2
私の幼馴染の大神はちょっと怖い。
初めて怖いなと思ったのは小学生の時、たしか6年生ぐらいだったかな?
羽衣天女の伝説が地元にあって、その話を聞いた大神の言葉が頭からいまだに離れない。
ちなみに天女伝説とは、天から舞い降りてきた天女に一目惚れした男がその羽衣を隠して天女を帰れなくしてしまい、そこで天女と家庭を作り子もできるが天女に羽衣を隠してたのがバレてしまい、天女は天に帰ってしまうという話である。
「天女の羽衣を隠すんじゃなくて燃やせば良かったのに…」
「へ?」
「そうしたら、天女も何も知らずに幸せだったし、男だって天女を逃さずにすんだのに…馬鹿だね」
「でも、後ろめたくない?ずっと悪い事して秘密にしてるのってさ」
「そうかな?秘密が無くなっちゃえば、秘密じゃないし何も気にしなくていいじゃん」
「んー、そうかなぁ?」
「そうだよ、天の世界がどんだけ恋しくて幸せだったか知らないけど…男と別れる時悲しんでいたなら天女にとって地上は悪くない世界だったって事でしょ?なら、そこでも幸せになれたはずなのに…余計な事さえなければ幸せだったろうにって俺は思うな」
「知らなければか…まぁ知らぬが仏ってやつ?」
「そんな感じ」
まだ、可愛らしさの残る綺麗な大神の表情がその時は凄く大人びていていて、私は彼の視線が怖かった事を覚えている。
彼の深淵を覗いてしまったような気持ちになった。
中学になってからは、お互いに同性の友達もできたり大神は勉強で忙しいのもあって疎遠になった。
けど、卒業式の日と最後に遊んだ日は久しぶりにあの頃みたいに遊べたな。
楽しかったし、色んな事を思い出した。
そうだったな、大神ってすました顔してる癖に意外と私のヤンチャにも付き合ってくれる。
私の後を仕方なさそうに付いてきてくれてたよな。
連絡取り合ったりもしてたけど、また疎遠になっちやって…けど、最近偶然にも再開した。
「赤狩?」
最初、こんなくっそイケメン知り合いにいないけどなと思ってネームプレートを見たら…驚いた。
大神って、あの?
その気持ちが言葉にそのまま出ていた、驚いたけど今は同僚の林さんが重傷なので取り敢えずそこを優先した。
それから、何やかんやとまた昔のように連絡取ろうってなった。
懐かしい人に会えたなぁ、本当にビックリ。
しかも本当に医者になってて凄いなぁ、私なんて中卒の作業員だし。
「珠緒ちゃーん、あのイケメンお医者と知り合いなの?凄いねぇ〜俺はあんなイケメン初めて見たよ」
「ね、昔からイケメンだったけど更にイケメンになってびっくりした」
「あっちは珠緒ちゃんに気があるかもよ?番号交換してたでしょ?」
「昔馴染みだからだよ、それに大神って律儀な奴だから番号聞いただけだよきっと」
「そんなもんかねぇ」
「林さん、いい加減にしてよ。運転してあげないよ?」
「ごめん、ごめん」
私は林さんを会社に送り、そのまま工場に向かった。
私の仕事は家具を作る会社だ。
オーダーメイドで色んな物を作っている。
「珠緒、林は大丈夫だったか?」
「はい。2週間は重いもの持てないらしいですが大丈夫らしいですよ。今は事務所に居ます」
「そうか、あいつも人騒がせだな。あんだけ道具の扱いは気をつけろと言ってるのに」
親方はため息を吐いた。林さんは腕は良いのにおっちょこちょいだからなぁ。
その日、仕事が終わり家路につくとスマホがなる。
「ん?大神?…もしもし?」
『あ、赤狩さん』
「うん、そうだよ。どうしたの?」
『早速、遊ぶ約束してくれるかなって…ごめんね』
「何で謝るの、アハハ。そうだなぁ、日曜が休みなんだけど…大神は?」
『日曜は、大丈夫』
「本当?じゃ、日曜にね。何時にしよっか?」
『11時でもいいかな?お昼一緒に食べたい』
「うん、いいよ。じゃ、日曜にね」
大神と遊ぶの久しぶりだなぁ、何しよう。
子供の頃と同じ様な遊びはできないし…まぁ、大神に会ってからでいっか。
そうして日曜、大神との待ち合わせで私は大神に声をかけるか迷っていた。
「お兄さん、一緒に遊びませんか?」
「番号教えてくださぁ〜い」
「お兄さん、本当にイケメン!一緒に遊びたい!」
と女の子3人に囲まれている。うわぁ…どうしよう。
大神は目に入ってないのかシカトし続けている、なのにお姉さん達は話しかけ続けている。
私は気まずくて、遠くで見ていたら大神が私に気づいて駆け寄って来てくれた。
「赤狩さん!良かった、来てくれた」
「あ、うん…」
私がきまずそうに言うと、女の子たちは
「何あれー、あの子ダサくない?」
「え?何あの格好」
「少年かよ、何あの組み合わせ。しかもスッピン?ないわぁー」
年代物の色褪せスキニーデニムに、適当なシャツに、お気に入りのハイカットスニーカーとキャップとリュックサック…、本当だ少年みたいな格好だ。
あのお姉さん達みたいにオシャレじゃない…。いつも適当に着てるから何も考えてなかったな。
大神に恥ずかしい思いさせちゃうな…。
「あ、ごめんね。何か…」
私はどうして良いか分からなくて恥ずかしくなり大神と距離を取る。
「…赤狩さん、行こう?」
大神は私の手を引いてくれた、
「気にしなくて良いよ、赤狩さんの方がずーっと可愛いから。アイツ等香水くさいし、化粧崩れて毛穴目立ってたし、無駄な露出してるけど似合ってないし」
「お、大神。言いすぎだよ」
「赤狩さんは優しいな、本当に性格悪いと顔に出るんだろうね。あの人達みたいに」
と大神がフォローしてくれた、いいやつだ。
ただあの逆ナン女達は怒った顔で私を見てる。
私何にもしてないだろ、意味わからん。
それから、二人で歩き出して改めて大神を見ると…カッコいい。
どっかの雑誌から出てきたモデルみたいだ、手脚長っ!背がでか!顔をちっさ!
イケメン過ぎて、側に歩けない。
「赤狩は何が好き?」
「何でも…そんな好き嫌いないし」
「なら、俺の好きな所で大丈夫?」
「え?うん…」
そこは、カジュアルなイタリアンでパスタの麺に拘っているらしい。
「ここなんだけど」
「いいよ!行こう!」
それから二人で食事をして、会話を楽しんだ。
近況報告とか、これまでの事を沢山話した。
二人でブラブラしながら楽しく過ごしていた。
「赤狩さん、また俺と遊んでくれる?」
「え?うん。いいよ、大神が忙しくなければ。お医者さんって忙しいでしょ?」
「まぁ、そうなんだけどさ。これからは誰にも気兼ねせず赤狩さんに会えるから嬉しくて」
「そうだね、お互いもう大人だもんね。大神の母ちゃんの事気にしないで遊べるもんね」
「うん、確かに…」
「あ、ごめん。大神の親なのに…」
「いいんだよ、全然帰ってないし。帰る気もないし」
「…そうなんだ」
「赤狩さんは地元には帰らないの?」
「あぁー、あの家お父さんが亡くなってからやっぱりローン払い続けるの厳しくて、弟の大学進学の時に売ったんだよ。今は誰か違う人が住んでる」
「そうだったんだ」
「母さんも、弟に付いて行ったから私は今は自由なんだ。もう弟の学費気にしなくてもいいし」
「良かったね」
「うん」
「ねぇ、赤狩さん」
「なに?」
「…珠緒って呼んでもいいかな?」
「別にいいけど」
「俺の事も大神じゃなくて、朔之介って呼んでくれる?」
「うん、いいよ。何か馴れないけど朔之介ね」
「うん、珠緒」
本当に嬉しそうに笑うから、私も釣られて笑ってしまう。
それから、二人で夕食も食べて送ってもらうことになった。
「珠緒はここら辺なんだね。俺も近いよ」
「そうなんだ、じゃ何かあったら助け合えるね。同じ同郷同士さ」
「うん、困ったことがあれば何でも言ってよ。珠緒のためなら何でもしてあげるよ」
「本当にー?大変なことお願いしちゃうかもよ?」
「それでもいいよ」
急に真剣な顔になるのでおや?と思い私は目をそらした。
彼の深淵は覗かない方がいい…きっと。
その真剣な目線を見たら逃げられない気がする。
朔之介は嫌いじゃないけど、やっぱり少し怖い。
「それじゃ、また連絡するね」
「うん、おやすみ。ありがとう朔之介」
「おやすみ、珠緒」
朔之介は綺麗な顔を突然近づけて私の額に口づけた。
それから頭を撫でて
「またね」
と去っていく…、前までこんな大胆な奴だっただろうか?
大人になって変わった朔之介に私は戸惑っていた。