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私たちは場所を商会長室へと移した。こうして本部に来るのは久しぶりである。商会長室はケビンが手入れしているのだろう。しっかりと整理整頓がされておりとても仕事がやりやすそうだ。
ケビンに淹れてもらったお茶を飲みながら改めて久しぶりの再会を喜んだ。
「こうして会うのは三年ぶりだな」
「そうね。手紙ではやり取りしていたけど実際に会うのは久しぶりね」
侯爵邸にいた時も会おうと思えば会えたのだが、白い結婚で確実に離婚したかったので不貞を疑われるような行動はしないように気をつけていたのだ。まぁ元旦那様なら気づかなかっただろうが。
「ヴィーもずいぶんと大人になったな」
「ふふっ、それはそうでしょう。私もう二十歳よ?それにそういうリオも見ないうちに一段と男前になったわね。それなのにまだ独身なのでしょう?一体何人の女性を泣かせてきたんだか」
「…そんなことはしてないさ。俺は一途な男なんだぞ」
「それならどうして結婚しないのよ。おばさんも心配しているんじゃない?それにリオは今人気の商会の商会長よ?一途に想い続けているお相手だってリオなら喜んで受け入れてくれるんじゃないの?」
リオの本名はリオンハルト・グレイル。グレイル公爵家の次男だ。
私の母親とリオの母親が親友で幼い頃はよく遊んでいた。私にとってリオは二つ年上の頼れる兄の様な存在だ。両親が亡くなった後は交流がなくなってしまったが、この商会を立ち上げる際に協力してもらえないかとお願いの手紙を出すと、快く引き受けてくれたのだ。
「…世の中そんなにうまくいかないんだよ」
「?まぁ私も離婚したての身だからあまり人に言えたことではないわね。でも結婚するときはちゃんと教えてね?盛大にお祝いするから」
「その時がくればな…」
「あ、それと見ない顔の従業員がいたけどもしかして新しく採用した人?」
「ああそうだ。ヴィーが前に手紙で書いてきただろう?新しく店で雇う従業員にはちゃんと教育してから店に立たせろって。あの従業員は来週から本店で勤務予定だ」
「そうなのね。それなら来週までにお客様の前では走らないようにってしっかり教えてね。これから貴族向けの商品をいくつも出していくつもりだから、貴族を相手にする想定で教育してあげて」
「分かった。ケビン頼むな」
「かしこまりました」
それからは今後のことを話し合い、終わる頃にはもう外は暗くなり始めていた。
「じゃあ今日はここまでにしましょうか」
「これでようやく本格始動だな」
「ええ。今まで以上に稼いで稼いで稼ぐわよ!」
「本当にヴィーはお金が好きだな」
「そりゃそうよ。だってお金は裏切らないもの。それにあって困るものでもないしね」
「まぁヴィーらしいな」
「でしょ?…さて、今日はどこか宿を取らないとね。それに明日からは住むところも探さないと…」
「あ、そういえば言ってなかったな。ヴィーの住むところはもう用意してあるぞ」
「えっ、本当?」
「ああ。事前に連絡をもらっていたんだからそれくらい準備してあるさ」
「さすがリオね。助かったわ。それじゃあ案内してくれる?」
「分かった。じゃあ馬車に乗ってくれ」
私は言われるがままリオの手を借りて馬車に乗った。私の後にリオ、ノーラ、ケビンも馬車に乗り込む。そして馬車に揺られること十数分…
「…ねぇ、リオ。ここってグレイル公爵家よね…?」
「ああ、覚えていたんだな」
「こんな立派なお屋敷忘れるはずないでしょ。…ってそうじゃなくて!どうしてここに連れてきたの?なにか忘れ物でも取りに?」
「ここが今日からヴィーの住むところだ」
「はい?何を言って…」
「ヴァイオレットちゃん!」
「わっ!」