おうじさまのゆめ
遠いむかしのお話です。
とある国にとても美しい王子様がいました。
どんな女性も恋に落ちずにはいられない―――…そんな魔法をかけられているかのよう、彼の元へは多くの女性が押しかけて来ました。
―――そう、どんな女性でも。
ある日、彼はとなりの国の王さまの結婚パーティーに呼ばれることになりました。
パーティ会場に現れた王子を見て、となりの国の王さまと結婚するはずだった女性までもが彼のことを愛してしまうのです。
パーティも終わり、星がたくさんきらめく夜の頃、王子は女性に呼び出されました。
女性は言います。
秘密の恋人になってほしい。出来ぬなら小国である其方の国を我が国が攻め滅ぼすことになりますよ――、と。
王子は答えます。
それは出来ません。この国の王を裏切り、この国の民たちを欺くことこそ我が国を滅ぼす愚行です。
そんなことが不可能なことはあなたも分かっているのでしょう―――、と。
その足で会場を後にする彼の背に、崩れ泣く女性の声が聴こえます。
悔しい、悔しい―――…と咽び泣く彼女が王子の背に向けて呪いの言葉を言いました。
私を惨めにさせても美しい貴方が憎い、呪われし悪魔の子よ。其方が死ぬまで私は其方を呪い続けます――。
その言葉を一笑に付し、王子は自分の国へと帰ってゆきました。
やがて、彼に求愛を断れたとなりの国のお妃様は食事も摂らず誰かと喋ることもなく、静かに息を引き取ったと風の噂で耳にします。
また私は女性の人生を狂わせてしまったのか―――。
王子は一人で思い悩みました。
私が野獣のように醜いせいで―――。
そんな王子の心も知らず、となりの国の王さまは良くない噂を耳にします。
王妃さまは隣国の王子に辱められた。彼が王妃さまを殺したのだ。あの王子はいつも女性をはべらせては無理やり手篭めにすると聞く―――、根も葉もない噂も多く、彼の人間性を知る王さまはそんな噂を鼻で笑い、耳を傾けようとしませんでした。
見ていた者が居たいう話を聞くまでは―――……。
ここで見ていた女性の種明かしをしましょう。
彼女は復讐の女神。王妃さまの恨み言を聞き、あの日二人の掛け合いの場にやって来ました。
こいつは面白いものを見せてもらった―――、女神である彼女は大層愉快に笑い転げながら王妃さまと約束を交わします。
お前さんの美しい声を私におくれ。そうしたら、あの男に復讐をしてやろうではないか――、その言葉に王妃さまはこくりと頷き、喉を取られて喋れなくなりました。
声を失った代わりに王子への復讐を誓った言葉を書き連ねて王妃さまは死んだのです。
女神は証拠だ―――と、王さまにその手紙を渡します。
そんなことは有り得ない。王さまは彼女を突き返しました。
それから毎晩王さまの耳元で声が聞こえます。
寝ている彼の耳元で彼女の声がするのです。
仇をとって、仇をとって―――…悪夢にうなされた王さまは次第にやつれ、目の色が変わっていきました。
やっぱり星がきらめく美しい夜。
暗い夜の中に掲げられた剣の白銀美しい切っ先が光ります。
石畳を叩く甲冑の音と共に、すっかり噂の蔓延していたとなりの国で声が響きます。
王妃の敵、お妃様の敵―――……。
やれ、討たん。野獣のような悪魔の王子―――……。
火の手が上がる自分の国を見て、王子はぼう然とします。
赤くなる地平線を白煙と黒煙が押し潰し、民達の悲鳴は彼の全てを奪い去っていったのです。
まるで足元から崩れ落ちるような感覚に王子はうなだれ、膝をつき、涙も出ないくらいの悲しみの中へ身を投げ出しました。
さてはて、これはどちらが呪いで、どこから呪いだったのでしょうか?
今となっては知る人などもういないのです。
そう、これは遠いむかしのお話なのですから。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――
―――
ウトウトとする美しき我が子に美しい声をした女性が物語を語り聞かせる、よくあるそんなお話でした。
ハジメマシテ な コンニチハ!
高原 律月です!
今回は公式企画もの「冬の童話2024」ということで執筆者させていただきました!!
連載あるのに何してるんだか……なんですが、意外とこの企画が好きなんです(笑)
「ゆめのなか」と「童話」っていう世界観の中でどこまで何が出来るかを考えてみました。
今回の趣旨は話の本筋よりも、「ゆめのなか」というワードの回収がメインになっていたりもします。
「夢」って、寝ていて見る夢も将来を思い描くことも感情に思いふけることも全て引っくるめて「夢」になるじゃないですか?
そこに「童話」という曖昧な世界観が混ざることで、訳分からんくらいにごちゃごちゃな世界が出来上がったりしちゃうんですよね〜。
童話といえば、分かりやすく簡潔な話ってイメージをされやすいかもしれないですが、子供の方が存外色々な角度から物事を見てたりしますし、時代を遡ればアンデルセンやグリムなんかも意外とディープな世界観だったりもしますよね?
私個人としては、アンデルセンやグリムなんかってある種そのようなメッセージを込めてるような気もしますしー、意外と大人になると見落としがちなことってあるのかもしれませんね(笑)
まあ、ごちゃごちゃと話しすぎてしまいましたがこれはどちらかといえば実験作的な意味合いが強くてですね、あらすじはあのように挑発的なものになってしまいました:( ;´꒳`;)
この物語を読んで気にしてほしいキーワードはあらすじにもありますように「解釈」です。
こちらを使えば、結末が……うーんと……多分、10分岐はすると思います(もちょいあるかも?)
説明の少ないところはお好きに解釈してもらえば、それくらいにはなるんじゃないかと?
私の思いつくところでは、メリバ・普通のハッピーエンド・ざまぁ・悲恋・虐殺エンド・英雄譚・タイムリープ・夢オチ・夢を使った導入・陰謀や計略によるバッドエンドetc...あると思います。
(やべぇ、けっこー苦しいし広義だと意味合いが重複しとるのも出てきてるな笑)
ということで、読み手に全てをお任せした無責任仕様となっております。
何度かループすれば、人それぞれで納得することが出来るんじゃないかな?と思ってます。
視点をどこに置いたか?が重要なポイントになると思うのでよろしければ是非に!!
いちお、ふつーの童話も考えてますが11日までに間に合うかが分からないのでとりあえずこちらを上げさせてもらいます。
他に意識してる点をあえて言うなれば、一応たかーら的には短編は原則原稿用紙5以内って感じですね。
どれだけ文字を削れるかの引き算なのでかなり情報量がギリです(笑)
それでは、また次回〜 ノシ