第五話 生の刹那
主人公:御影 優花。34歳。末期がん患者。
ここは…?
真っ白な部屋にいるみたい。
すると、頭の中に声が流れてくる。
『ようこそ、Fatalルームへ。ここであなたは生か死かを選ばなくてはいけません。この先にいるのが先人たち、後ろには現世。どちらの声に耳を傾けるかはあなた次第です。道を選ぶのもあなたです。ここにいる間、現世でも同じように時間が流れています。限られた時間ではありますが、その猶予の中であなたが後悔しない選択をできますように。では。』
…。
私、どうしてここに。
もうそろそろ…「迎え」が来るはず。
あ、お父さん、お母さん。
2人とも微笑んでいるけど、なんだかまだ、『こっちに来てはいけない』と言われているような気がする。
『戻ってきてくれ』
兄さん?
後ろには兄さんの声。
はっ。
残り時間は…?!
そこにはタイマーがあった。
『34:00』
ああ、私、タイムリミットが近づいている。
お父さん、お母さん、私、最後に兄さんに伝えたいの。
少しの間、『あっち』に戻っていい?
2人はうなづく。
でも…
『時が来たら、私たちはあなたを迎えに行く。それまでの少しの間よ。』
うん…。
行ってきます。
目が覚めた。
兄さんは疲れたのか椅子に座ったまま寝ていた。
「兄さん。颯兄さん。」
兄さん。
「あ…!優花…!目を覚ましたんだな。ごめんな寝ていて。」
「大丈夫。ねぇ、兄さん。」
「ん?なんだ?」
「今まで、ありがとう。」
「え…。なんで、そんな悲しいこと言うんだよ。まだ優花は生きているだろ?これからだって…」
「もう時が近いの。さっき、お母さんたちに会った。もう私の寿命は…」
「そんなこと言わないでくれ!きっと大丈夫だ。今までだってそうやって乗り切ってきただろ?母さんたちだってまだきっと生きていて欲しいに決まってる。」
「颯兄さん…。兄さんはもう大丈夫でしょ?だから…」
「…。優花、もう時間はないのか?俺に、できることはないのか?」
「兄さん…。今まで、本当に、ありがとう。」
『もう時間よ。』
お母さん、お父さん…。
『私、もういくね。』
ピ―ッ!
お母さん、お父さん…。
私、お兄ちゃんを置いてきちゃった。
兄さん、大丈夫かな。
『大丈夫よ。もう颯も強くなったから。』
そう、だよね。
兄さん、私たちの分も生きてね。
あれから5年か_____。
俺は優花を亡くしてから、家に引きこもっていた。
家族はもういない。
そんなときに出会ったのが今の妻だ。
俺たちは幸せな家庭を築いた。
今日は優花の命日。
お墓参りに来ていた。
「颯さん。」
「ああ、行こう。」
突如、強い風が吹く。
「もう大丈夫ね、兄さん。」
え…?
「ん?どうしたの、颯さん。」
「いや…なんでもない。行こう。」
優花…。見ているのか?俺はもう大丈夫だ。だから、安らかに眠ってくれ。
『良かった。』
『これで安心だね。』
『ねえ、お父さん。お母さん。』
『そうだな』
『そうね』
私たちは空に飛び立った。