以上壊されてはならない。天子、命士よ、戦いを始めるのだ。」

それを受けて、戦いを始めた亜香里たち。

妃果梨と暁は、邪悪な力を展開したり、禍々しい武器を使って亜香里達を排除しようとする。

それに対抗する亜香里と命士。

命士たちは、肉弾戦を繰り広げたり、「命士奥義」と呼ばれるその命士特有の技を使用したりした。

朝陽は、「炎周渦」という炎の渦を発生させ取り囲む技で敵の身動きを封じた。

教宗は、「雨状剣」という雨が敵の付近に到達すると水でできた剣に変化する技で敵を傷つけた。

守常は、「切硬矢」という矢型の硬い金属を放つ技で敵を傷つけた。

晃は、「斬爪砂」という砂が爪のような刃に変化する技で敵を傷つけた。

忠通は、「毒花嵐」という花を空中に咲かせそこから毒のある花粉を振り落とす技で敵の動きを鈍らせた。

そんな命士の「命士奥義」で弱らせた敵を亜香里は、ほのかな光を放つ剣、「破魔の剣」を使い敵を戦闘不能に追い込む。

この戦いで、破壊される結界が最小限で済むことになった。

しかし、この戦いには、ひとつ大きな問題があった。亜香里が戦いの力を使うと体に痛みが走る。やがて、痣のような模様が体に出来はじめ、それは、戦うたびに全身に徐々に広がり、またその色を濃くしていった。

亜香里は、それを誰にも明かさずひたすら耐えながら結界を守るため、日々命士を引き連れ妃果梨と暁の2人と対峙した。


◆筆頭命士の叱責から

とある日、教宗は忠通に筆頭命士として戦い方に注文をつけていた。

「忠通、お前の戦いは、そんなものではなかった筈だ。気が抜けているような戦いだ。八大蛇相手ではない今はこれで通用しているようなものだが、八大蛇が復活した後は、この戦い方では厳しいぞ。」

それを聞いていた守常も忠通に話をし始める。

「教宗の言うとおりだ。命士となって間もない朝陽や晃とは違う、私達と4年の間、戦ってきたのが忠通だろう?私の目からは、朝陽や晃と同等の戦い方としか見えない。このままでは、天子の足手まといになる。」

その言葉に朝陽が反応した。

「え?俺より戦えてると思うけど?俺の目がおかしいのかな?」

忠通は、伏し目がちに、

「朝陽、庇っていただいてありがとうございます。ですが、教宗や守常の言うことは間違いありません。責められて当然です。申し開きの言葉もありません。」

と言った。

「ちょっと待ってよ、2人とも。忠通、いいかな?」

その話に割って入る亜香里。

「何でしょう?」

「初めて私達が会った時、私、近ちゃんの力で苦しかったけど、忠通の話は覚えてる。忠通は、1,000年前の戦いから魂になって、1,000年ずっとそのままで時間過ごしたんだよね?」

「その通りです。」

「1,000年も戦うことがなくて、こんな事言うのは光輝には悪いと思うけど、死んじゃいそうだった体を借りてる忠通が、昔のように戦えなかったからって言って責めらるのは、当然の話なの?教宗?それに、守常?」

亜香里がそう言うと、尋ねられた2人より先に晃がこう呟く。

「確かにな。」

それを受け、教宗は、

「天子、もっともな言葉。出過ぎた叱責を撤回する。」

続けて守常も、

「言い過ぎてしまった。すまない。」

「教宗、守常、反省したなら、いいよ。忠通、今は無理でも、いつか強かった頃の戦いを私に見せてね。」

「はい、天子。この恩、忘れません。精一杯精進します。」


◆悪夢の復活と

8月も半ばのその日。正午頃、昼間だと言うのに全国的に「夜」が訪れた。皆既日食等の予報はなく、人々は一様に動揺した。

「昼間の夜」は、1時間もしないで解消されたが、天子と命士は、身を潰されるような邪気を感じていた。

「ねぇ、教宗、守常、忠通。これが、八大蛇なの?」

亜香里は呟いた。3人は頷いた。

「行こう。八大蛇の所へ。」

それを受け、亜香里は立ち上がり、邪気が来る方角に命士を引き連れ、歩を進めた。

すると、大男の姿を目にする。教宗、守常、忠通は苦々しい表情を浮かべ、朝陽、晃は身震いした。

「八大蛇。」

亜香里もあまりの邪気に言葉を失いそうになったが、振り絞るようにして、一言呟いた。

振り返ったその大男は、右腕が7匹の蛇だった。

「命士、か。そして、そのおなごは、天子か。」

「そうだよ。私は天子、日下部亜香里!」

「天照、式彩、日下部亜香里。いつの時代も目障りなおなごがいるものだな。そして、読月、佐須、命士共もな。だが、我は構わぬ。此度も勝利するだけだ。」

そう話していると、暁を伴った妃果梨が駆けつけてきた。妃果梨は八大蛇の前で暁と共に跪きこう言った。

「破壊神、八大蛇様、お初にお目にかかります。壊主、観月妃果梨と申します。こちらは、従者の不破暁。我々は、あなた様の復活を心よりお祝い申し上げます。」

八大蛇は、気色の悪い笑みを浮かべ、妃果梨にこう返した。

「変わった趣向を凝らしておるのだな。この時代の者を乗っ取るとは。面白い。面白いが、芝居はよせ、我が妹、八小蛇。」

そう言われた妃果梨は、立ち上がり、八大蛇に抱きついた。

「お褒めの言葉、嬉しいですぞ!兄上!!」

そのやり取りを聞いた亜香里は、驚きを隠せない様子でこう言った。

「八小蛇?八大蛇には、妹がいたの?え、乗っ取るって。じゃあ、本当の観月妃果梨さんは?どうなってるの?」

妃果梨の体を乗っ取っている八小蛇は、兄である八大蛇から離れ、亜香里に向き合う。

「生きておるよ。この体は。しかし、我が離れればたちまち死を迎えるがな!そんな体に我が仕立て上げたのだ!!あはは!あはは!!」

「そんな!」

知らなかったとはいえ、妃果梨を討とうとしていた亜香里は、乗っ取られているだけで罪のない妃果梨を殺害してしまったかもしれないと戦慄が走った。

そんな亜香里に八大蛇は、初めての攻撃を加えてきた。亜香里は動揺している最中ではあったが、命士と共に立ち向かった。

無傷では済まなかった八大蛇は、力の回復を得るため、妃果梨の体を持った八小蛇と暁を伴って撤退していった。


◆分離、新たな力。

妃果梨の事実を知った亜香里は、妃果梨を助けたいと思うようになった。

そして、命士たちや近に相談。その結果、妃果梨から八小蛇を分離することが決定。また、妃果梨の体の中の八小蛇の抜けた箇所に亜香里の力を注ぎ込めば命を落とすことはないだろうと推測されることからそれも実行することが決まった。

亜香里の天子としての力が低下する大きな副作用がある作戦だったが、誰もがそれを避けるために妃果梨を見捨てる道を取らなかった。

ある日、八小蛇を誘き寄せるため、守護結界を張る儀式を執り行った。

すると、八小蛇はその気配を察知し、亜香里たちの元に襲来。

ひととおり戦闘を繰り広げた後、亜香里は、八小蛇に尋ねた。

「何であなたは妃果梨さんの体を使ってこんなことするの?」

「兄上のお務めを阻害する守護結界など、我は認められなかった!それ故、破壊する事にした!だが、我は我として結界に近づけなかった。それ故、この娘、観月妃果梨を媒介として使うこととしたのだ!これからも我はこの娘を使い、守護結界を破壊する!」

「させないよ。八小蛇。今、ここであなたと妃果梨さんを分離する!!」

「忘れたのか?我がいないとこの娘は命を落とすのだということを!!」

すると、妃果梨自身の言葉が初めて妃果梨の口から発せられた。

「私は、ここで死んでもいい!解放されたい!八小蛇から!!」

「死なせはしないよ!妃果梨さん!命士たち、力を貸して!!」

その言葉を受け、命士は補佐神、読月の力を展開。天子の思いのままに力よ赴けと。

「読月の力よ!観月妃果梨さんから八小蛇を分離させて!」

それを阻止しようと、暁が立ちはだかるが、命士たちがそれを引き剥がし、また、暁を取り囲み身動きを取らせないようにした。

「妃果梨様!!」

暁は叫んだ。

「嫌じゃ!我にはこの体が必要じゃ!!」

その八小蛇の叫びが響く中、妃果梨から邪気を感じる存在が出てきた。それと同時に亜香里は間髪入れずに自らの力を注ぎ込んだ。これにより妃果梨は命を落とすことなく、八小蛇から逃れることが出来た。

分離した八小蛇は、右腕が蛇1匹の女だった。

「口惜しい。こうなっては仕方あるまい!我は、兄上と共にこの世を破壊することとする!!従者よ、我につけ!!」

そう言うと、八小蛇は、暁に右腕の蛇を絡ませ連行しつつ姿を消した。

一方、妃果梨は命は助かったものの、八小蛇の影響は計り知れなく亜香里たちに感謝の言葉をを言いつつ気絶した。

「妃果梨さん!しっかりして!!」

晃が駆け寄り、妃果梨の様子を診る。

「力とかのことはよくわかんねぇけど、大丈夫だ。安心しろ、天子。」


◆2人の天子

妃果梨は、一朗太が一時保護することになった。

一方、力の低下を自ら引き起こした亜香里も命士からの提案により、雲隠れすることになった。そして、一朗太の元で力の回復を試みることになった。

図らずとも近の力を持つ者が2人大伴命前神社に集結した。

「妃果梨さん、色々事情を知らなくて、たくさん攻撃してしまって、ごめんなさい。」

「大丈夫。八小蛇から私を救ってくれた人を責めないよ。」

「ありがとう。」

少しの沈黙が流れた後、亜香里は口を再び開く。

「ところで、暁くんっていう男の子はどんな人なの?」

妃果梨は首を横に振りながら答えた。

「実の所、よくわからないわ。私ね、バス停でバスを待っている間に八小蛇が私の体を乗っ取ったの。その時、知らない高校生が隣にいたんだけど、八小蛇が従者としたいって言って、力を与えたんだ。それが暁くんなの。私の隣にいたばっかりにこんなことに巻き込んじゃって、後悔してる。」

「そうだったんだ。話してくれてありがとう。でも、妃果梨さんは悪くないよ。妃果梨さんが八小蛇を呼んだわけじゃないんだから。」

「そうだね。ありがとう。」

そう言うと、妃果梨は体調不良を訴え、設けられている自分の寝床へと行ってしまった。

一朗太は、心配そうに見送りながら少し困った顔をした。

「天子の力を持つ子が2人になってしまったね。どうしたものか。」

すると、近が亜香里の口を借り、話をし始める。

「我はここにおる。あの娘の所にはおらぬ。だから、亜香里が天子には変わりない。しかし、力を持つ者を持たざる者と同一視はできぬな。」

沈黙が流れる。そうした後、一朗太は何かをひらめいた。

「亜香里ちゃんは、『陽の天子』、妃果梨ちゃんは、『陰の天子』ってどうだい?」

その提案は、亜香里と近に受け入れられた。そして、後日妃果梨や命士にも伝えられた。


◆命士だけの時間

命士と力の低下している天子が共にいることで天子の場所を知られ、危険にさらされないよう命士たちは亜香里を信頼する一朗太に任せ、あえて亜香里から距離を置くことにした。

ただ、何かあった場合は全員で急行するため、通常は四六時中共にいることにした。

それにより、一人暮らしの晃や、両親と共に暮らす光輝の自宅は、命士たちの詰所になった。

そんな中、朝陽が不安を口にした。

「なぁ、こんな事をしてる間に八大蛇が動き出しそうでなんだか俺、不安だよ。」

「僕も、そう思うよ。」

それに、光輝が反応する。その話に懐かしそうに守常が話に加わる。

「そうやって、心細くしている所、定家に重なるな。」

「そうなのか?俺の先祖もそうしてたのか?」

「そうだ。」

守常が朝陽の問いに答えると、教宗がとある説明をし始める。

「天子と我々の戦いで八大蛇が受ける損傷は、一時的な破壊の力の減退を引き起こすんだ。」

「そうなのか。でも、よくわかるな。」

朝陽がまだ不安そうにそう返すと、教宗はこう続けた。

「警戒を怠らない姿勢は評価しよう。だが、心配するな。計算上では、力の回復をするために八大蛇は雲隠れしている期間だ。」

朝陽の不安は、その言葉で取り除かれた。そんな中、晃がそれに疑問を投げかけた。

「それって誰の計算?」

「私が計算した。」

教宗がそれに答えた。

「へぇ、リーダーも大変だな。何でもやらせるわけにもいかねぇな。その『計算』とやらを俺に教えろよ。患者のバイタルチェックの応用で俺、出来そうな気がする。」

「『バイタルチェック』というものは知らないが、やってもらえるのなら、引き受けてもらいたい。」

「やるぜ。」

そして、教宗は、その「計算」のやり方を晃に引き継ぐ。

「だいたいわかった。」

「なら、これから頼んだ。」

教宗は、そう言うと、先程の守常のように懐かしそうな顔をした、そして、こう言った。

「一之丞も、そうやって『計算』を引き受けてくれたな。商人だから、金勘定のようなものは任せろと言ってくれたんだ。」

「そうかよ。けど、俺は、一之丞って奴じゃない。そいつのように上手くいかねぇかもよ?」

「最初はそれでもいい。引き受けてもらえただけで嬉しいのだからな。」


◆八大蛇の破壊

八大蛇は、妃果梨の体ではない八小蛇と再会する。その後、十分な力の回復を得たのを確認。妹が連れてきた従者、暁の存在を得て本格的な破壊行為を開始。

その日、広範囲の豪雨が降っているさなか、大地震が日本を襲った。その影響からか、崖崩れや、竜巻まで発生した。幸い、守護結界が展開されている範囲は被害がなく、無事な所が多かったが、それから外れた所は著しい被害を被った。

その被害を受けた場所のひとつが、亜香里と朝陽が通っていた中学校だった。

消防の消火活動が全く通用しない激しい火災に見舞われたとのこと。それにより崩壊してしまった母校の惨状を亜香里と朝陽は目の当たりにし、守護結界を十分に張れなかった責任を痛感。せめての罪滅ぼしに八大蛇一派と対峙していく決意を新たにした。


◆急行

そして、亜香里達は、八大蛇一派を探し、戦いを仕掛けた。そこで、守常は激昂した。

「八大蛇!はじめから『濁流』、『地震え』、『森崩し』、『巻き風』、『火炎』の全ての『災い』をこの地に見舞わせるとは、どういう了見だ!!」

八大蛇は高笑いをし始める。そんな中、忠通が言う。

「落ち着いてください、守常。しかし、お気持ちはわかります。全力で行きましょう。」

その忠通の話が終わると同時に八大蛇の笑いは収まる。

「この時代に暮らす者共に、挨拶をして何が悪いというのだ?我の姿は常人では見れぬ物!では、我の全てを見せて、我の存在を知らしめてやる他道はないであろう?」

「もっともな意見じゃ!兄上!!」

教宗は、そんな八小蛇を受け流し、八大蛇に一言返した。

「これより、そのような行為はさせない!」

「同感だ。ふざけやがって。人の『命』を消す『挨拶』なんて、俺は認めねぇからな!」

そう晃が声を張り上げた。それに朝陽は続いた。

「俺と、天子の『母校』を返せ!八大蛇!!」

そんな命士と八大蛇の言い争いを聞きながら、亜香里は八大蛇に釘付けになっていた。禍々しい物ではあるが、命士の使う5つの力と同じ「力」が八大蛇の周りに見える。八大蛇が復活した時には見れなかった物だった。亜香里は、あの時の自分は、余裕がなかったと自覚した。

そして、亜香里は気を引き締めるため、声を大にして命士に呼び掛けた。

「みんな!戦い、はじめるよ!!」

命士は、声を揃えて「御意」と言った。

そして、命士5人は、八大蛇や八小蛇、暁に代わる代わる肉弾戦を仕掛ける。

そうしていると、亜香里は八大蛇の周りの「火」の力が膨らんでいるのを感じた。「火」は、「金」を溶かしてしまうと考えた亜香里は叫んだ。

「守常!下がって!!『火』が来るよ!!」

「心得た!天子!!」

間髪入れずに「火」は「水」で消せると考え、守常の言葉を聞きながら引き続き叫んだ。

「教宗!『水』を!八大蛇に!!」

「承知した!!」

教宗は、自らの命士奥義を展開。それを受けた八大蛇。

「ぐぬぬ。やはり、天子は厄介だな。そして、命士共も!!」

それを聞き、亜香里は痛みに耐えつつ、破魔の剣を繰り出す。

「八大蛇!とどめだよ!!」

八大蛇に破魔の剣を突き刺した。

「ぐうっ!何だ!この、力、は。」

八大蛇は、倒れた。

「兄上!!」

八小蛇は、暁と共に八大蛇を抱えながら撤退していった。


◆避難所

一方、世間では、八大蛇の破壊行為は、災害として認識された。周辺の人々への避難が自治体から呼び掛けられ、各地に大規模な避難所が設けられた。

天子と命士たちは、その避難所に害があってはならないと、警戒のため点在する避難所を生活の拠点としながら日替わりで巡回することにした。

すると、その日亜香里がいた避難所に亜香里の両親が避難してくる。そして、亜香里は意図せず両親と再会。実に1年ぶりであった。

「亜香里!全く今までどこにいたんだ!!」

父親が怒鳴るように言い、

「家に戻って来なさい!危ないから、亜香里。」

母親も強めの声色でこう言った。

亜香里は、今、ここで両親の元に戻れば痛みの伴う戦いをもうしなくて済むと一瞬甘えたくはなったが、それを振り切った。両親の所へ戻ることは、世界を見捨てることと思ったからだ。

「心配、ありがとう。でも、戻らない。戻れない。私のことは忘れて。」

亜香里はそう言うと駆け出した。両親を振り切るため。身柄も未練も。

そんな様子を見ていた命士。その中で朝陽と晃が動いた。

まず、朝陽が亜香里の両親に話しかける。

「おじさん、おばさん、ごめん。亜香里は今、戦わなきゃならないんだ。」

晃がそれに続く。

「娘さんは、私達が支えることになっています。全力で支えるつもりですから、心苦しいとは思いますが、受け入れていただければと思います。」

両親は、仕方ないとしつつも、亜香里に何かあったら責任をとってもらうと、特に晃を睨み付けるように見つめながら言った後、その場を後にした。晃は、朝陽を見つつ肩を軽くすくめた。

一方、亜香里は必死にかなしみを抑えようとしていた。そこに、教宗、守常、忠通が来る。3人は、亜香里を心配し、声をかけようとしていたが、亜香里はそれより先に3人にこう宣言した。

「教宗、守常、忠通。私、戦いが終わるまで、命士たちを家族って思うことにする。そうすれば、私、戦える。いいよね?」

亜香里からの思いもよらない言葉に3人は驚く。そうしているうちに、朝陽と晃が合流。妙な雰囲気を察した晃が忠通に状況を尋ねる。そして、朝陽と共に亜香里の決意を知った。2人も驚くが、朝陽が亜香里に声をかける。

「ちっさい頃から一緒だったもんな!俺と天子は家族みたいなものだよ!その俺の仲間も実質家族みたいなものだ!なぁ、みんな、俺に続いてくれよ!」

他の命士4人は、頷いた。


◆親

「亜香里も親と決別、か。」

近が亜香里の頭の中で話しかけてきた。

「この戦いが終わるまでの間ね。そう言うってことは、近ちゃんも親とお別れしたの?」

「母は死んで、父はおそらく我を知らぬ。」

「そんな。でも、お父さんは生きているのね。」

「そう、我の最大の敵、八大蛇だがな。」

「えっ!」

「すまぬ、今まで話そうと思っておったのだが、なかなか機会がなくての。そなたの親を見たこの時を我の出自を明かす時とした。話を聞いてくれるか。」

「うん。」

「我は、八大蛇を父とし、天照を母としてこの世に生を受けた。しかし、母、天照は、我を身籠ったまま、父、八大蛇に討たれてその命を散らした。そして、我は産まれ出ること叶わず空の塵と化した。なに、心配には及ばない。八大蛇は母の仇でもあり、我自身の仇。我は、我が父、八大蛇を討ちたいのじゃ。心置きなく我の力を使い、八大蛇をこの世界より完全に消滅させよ。」

亜香里は、その事実と近の決意に心が震える。そして、その事を命士たちにも伝えた。命士たちは一様に驚くこととなった。


◆賭けられる情

亜香里は、思い切って近の存在を八大蛇に知らせ、親としての八大蛇の心に賭けることにした。娘がいると知れば、世界の破壊を思いとどまってくれるのではないかと。

「八大蛇!あなたには産まれなかったけど、天照がお母さんの娘がいるの!私の力の源として、私のここにいる!」

亜香里は、自らの胸を強く叩きながら叫んだ。その亜香里の言葉に、八大蛇はこう言った。

「ほう、その娘とやらに伝えることがある。」

「それならば、直接話せるよ。」

やはり、父としての心があるのかと思い、亜香里は近に口を貸した。

「お初にお目にかかる。父上、我は近と申す。天子、日下部亜香里より命名された。」

「どうやら、偽りではなさそうだな。それはそうと、あの時、天照の力の減退を狙って送り込んだ子種は、おなごとなっておったのか。目論み通り、そなたは天照の力を弱めてくれたわ。ようやった!我が娘よ!!だが、そなたの役目はそこで終わりぞ。天照を討った時、そなたは、天照と共に塵となって消えたのであろうな。それなら、そのままで良かったものを。我が娘、近よ!今、ここで存在を滅せよ!!」

亜香里の賭けは、負け博打で終わった。八大蛇から攻撃が加えられる。亜香里は、近を守るため撤退した。

「八大蛇があんなにひどい人だとは思わなかった。聞きたくない言葉もあったよね。近ちゃん、ごめんね。私がこんなことをしたばっかりに。」

「構わぬ。役に立たなかった我からも謝ろう。すまぬな。亜香里。そして、我を守るための撤退に感謝する。」

その後も、亜香里たちは八大蛇一行と何度も対峙していくこととなる。


◆吸収

亜香里たちは、その日、八大蛇、八小蛇、暁と戦闘を繰り広げていた。もはや、この光景は、「日常」であった。

すると、八小蛇が各陣営の中央に立ちはだかった。

「それ以上の兄上への攻撃は、我と我の従者が全て受ける!」

「そんなわけにはいかないよ!この世界にとって見逃しておけない八大蛇を討つための戦いなんだから!!」

亜香里の言葉に命士たちは力強く頷いた。

「兄上は、世界でも稀に見る優しい神ぞ!今はそなたらが兄上を討とうとしておるから、そなたらには悪しき神と見えるのだ!我が幼き頃は、兄上は我を愛してくれた!だから、我も兄上を愛するのだ!!我の愛する兄上をこれ以上傷つけるでない!!」

その八小蛇の言葉をきっかけに、兄神と妹神の会話が亜香里達の目の前で繰り広げられる。

「おお、八小蛇、よき言葉よ。その愛をもって、我の言いつけ通り1,000年以上かけ力を蓄え、また、天子らの結界を破るためにこの時代の者を乗っ取ってまで働いたのか。褒めてつかわす。」

「兄上!この八小蛇、嬉しい限りじゃ!!」

「だが、もうよい。そなたの任は、ここまでだ。」

「え?」

「八小蛇、そなたは、我が妹ではない。我が右腕の一部であった。天照との戦いで落とされたそれを読月、佐須に対抗するため、『妹』として仕立て上げ、我が僕としたのだ。そなたの幼き頃の記憶は偽りぞ。我に従順にさせるためのな。ははは、大いなる力を手に入れた今こそそなたは我に戻る時。我が内なる力となれ!八小蛇ぁ!!」

衝撃の事実への動揺と消滅への恐怖に怯え始めた八小蛇に八大蛇は右腕の7本の蛇を伸ばし、7つの口で噛み付かせた。悲鳴を上げる八小蛇。しかし、その声も長く続かなかった。

「兄上。」

と言うか細い声を残し、一瞬と言っても過言ではない時間で八小蛇は絶命。右腕としていた蛇1匹を残して消えた。八大蛇は、その蛇を呼び寄せるように右腕に合流させた。8本の蛇を右腕とした八大蛇は、より凶悪になった邪悪な神気を爆発させた。

その衝撃で暁は亜香里達の所まで吹っ飛ばされ、気絶した。

「ひ弱な従者であったか。その従者はもう要らぬ。これより我のみでこの世を破壊する!」

そう言いながら、八大蛇は暁を捨ててその場から消えた。亜香里達は、追いかけようにも追いかけられなかった。


「色を選べ。選ぶも選ばぬも自由じゃがな。」

「私は。」

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