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何か用事があるのか離れにリオがやってきた。問題はまだ解決していないが、リオをそのまま待たせるわけにもいかないので中に入ってもらう。
「王妃様に献上する商品ができたって聞いて来たんだけど…ってそんな深刻そうな顔してどうしたんだ?」
「リオ…」
「リオンハルト様、いつものあれです」
「ああ、あれか」
「ええ」
「…」
リオにはまだ事情を話していないのに、ノーラの言う『あれ』という言葉だけで理解したようだ。解せぬ。
「…それでリオ、何か用事でもあるの?私は今それどころじゃなくて…」
「分かっているさ。だからこれを受け取ってくれ」
「…なんだかこの光景に見覚えがあるわ。ということは、これってもしかして…」
たしか私がここに住み始めた頃に同じようなことがあった。その時にもらったドレスと靴は今でも大切に保管している。
「開けてみて」
リオに促され渡された箱を開けてみる。やはり箱の中身はドレスと靴であった。
「…素敵」
私の好きな色である青のグラデーションのドレスだ。首もとの色は淡く裾に向かうにつれて濃い青になっている。靴は一見白いシンプルなものだが、よく見るとキラキラ輝いている。どうやらダイヤモンドが埋め込まれているようだ。
「ヴィーに似合うと思うんだ。どうか受け取ってくれないか?」
「…ありがたいけどさすがにこれは受け取れないわ。あまりドレスや靴に詳しくない私でもこれがとても高価だっていうことは分かるわ。私がこれを受け取ってしまったらリオが想いを寄せている女性はいい気持ちはしないと思うの。だから…」
「だからこそヴィーに受け取ってほしいんだ」
「え?」
「三日後の夜会でこのドレスと靴を身に着けたヴィーをエスコートする栄誉を俺にくれないか?」
「っ!」
突然リオが跪き私の手をとった。男性にこんなことをされるのが初めての私はさすがに戸惑いを隠せない。それになぜか心臓がドキドキしている。一体私はどうしてしまったのだろうか。
「それと夜会の日、大切な話があるから聞いて欲しいんだ」
こんなに真剣な声のリオは初めてだ。それにリオのきれいな青い瞳に見つめられ目を逸らすことができない。
だから私は頷くことしかできなかった。
「…分かったわ」
「っ、ありがとう!…それとこれも受け取って欲しい」
そう言ってリオが取り出した箱には私の瞳の色と同じヴァイオレットサファイアのネックレスとイヤリングが入っていた。
「これは…ヴァイオレットサファイア?」
「ああ、ヴィーにふさわしいだろう?」
「でもこれはとてもめずらしくて高価な宝石でしょう?そんな貴重なもの…」
「ヴァイオレットサファイアには『成功』っていう言葉があるんだ。夜会の日にぴったりだと思わないか?」
たしかに夜会の日は私にとって勝負の日でもある。『成功』という意味を持つヴァイオレットサファイアはぴったりだと思うが、受け取ってしまってもいいのだろうか。
「…」
「ダメか?」
「…いえ、受け取らせてもらうわ。ありがとう」
「ああ。こちらこそありがとう」
結局私は受け取ることに決めた。なぜだかこれは受け取らなければいけないような気がしたのだ。それにこれを受け取ることで何かが変わる予感がしたから。
果たしてその予感が良いことなのか悪いことなのかは分からないが、私は自分の直感を信じることにしたのだった。