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「ヴィーの言うとおり頭の中が空っぽのやつだったな」
「でしょう?本人の性格もあるでしょうけど親が甘やかして育ててしまった結果よね。自分で考えるってことができないんだもの」
「そうだな。…はぁ、俺はあんなやつに嫉妬していたのか」
「リオ、どうしたの?」
「いやヴィーがあんなやつを好きになるはずはないなって思ってな、はははっ!」
「まだ言っているの?あり得ないわよ。私の好みは仕事ができるお金持ちだもの」
「…なぁそれって俺も当てはまるよな?」
「言われてみればたしかにそうね。リオの仕事は完璧だしベル商会の商会長でグレイル公爵家の次男だからお金持ちだわ」
「だろ?それなら俺なんてどうだ?」
「どうだ、ってリオにはずっと一途に想い続けている人がいるじゃない。私は人の恋路を邪魔するようなことはしない主義なの」
リオはたしかに私の好みに合致するが今までそのような対象として見たことがない。それにましてや好きな人がいる人を好きになるなんて時間の無駄だ。もしもリオに好きな人がいなければ将来のパートナーとして最高だとは思うが。
「…リオンハルト様。余計なお世話かもしれませんが、このままではいつまで経ってもお嬢様に伝わりませんよ」
「…俺も今ものすごく実感しているところだ」
「…でしたらきちんと言葉にして伝えてください。そうすればお嬢様でも意識されるはずです。うじうじ悩んでいる間に他の殿方に掻っ攫われても知りませんよ」
「…そうだよな。いい加減気持ちを伝えないとダメだよな…」
「ねぇ、二人とも。さっきから何をこそこそ話しているの?」
「な、なんでもないぞ」
「うふふ、なんでもございませんわ」
「そう?それならいいけど。あ、この後は工房の責任者を任せる予定の者がここに来るから一緒に打ち合わせをお願い」
「あ、ああ、分かった。というかいつの間にそんな人材を見つけたんだ?」
「元々ここの家令だった人なの。優秀だから私が家を出る前にベル商会で働かないかって声をかけたのよ」
「そんなやつを雇って大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。先代侯爵には忠誠を誓っていたようだけど、その息子であるあの男に対しては忠誠なんてなかったもの。あくまで彼の忠誠は先代侯爵のみ。だけどその侯爵はもうこの世にいないからって私が家を出た次の日にはさっさとここを辞めてベル商会で働き始めているくらいよ」
家令は先代侯爵に忠誠を誓っていたのであの屋敷で私の味方だったわけではない。しかし先代が亡くなった後、あの男が仕事を全くしなかったので私と家令でなんとか仕事をこなしていたのだ。その時の仕事振りを見て私から声をかけたというわけだ。
「案外現実的なやつなんだな」
「まぁ忠誠でお腹は満たされないもの。それに養う家族がいればなおさらよ」
「それもそうか」
「私を裏切ることはないと思うけど、リオの目でも彼を見極めてもらえるかしら」
「分かった。任せておけ」
「よろしくね」
それから私たちはあの頭空っぽ男のことなどきれいさっぱり忘れ、工房建設の打ち合わせに臨んだ。元家令はリオのお眼鏡にも適い、工房の責任者となることが決定した。
こうして私たちは無事にやることを全て終え、王都へと帰ったのであった。