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「本日はお招きいただきありがとうございます」
私たちが挨拶をする順番はずいぶんと早くやってきた。もっと待つものかと思っていたが、よく考えてみればリオはグレイル公爵家の人間だ。上位貴族から挨拶することを考えればすぐに順番がやってくるのは当然のことだった。
先にリオが挨拶をする。いくら王妃様からの招待であったとしても、平民の私は発言の許しが出るまで待たなければならない。
「ヴァイオレット、久しぶりね」
王妃様からお声がかかったので私は挨拶をする。
「お久しぶりでございます。本日はお招きいただきありがとうございます」
「今日はあなたに会えるのを楽しみにしていたわ」
「私も王妃陛下にお会いできて光栄です」
「あの日は色んな話を聞くことができて楽しかったわ」
(早速あの日の話題ね。それじゃあ始めましょうか!)
「私もです。実は先日の会話を参考に新しい商品を開発したのですが、そちらを本日お持ちしております。よろしければご覧いただけますか?」
「まぁ!ぜひともお願いしたいわ」
「ありがとうございます。今ご用意いたしますね。…ケビン!」
「はい」
やはり王妃様は期待していたようだ。王妃様とお会いした後、すぐに開発を始めておいてよかった。
私は後ろに控えていたケビンに声をかけ準備を始める。準備したものは口紅と布、そして献上する新商品だ。
「うふふ、何が始まるのかしら」
王妃様は楽しそうにしている。
「ではご覧ください」
そう言って私は自分の手の甲に準備した口紅を塗りたくった。
「まぁ!」
――ザワザワ
王妃様の驚きの声と共に周りにいる貴族もざわつき始めた。それもそうだろう。私は口紅をこれでもかと手の甲に塗りたくったのだから。こんなに塗ってしまえば落とすのにかなりの時間がかかるし肌への負担もかかる。男性はよく分かっていないようだが、女性はこの後の大変さを想像して顔をしかめている人がいるくらいだ。しかし何も問題もない。私は次の作業へと移ることにした。
「こうして肌についた口紅はなかなか落ちないですよね。女性はこれを落とす大変さをよくご理解いただけると思います」
「ええ、とてもよく分かるわ」
「ありがとうございます。これをお湯と布で落とすとなるとかなりの時間がかかり、また肌への負担が大きく肌が荒れる原因となります。しかし化粧をしたら落とさねばなりません。化粧を落とさないのも肌が荒れる原因になりますからね」
「落としても落とさなくても肌が荒れるのよね…。ではどうすればいいのかしら?あなたはその答えをお持ちなのでしょう?」
「はい」
私は準備された物の中にあった箱を手に取り蓋を開けた。すると箱の中から出てきたのは液体の入った小瓶だ。私はその小瓶を王妃様によく見えるように掲げた。
「こちらは今回私が開発した『クレンジングオイル』になります。これを使えば簡単に化粧を落とすことができるのです。それではご覧ください」
小瓶の蓋を開け、中に入っていたクレンジングオイルを口紅を塗った手の甲に適量垂らした。そしてそれをクルクルと軽く指で馴染ませていく。
「そして、こうして布で拭き取ると…」
「まぁ!あんなに口紅がついていたはずなのにきれいに落ちているわ…!」
――ザワザワ
王妃様の発言に再び会場がざわついた。ここは会場が落ち着くのを待った方がいいだろう。私はそのまま何も言葉を発さないで待つことにする。そして少し待って会場が落ち着いてくると王妃様から声がかかった。
「…素晴らしいわ!これはベル商会で販売する予定なのかしら?」
「はい。その予定でございます。しかしこの『クレンジングオイル』は王妃陛下のお言葉がなければ生まれることはなかったでしょう。ですのでこちらの商品をお気に召していただけたのであれば、王妃陛下には今後無償でご提供したいと思っております」
「とても気に入ったわ。私との会話からこのような画期的な商品を作り出すなんて、さすがベル商会のオーナーね」
「ありがとうございます。本日こちらを献上させていただければと思います」
そう言って私はクレンジングオイルの小瓶が三本入った箱を王妃様へと掲げた。
「ありがとう。受け取らせてもらうわ」
王妃様の侍女が私から箱を受け取り下がっていった。
「ヴァイオレット、今後も楽しみにしているわ」
「ご期待に添えるよう尽力いたします」
「ええ。この後も楽しんでいってちょうだいね」
「ありがとうございます」
私とリオは国王様と王妃様に礼をし、その場を後にしたのだった。