20 リオンハルト視点
しかし実際はいまだにヴィーに気持ちを伝えることができていない。俺はヘタレなのだとよく母さんに言われているが、本当のことなので反論できないでいる。
ヴィーが王妃様と会って数日後、母さんがこっそり教えてくれた。
「ヴァイオレットちゃん、ずいぶんと王妃様に気に入られたみたい。年齢が合えば第二王子のお嫁さんにとまで言われたって困っていたわよ」
たしか第二王子は九歳だったはず。第一王子は十六歳だが王太子になることが確実であり、すでに婚約者もいるから心配いらない。だがもしも第二王子が第一王子と変わらない年齢であれば、王妃様はヴィーを本気で婚約者にしたかもしれない。それだけ王妃様はヴィーの実力を買っているのだ。
平民では婚約者にすることはできないが、ヴィーは正真正銘の貴族令嬢であり正統なマクスター伯爵家の継承者である。王妃様が本気を出せばすぐにでもヴィーは貴族に戻ることになるだろう。だがさすがに第二王子は九歳なのでそんなことはしないと思うが。
「…まぁ第二王子殿下は九歳だから大丈夫だろう?」
「はぁ。リオは何をそんな悠長なこと言っているのよ。私の予想だけどおそらく近いうちにヴァイオレットちゃんは王家の夜会に招待されると思うわ。そうしたらヴァイオレットちゃんにたくさんの求婚書が届くようになるでしょうね」
「なっ…!」
「だって考えてみなさい。ヴァイオレットちゃんは今や大人気商会のオーナーよ。それにあの容姿に今は平民と言えど元伯爵令嬢。おまけに王妃様のお気に入りでうちとも関わりがあるわ。一度結婚していたとしても実際は白い結婚だもの。ヴァイオレットちゃんの価値はとてつもなく高いわ。それに気づいた目敏い者たちが、こぞってヴァイオレットちゃんを手に入れようと躍起になるでしょうね」
「そんな…」
「それにヴァイオレットちゃんも商会の利になる相手であればあっさり結婚してしまうかもしれないのよ?リオはそこをちゃんと理解しているの?告白してヴァイオレットちゃんとの関係が変わってしまうことを恐れているのでしょうけど、そんなことを言っていると今度こそ本当に取り返しの付かないことになるわよ。それでもいいの?」
「…」
母さんの言うとおりだ。俺は告白することによってヴィーとの関係が変わってしまうことを恐れているのだ。俺は彼女のことになると途端に自信がなくなってしまう。だからいつまでも彼女にとって頼れる兄を演じてしまうのだ。
だがもうそんなことを言っている場合ではない。関係が変わることを恐れている内に他の男に彼女が奪われてしまう。
俺はあの日誓ったではないか。
変化を恐れるのはもう終わりにしなければ。
そして俺は改めて誓うのだ。
ヴィーを幸せにするのは俺だ、と。