13 モーリス視点
俺はあまりの衝撃にあの後どのようにして自分の部屋に戻ったのか覚えていない。
(あの女がいたから侯爵家は持ちこたえていた…?い、いや、そんなことあり得ない!あの女に何ができるっていうんだ?それにあの女にできるなら俺にだってできるはずだ!侯爵は俺なんだから!)
俺は急ぎ執務室に駆け込み仕事に取りかかろうとした。さすがにこのままではまずい。まずは使用人を雇うために金の計算をしなければと思い一番近くにあった書類を手に取った。
「俺にかかればこんな書類なんてあっという間に…は?な、なんだこれは…」
その書類はおびただしい数字が並んだ請求書であった。俺は近くにある書類を次々に手にするが全て請求書だ。しかもこの請求書の中身には心当たりがある。
「エリザに買ってやった服や宝石の…?」
徐々に血の気が引いていくのが分かる。使用人の給金が払えないというのにこんな大金払えるわけない。
(まずいまずいまずい!このままじゃ侯爵家が終わってしまう!そうしたら俺は平民に…い、嫌だ!)
俺は手に持っていた請求書の束を投げ捨て執務室から飛び出した。向かう先はエリザの部屋だ。
――バンッ!
「エリザ!」
「きゃっ!び、びっくりした~!モーリス様、恐い顔していきなりどうしたの?」
俺はエリザの言葉など無視しまっすぐクローゼットへと足を進めた。そしてクローゼットの扉を開け、その中にある色とりどりの服を取り出していく。
「ちょ、ちょっと!やめて!これは私のものよ!」
「っ、くそ!これじゃあ売っても大した金にはならないじゃないか!」
エリザが何か言っているが俺の耳には入ってこない。俺は次に宝石箱に手を伸ばそうとしたが、エリザが先に箱を抱え込んでしまった。
「エリザ!その箱を渡すんだ!」
「い、嫌よ!これは私のものなのよ!それに服も売るなんて絶対ダメなんだから!」
「そんなこと言っている場合じゃないんだぞ!?金が払えなければ侯爵家は終わりなんだよ!」
「えっ?それってどういう…」
「あの女がいなくなって清々したっていうのになんでこんなことに…!」
「モ、モーリス様落ち着いて!モーリス様は今すごく混乱しているのよ!だからそう言う時は一回落ち着くことが大切だって聞いたことあるわ!そうすればいい考えが思いつくからって!」
「…本当か?」
「ほ、本当よ!私がモーリス様に嘘をついたことあった?」
「…そうだな。うん、そうだよな…。…すまない。どうやら俺はすごく混乱していたようだ。エリザの大切なものを売ろうとしていたなんて…」
「ううん!私なら大丈夫!さぁ今日はもう横になった方がいいんじゃない?顔色も悪いようだしさ。でも安心して!モーリス様が寝るまで私がそばにいるから!」
「エリザ…!やはり俺には君だけだ」
俺はそのままエリザに手を引かれ寝室へと誘われた。ベッドに横になると先ほどまでの出来事に疲れていたようで、あっという間に眠りに落ちていったのだった。
そしてそれが最後に見たエリザの姿であった。エリザは服と宝石を持てるだけ持ってこの屋敷から逃げ出していたのだ。
それからは坂を転がり落ちるように状況はどんどん悪化していき、数ヵ月後にはラシェル侯爵家は没落したのだった。
俺はその後平民となりその日暮らしを余儀なくされた。そんなある日、ラシェル侯爵邸に買い手がつくという話を耳にした。
(あの家も土地も俺の物!それなら売った金も俺の物だ!はははっ!これでこの生活ともおさらばだっ!)
俺は大金に囲まれる日を夢見ながら侯爵邸を買った人物が近いうちに訪れるであろうと予想し、侯爵邸の近くでこっそりと待ち続けるのであった。




